2023年11月30日木曜日

人間一生胸算用 その10

P3P4 国立国会図書館蔵

P3

(読み)

此 無二郎 といふハ

このむじろうというは


いま多゛廿   二三 尓て

いまだ にじゅうにさんにて


とし和可奈れども

としわかなれども


志゛川ていなる生 れ

じ っていなるうまれ


尓天奈里尓毛

にてなりにも


ふり尓も可まハ須

ふりにもかまわず


あさゆふそろ

あさゆうそろ


者゛んを者奈

ば んをはな


さ須゛よく可せぐむすこ奈り

さず よくかせぐむすこなり

(大意)

この無二郎というものは、いまだ二十二、三歳で

年若いが、生まれつき実直で身なりも気にせず、

朝から晩まで算盤をはなさず、よく稼ぐ息子であった。

(補足)

「廿二三」、これで二十二、三。十に縦棒一本加えて廿、さらに一本加えて卅。

「尓天奈里尓毛」、変体仮名六連発。

 帳場に座る無二郎、「奈里尓毛ふり尓も可まハ須」どころではなく、髪は結い髪したばかり、髭もきれいにあたって、眉も整え、着物も着こなし、羽織の結び目まで氣を使っているおしゃれ若旦那であります。

 

2023年11月29日水曜日

人間一生胸算用 その9

P3P4 国立国会図書館蔵

P4

(読み)

ごぜへせ う今 可らぐ川と

ごぜえしょういまからぐっと


とび出しハ於もくろ山 の

とびだしはおもくろやまの


むらつ者゛め

むらつば め


柳  者し尓

やなぎばしに


さい王い

さいわい


や川

やつ


可れ

がれ


奈じ

なじ




舟 やど

ふなやど


もあれバ

もあれば


サア\/すぐいき

さあさあすぐいき


\/とせり多つ

いきとせりたつ


連バ善 多満しゐ

ればぜんたましい


イヤ\/ふ年も

いやいやふねも


へち

へち


まも

まも


いらぬと

いらぬと


ひとこゑ

ひとこえ


のりものこれへと

のりものこれへと


与へハ一ツへんのく毛於こり

よべばいっぺんのくもおこり


善 多満しゐと京  伝 を

ぜんたましいときょうでんを


のせどこへ行 可と思 つ多ら

のせどこへゆくかとおもったら


京  伝 可゛東  と奈りのうとく

きょうでんが ひがしとなりのうとく


なるあきんど無名(むめい)や

なるあきんど   むめい や


無(む)次郎 可゛家 尓来 り个れども

  む じろうが いえにきたりけれども


多れあつて志るもの奈し

だれあってしるものなし

(大意)

(「こりゃあ行くほうで)ございやしょう。今からぐっとくり出せば

おもくろ山の群燕。柳橋に幸いわたしの馴染みの舟宿もあるので、

さあさあすぐ行きましょう行きましょう」とせかせると、

善魂「いやいや舟もヘチマもいらぬ」と一声、

「のりものをこれへ」と呼ぶと、一片の雲が起こり、

善魂と京伝をのせ、どこへ行くかとおもったら、

京伝の東隣の裕福な商人無名屋無次郎の家に来たのだが、

誰にも知られることはなかった。

(補足)

「於もくろ山のむらつ者゛め」、面白いの意味の洒落。

「舟やど」、於やど?かとおもってよくみると「舟」でした。

「ひとこゑ」、「と」と「こ」のつながりがよくわかりません。

「へちまも」「のりもの」「く毛」、「も」のかたちがみなことなります。

 善魂は天狗の羽うちわならぬ軍配をもっています。

 

2023年11月28日火曜日

人間一生胸算用 その8

P3P4 国立国会図書館蔵

P3

(読み)

京  伝 ハ

きょうでんは


きのつまつ

きのつまっ


多於もし

たおもし


ろくも

ろくも


袮へ王る

ねえわる


な可゛き

なが き


可う

こう


しやく

しゃく


をきゝ

をきき


大 き尓

おおきに


うち

うち


志びり

しびり


をきらし

をきらし


てゐ多り

ていたり


し可゛

しが


可う

こう


しやく

しゃく


於ハり

おわり


ぜん


多満

たま




もうし


个るハ

けるは


なん



いま


可らつ連て行く所  可゛ある可行 て

からつれてゆくところが あるがいって


ミるきハなし可奈どゝいふ

みるきはなしかなどという


由へこいつ与しハらへでも行

ゆえこいつよしわらへでもゆく


口 ぶりまんざらでもねへと

くちぶりまんざらでもねえと


思 ひ古里やアいゝ本う天゛

おもいこりゃあいいほうで

(大意)

 京伝は堅苦しい面白くもない退屈な長講釈を聞き、

まったくウンザリとしていたが、講釈が終わると、

善魂が声をかけてきた。

「今から連れてゆきたい所があるが、どうだ行ってみるか?」などと

言ってくるので、こいつあ吉原でも行く口ぶり、まんざらでもねぇと

思い、「こりゃあ行くほうで(ございやしょう。」)

(補足)

 帳場の帳場格子をすかしての描きこみがねんがいっています。格子そのものも柵の一本一本がなんともていねい。そして帳箱の文字や5つ玉の算盤も手を抜くことなく仕上げています。

 また、無次郎のうしろの上下二段の引き戸の物入れもしっかりとした豪華なもので、これまた指物師に手渡す見取り図のように正確です。

 絵師は作者京伝自身ですから、几帳面というか、とてもこだわりの強い性格の持ち主のようなきがします。

「な可゛き可うしやく」、「な」はほとんどが変体仮名「奈」ですが、たまに平仮名「な」をみるとホッとします。

 

2023年11月27日月曜日

人間一生胸算用 その7

P1P2 国立国会図書館蔵

P1

(読み)

〽京  伝 多ゞ御もつとも\/   と

 きょうでんただごもっともごもっともと


あハせ天ゐる

あわせている


「こゝハさしづめ

 ここはさしずめ


者゛いやきミせのいひ多て奈ら

ば いやくみせのいいたてなら


志んのうの人 形  と

しんのうのにんぎょうと


いふ者゛奈れと

いうば なれど


それでハ

それでは


あんまり

あんまり


いろけ可゛ない可ら

いろけが ないから


志んのうの

しんのうの


め う多゛い尓

みょうだ いに


志んぞうと

しんぞうと


志やれ多の多

しゃれたのだ

(大意)

「京伝はただ、ごもっともごもっともと合わせている。

「ここはさしずめ、薬屋の客寄せ売り込みなら、神農の人形を使うところだが、

それではあんまり色気がないから、神農の代わりに新造(若い遊女)で洒落たのだ。

(補足)

「神農の人形」、人体のツボや経絡をしるした裸の人形。神農は漢方医薬の神様。現在でも薬局の店頭に飾ってあることがあります。

 こんなにきれいな新造さんが神農の名代なら、善魂のせっかくの講釈も京伝はこれっぽちも頭に入らいないとおもいます。

 

2023年11月26日日曜日

人間一生胸算用 その6

P1P2 国立国会図書館蔵

P2

(読み)

◯心  こそ心

 こころこそこころ


まよハ須

まよはす


心  奈り

こころなり


◯心  多゛尓まことのミち尓可奈ひ奈ハといふ

 こころだ にまことのみちにかないなはという


神詠(しんゑい)を思 ふ尓つけと可く大 事奈

   しんえい をおもうにつけとかくだいじな


ものハ心  じや

ものはこころじゃ


「大 事奈こゝろ本ん多゛ハら

 だいじなこころほんだ わら


奈どゝ王るひぢ口 を

などとわるいじぐちを


いふ奈ども

いうなども


や川ハり心  の志王ざじや

やっぱりこころのしわざじゃ

(大意)

『心こそ心迷わす心なり』。

『心だに誠の道にかないなば』という菅原道真公御神詠の歌にもあるように、とかく大事なものは心じゃ。」

「大事な心ほんだわら」などと悪いダジャレを云うのも、やっぱり心の仕業じゃ。

(補足)

『鴨長明四季物語』に「心だに誠の道にかないなば祈らずとても神や守らん」の歌は北野神詠(菅原道真の歌)としてみえると、ものの本にはありました。

「本ん多゛ハら」、「本当だから」を海藻の「ホンダワラ」にひっかけた洒落。

「心」は筆を運ぶときに横の動きを意識しますが、そのくずし字はむしろ縦方向になります。

 

2023年11月25日土曜日

人間一生胸算用 その5

P1P2 国立国会図書館蔵

P2

(読み)

本とけもうまれ又 於尓も

ほとけもうまれまたおにも


てんぐもうまれるかてん可\/  と

てんぐもうまれるがてんかがてんかと


古風 奈せりふ尓て

こふうなせりふにて


博物志(者くふ川し)尓いふ土肉川脈(ど尓くせんミやく)の

    はくぶつし にいう     どにくせんみゃく の


引くり可へしをいひき可せる

ひくりかえしをいいきかせる


「◯老子(ロウシ)ハ聖人(セイシン)虛₂(キヨニス)其心₁(ソノコゝロヲ)ト書

     ろうし は   せいじん    きょにす    そのこころを  とかき


◯大學(タイカク)ニハ先(マツ)正₂(タゝシフス)其心₁(ソノコゝロヲ)ト書

    だいがく  には   まず    ただしうす        そのこころを とかく


◯華厳經(ケゴンキヤウ)ニハ

     けごんきょう には


唯(ユイ)一 心 と説(トキ)テ

  ゆい いつしんと  とき て

(大意)

仏も生まれ、また鬼も天狗も生まれる。合点か合点か」と

古めかしい言い回しで、「博物誌」の説明にあった「土は肉、川は脈」の逆を

言って聞かせた。

 京伝はただ「ごもっともごもっとも」と合わせていた。

「老師は『聖人は其の心を虛にす』と書き

大学には『まず其の心を正しうす』と書き

華厳經には『唯一心』と説いて、

(補足)

「博」の旁のくずし字は「寺」のくずし字とにています。「ち」と「る」が合体したようなかたち。

「土肉川脈」などという四字熟語はなく、博物誌では大地を人にたとえ「石為之骨 川為之脈 草木為之毛 土為之肉」からとったもの。

 大地を人にたとえる講釈は、とても腑に落ちるものであります。宇宙の神秘はそのまま人体のまた生きとし生けるものの不思議さにつながります。

 

2023年11月24日金曜日

人間一生胸算用 その4

P1P2 国立国会図書館蔵

P1

(読み)

毛のいふハ雷(らい)の者つする可゛

ものいうは  らい のはっするが


ことく可ら多゛尓生(せ うず)る

ごとくからだ に  しょうず る


のミ志らミハとりけ多゛もの

のみしらみはとりけだ もの


の生  ずると同 じどうり

のしょうずるとおなじどうり


それじや尓よ川天ま多ぐらの

それじゃによってまたぐらの


谷(多尓)あい尓ハまつ多けも志やうじ

  たに あいにはまつたけもしょうじ


遍その下 のうミべ尓ハあ可かいも

へそのしたのうみべにはあかがいも


うまるゝて奈い可そのうち

うまるるでないかそのうち


心  といふものハ天 地ぞうくハの

こころというものはてんちぞうか の


神 尓飛としくこのものゝ

かみにひとしくこのものの


里やうけん志だひ尓てせいしんや

りょうけんしだいにてせいじんや

(大意)

言葉は雷の発するがごとく、体に生ずる蚤虱(のみしらみ)は、鳥獣に生ずるのとおなじ道理である。それじゃによって、股ぐらの谷あいには松茸も生じ、臍の下の海辺には赤貝も埋まっているではないか。それらのなかでも、心というものは、天地造化の神に等しく、このものの考え次第で、聖人や(仏(ほとけ)も生まれ)

(補足)

変体仮名「毛」(も)この一文字だけを読むとなるとわからなさそう。

変体仮名「遍」(へ)は特徴的なのでおぼえやすい。

「あ可かいもうまるゝ」、「生まる」が適当なのでしょうけど「海辺に赤貝が埋まる」のほうが真面目な講釈のなかでちょっとニヤリとできます。

「心」のくずし字と、次の行の変体仮名「飛」(ひ)がにてます。どこにちがいがあるかというと、さがしてみてください。

「せいしんや」、「精神」としてしまいそうですが、読みすすめれば「聖人」とわかります。

 

2023年11月23日木曜日

人間一生胸算用 その3

P1P2 国立国会図書館蔵

P1

(読み)

ある時 京  傳 うか\/と

あるとききょうでんうかうかと


艸庵(そうあん)を多ち出 いづく共

   そうあん をたちいでいずくとも


奈く行个る可゛思 ハ須゛善魂(ぜん多ましゐ)の

なくゆけるが おもはず    ぜんたましい の


かくれ可゛へ来 り人 間 の可ら多゛の

かくれが へきたりにんげんのからだ の


可う志やくをきく

こうしゃくをきく


〽それ人 間 のから多ハ天 地の小 サき

 それにんげんのからだはてんちのちいさき


やふ奈ものじやす奈者ち二 ツの

ようなものじゃすなわちふたつの


目ハ日 月 のごとく肉(尓く)ハ土 尓ひとしく

めはにちげつのごとく  にく はつちにひとしく


本年ハ岩 石 のごとく血(ち)は水 尓て

ほねはがんせきのごとく  ち はみずにて


脈(ミやく)ハ水 のさし引 尓飛としく

  みゃく はみずのさいひきにひとしく


毛(け)や爪(つめ)ハ艸 木尓天つくいきと

  け や  つめ はくさきにてつくいきと


飛る屁(へ)ハ風 のごとく奈ミ多゛と

ひる  へ はかぜのごとくなみだ と


小  へんハあめ尓飛としく

しょうべんはあめにひとしく

(大意)

 あるとき、京伝はウキウキして草庵からどこへともなく

出かけたところ、おもいもせず善魂の隠れ家を訪れ、

人間の体の講釈を聞くこととなった。

「そもそも人間の体は、天地創造の世界を小さなものにしたようなものじゃ。

すなわち、二つの目は日月のごとく、肉は土にひとしく、骨は岩石のごとく、

血は水にて、脈は水の干満にひとしく、毛や爪は草木にて、呼吸と屁は

風のごとく、涙と小便は雨にひとしく

(補足)

 講釈する善魂のからだは、腹が少々でて肉付きもよくいたって健康そう、作者の京伝のほうがほそくてちとみすぼらしい。

「共」のくずし字はよくでてきます。

「行」のくずし字は元字の名残が残っていて覚えやすいのですが、このくずし字はなんだっけと悩むこともおおいです。

「ごとく」、「ごと」が合字(二文字で一文字)になっています。

「水」のくずし字はとても特徴的で基本のくずし字。

 

2023年11月22日水曜日

人間一生胸算用 その2

口上 国立国会図書館蔵

(読み)

入 まする此 艸紙(さうし)ハ老子(ろうし)不言(ふ个゛ん)の

いれまするこの   そうし は   ろうし    ふげ ん の


教(おしへ)尓孔子(こうし)のべ川多りとい多したる

  おしえ に   こうし のべったりといたしたる


志めしをく王へ荘司(そうじ)の寓言(くう个ん)尓

しめしをくわへ   そうじ の   ぐうげん に


浮屠氏(本とけ)のまこと可ら出多方便(うそ)をとりまぜ

    ほとけ のまことからでた   うそ をとりまぜ


三 冊 津ゞきに仕   り御覧 尓入 まする

さんさつつづきにつかまつりごらんにいれまする


人魂(ひと多゛ま)の口 上  さやう[ひやうし木]チヨン\/ 

   ひとだ ま のこうじょうさよう ひょうしぎ ちょんちょん


寛 政 三 亥乃春

かんせいさんいのはる


山 東 京  傳  戯作㊞

さんとうきょうでん げさく

(大意)

 この草紙は言わずもがなの老子の教えや孔子のくどいほどの教えに加え、荘司のたとえ噺に仏教の「真からでた嘘」をとりまぜ、三冊続きにて御覧にいれまする。

人魂(ひとだま)の口上でありました。

拍子木の音ちょんちょん

寛政三 亥の春

山東京伝 戯作㊞

(補足)

「真からでた嘘」はもちろん「嘘からでた真」がもとです。でたらめなことをつらつら述べたのに、それらがまさか本当のことになって実現してしまったということですけど、この逆の「真からでた嘘」は仏教のもっともらしい教えはそれほどのものでもないという、罰あたりなことをさらりといってのけています。

 このBlogは変体仮名の学習のためでありますが、漢字のくずし字もたくさん出てきますのでついでに学んでおります。

 覧の旧字「覽」のくずし字の「見」の部分はわかりますが、その上の部分はなんとも複雑です。

「魂」は「云」「鬼」が上下になっています。偏と旁を上下にするくずし方はよくあります。

 この草紙の絵は山東京伝自身がかいています。

 

2023年11月21日火曜日

人間一生胸算用 その1

口上 国立国会図書館蔵

(読み)

口 上

こうじょう


とうざい\/  高 ふ飛可へまし多る上 奈ら須゛者多可尓て

とうざいとうざいたこうひかえましたるうえならず はだかにて


志川連いの多゛ん御ようしや下 されませ うさ天

しつれいのだ んごようしゃくだされましょうさて


きよ袮ん和多くしどもよりあつまりぶて う

きょねんわたくしどもよりあつまりぶちょう


本う奈る狂  言 とりくミ御らん尓入 まし多る所

ほうなるきょうげんとりくみごらんにいれましたるところ


ことの外 御評  者゛ん奈し下 され大 けい仕   り

ことのほかごひょうば んなしくだされたいけいつまかつり


まして御さります付 まして

ましてござりますつきまして


とう袮んもさる御飛ゐきの

とうねんもさるごひいきの


御方 さ満の御すゝめ尓より

おかたさまのおすすめにより


右後篇(こうへん)をあらハし御らん尓

みぎ  こうへん をあらわしごらんに


入 まする此 艸紙(さうし)ハ老子(ろうし)不言(ふ个゛ん)の

いれまするこの   そうし は   ろうし    ふげ ん の

(大意)

口上

 東西とうざい、高いところからだけではなく裸でのご挨拶、

何卒失礼のだんご容赦くだされませ。

 さて、去年わたくしども一丸となって下手くそな狂言を出版しました所、

ありがたくも評判となりまして、大きなよろこびでございました。

 つきましては当年もさるご贔屓の方々のお勧めにより、右後編を

出版し御覧に入れまする。

(補足)

 国立国会図書館の版は表紙がメモ書きのようになっていて、表紙ではなさそうなので省きました。なので口上からはじまります。

 昨年評判をとった狂言とは「心学早染草(しんがくはやぞめぐさ)」(寛政二年(1790)刊行)のこと、善魂と惡魂の争いを書いた。なので口上挨拶はそのときの善魂(ぜんたましい)の頭部分が善となっている。

 変体仮名「飛」(ひ)は心のくずし字ににています。

枠の上にあるしるしは版元蔦屋のもの。

 

2023年11月20日月曜日

THE MOUSE'S WEDDING その20

裏表紙 個人蔵

(読み)

?? 華邨画

(大意)

(補足)

 もう数ヶ月も悩んでいるのですが、「??」部分が読めそうで読めません。う〜〜〜ん。

ねずみがのっているのは打出の小槌。そのまわりにいろいろちらばっている中に蔵の鍵のようなものもあります。なにかを暗示しているとおもうのですが、こちらもう〜ん。

 屏風の縁の角や中央に錺金具(かざりかなぐ)が光っています。

 屏風のまわりの無地の部分が経年変化で変色してしまったのか、このような薄い色をはじめからつけていたのか、屏風の余白の白さとくらべても、どうなのでしょうか。屏風のほうは白い色を塗っているとはおもえませんし、さて・・・

 なお、ちりめん本について最近の研究成果をまとまったかたちで読むことができる資料を下記にあげておきます。

 「寄  稿

弘文社のちりめん本『欧文日本昔噺』 シリーズ誕生の背景― 長谷川武次郎・デイビッド・タムソン・小林永濯の協働 尾崎 るみ」

「寄  稿

弘文社のちりめん本『欧文日本昔噺』シリーズの形成と『西洋昔噺』シリーズの開始

尾崎 るみ」

「寄  稿

長谷川武次郎のちりめん本出版活動の展開 ――『欧文日本昔噺』シリーズが20冊に達するまで

尾崎 るみ」

 

2023年11月19日日曜日

THE MOUSE'S WEDDING その19

P19広告 個人蔵

(読み)

The Kobunsha's

Japanese Fairy Tale Series.


1.Momotaro or Little Peachling.

2.The Tongue Cut Sparrow.

3.The Battle of the Monkey and the Crab.

4.The Old Man who made the Dead Trees Blossom.

5.Kachi-Kachi Mountain.

6.The Mouses' Wedding.

7.The Old Man and the Devils.

8.Urashima, the Fisher boy.

9.The Eight-Headed Serpent.

10.The Matsuyama Mirror.

11.The Hare of Inaba.

12.The Cub's Triumph.

13.The Silly Jelly-Fish

14.The Princes Fire-Flash and Fire-Fade.

15.My Lord Bag-o'-Rice.

16.The Wooden Bowl.


Copyright Reserved.

(大意)

弘文社

日本昔噺

1.桃太郎

2.舌切雀

3.猿蟹合戦

4.花咲爺

5.カチカチ山

6.鼠の嫁入り

7.瘤取り

8.浦島太郎

9.八頭の大蛇

10.松山鏡

11.因幡の白兎

12.野干の手柄

13.海月

14.彦火火出見尊

15.俵藤太

16.鉢かづき

(補足)

 屏風に広告、おしゃれです。そして屏風の折り目をそのまま裏表紙にまわすという念の入れよう。

 この広告の内容については「国際出版の曙ー明治の欧文草双紙 アン・ヘリング」(https://www.lib.fussa.tokyo.jp/digital/digital_data/literature/pdf/0608/0001/0006.pdf)に詳しい。

  

2023年11月18日土曜日

THE MOUSE'S WEDDING その18

P18奥付 個人蔵

(読み)

明治十八年九月十八日版權免許

同   年十二月  出版御届

同 十九年九 月十日添題御届

同 廿一年八 月一日再版御届

 出版人 弘文社

     東京々橋區南佐柄

     木町二番地

     右社主東京府平民

     長谷川武次郎

     右同所

 譯述者 米國人 ダビド タムソン

     東京々橋區築地居

     留地二十三番

 印刷人 中尾獣次

     仝京橋區山下町廿

     二番地桑原活版所

(大意)

(補足)

 奥付が、すみっこにおいやられてしまったようになってしまいました。といってもこれはまだまともな奥付です。六曲一隻の屏風の四扇に広告をいれたものとそれを折り返してつづきになる裏表紙の一、二、三扇とするようにしたかったのかもしれません。

 東京女子大学比較文化研究所にちりめん本が多数あり閲覧もダウンロードもできるようになっています。ここの奥付とまったく同じ日付の出版の「鼠の嫁入り」があります。

 訳者はおなじなのですが、印刷人印刷者がことなっていておなじ版木を使っているようですがことなる摺師に摺らせたようです。

 長谷川武次郎自身が語っていることですが、当時米国から百万部もの注文があってもそれにこたえることは不可能で、米国から出版所を見学させてほしいとたのまれても、とてもじゃないけど恥ずかしくて見せることはできなかったといいます。せいぜいがんばっても二千から三千部が限度だったということです。

 こんな感じだったのだとおもいます。

 これは摺師での仕事風景ですが、ちりめん本はさらにもうひと手間掛けるわけでなおさらのこと部数を増やすことはできなかったのでしょう。

 これだけの手間ひまかけたちりめん本一冊が十銭前後で販売されていたのですから、驚かざるをえません。

 

2023年11月17日金曜日

THE MOUSE'S WEDDING その17


P18P19 個人蔵

P18

(読み)

Shortly afterwards the bride,

her husband, and his parents

visited her home. In the evening

the bride returned home with

her husband and his parents with

whom she lived in harmony,

contented, prosperous and happy,

and much to be congratulated.

(大意)

 その後まもなく、新婦と夫、彼の両親は新婦の実家を訪れました。

夕方、新婦は夫と義父母と一緒に婚家に帰りました。新婦は新しい家族とともに和やかに

満たされ豊かに幸せに暮らし、とても祝福されました。

(補足)

 右の頁に広告を一面にのせるために、奥付が本文の下段にきてしまっています。

結婚式の後に、新婦の実家に帰って無事済んだことを報告するというのは、知りませんでした。

 

2023年11月16日木曜日

THE MOUSE'S WEDDING その16

P16P17 個人蔵

P16

P17

(読み)

the bride in token of good

will and thus the union was

consummated.

(大意)

(一同は)花嫁の幸福を願い、(盃を交わしました。)

このようにして、結婚式はおひらきになりました。

(補足)

 ふすまの縁(堅縁(ドブ))に文字が重なってしまうので、consum-mated とハイフンでつなげたようです。最初 consume mated だと意味がよくわかららず、困りました。

 長谷川武次郎のちりめん本には異なる版がたくさんありそれらを調べてわかりました。

式のあとは披露宴の宴会、三味線にあわせて舞い踊り、にぎやかそうです。

 床の間の花と花瓶が、全体として鶴のように見えるのは気のせいでしょうか。

またその左側違い棚の下の飾り物は、布袋様のようにもみえますがさてさて・・・

 

2023年11月15日水曜日

THE MOUSE'S WEDDING その15

P14P15 個人蔵

P14

P15

(読み)

When this ceremony,

the "three times three"

was ended. the guest

exchanged cups with

(大意)

三々九度の儀式がおわると、一同は

(花嫁の幸福を願い、)盃を交わしました。

(補足)

 花嫁はまさにいま三々九度中・・・注いでいる首の長いものは「長柄銚子(ながえのてうし)」というのだそうです。これが提子(ひさげ)になって銚子(ちょうし)になったのでしょうか。

 襖絵は鶴、床の間には七福神の福禄寿、その左側には違い棚に婚礼の品々、地袋には富士山、と何から何までめでたずくしであります。

 一同は花嫁花婿、その両親、仲人さん。ところで花婿さんはどなたでしょうか?

 

2023年11月14日火曜日

THE MOUSE'S WEDDING その14

 

P12P13 個人蔵

P13

(読み)

Kanemochi went out as far as

the gate to meet her, and ushered

her into the parlor.

 At a signal from the go-between

the bride and bridegroom to

confirm the marriage bond, ex-

changed between themselves three

cups of sake,

drinking

three times

from

each cup

in turns.

(大意)

 カネモチは花嫁を門口までいそぎ出迎えに立ち、客間に案内しました。仲人の一声で新郎新婦は婚姻の契をかわすために三々九度の儀をとりおこないました。

(補足)

 この昔噺の訳者の「米國人 ダビド タムソン」は三々九度の内容をexchanged以下わかりやすく訳しています。その部分の挿絵は次頁。

 提灯の家紋部分を拡大すると打出の小槌みたいのがあったりしますが、ほかはわかりませんでした。緑色の箱ふたつは唐草模様の風呂敷でくるまれているようです。

 従者の列は隣に話しかけていたりよそをみていたりとチュウチュウ(忠)と声が聞こえてきそう。


2023年11月13日月曜日

THE MOUSE'S WEDDING その13

P12P13 個人蔵

P12

(読み)

Soon the bride

came

in her pal-

anquin with her

boxes carried before her,

and a long train

of

attendants

following her.

(大意)

 まもなく花嫁は輿にのってやってきました。

輿の前には長もちがあり、後ろには従者の長い列を従えていました。

(補足)

 こんな行列を見るとやはり拡大して後ろの方を確かめたくなってしまいます。身体の肉部分が少しずつ削ぎ落とされていって骨格だけになっていきますけど、行列の一員の雰囲気がのこっているのがおもしろい。

 また、色は薄いものの姿が判別しにくくなるところまでほどこしているのがすごい。

行列で印象的なのはこのあとの第7号「瘤取(THE OLD MAN & THE DEVILS)」の森の奥からあらわれる鬼の行列です。

 絵師・彫師・摺師は細かくなるところほど腕をふるいたくなるようです。

 

2023年11月12日日曜日

THE MOUSE'S WEDDING その12

P10P11 個人蔵

P10

(読み)

that she must obey her husband,

be dutiful to her father-in-law,

and love her mother-in-law.

 Kanemochi on his part cleaned

up his house inside and out,

made preparation for the marriage

ceremony and feast, assembled his

relatives and friends, and sent out

many of his servants to meet the

bride on her way, and to give

notice of her approach, that

all might be prepared for her

reception.

(大意)

 それはハツカが夫の言うことをよくきき、義父にしっかりとつかえ、

また義母を愛しなさいということでした。

 カネモチの方では、家の外も内もすっかりきれいにし、

親類や友人を招き、婚礼と披露宴の支度を整えました。

そして多くの召使いを新婦の迎えに向かわせ、新婦の到着を知らせました。

これで新婦を受け入れる準備はすべて整ったようであります。

(補足)

 鏡をのせお化粧道具の入っている道具箱は拡大してみると、きれいに全面に飾りが彫られています。ハツカが手にしている鏡も同様です。

 着物や帯の柄にしても、細かい什器にしても、とことん描けるものは描くという絵師のこだわりを感じます。

 

2023年11月11日土曜日

THE MOUSE'S WEDDING その11

P10P11 個人蔵

P10

(読み)

The parents made their

daughter Hatsuka blacken her

teeth as a sign that she would

not marry a second husband;

they also carefully taught her

(大意)

 両親は彼らの娘であるハツカの歯を黒く塗らせました。

それはハツカが再び嫁ぐことのないようにというしるしでした。

両親はまたハツカに丁寧に諭しました。

(補足)

 歯を黒くするのはもちろんお歯黒のことですが、残念ながら時代劇や映画では

やはり見栄えが悪いのでそこまではしないことのほうが多いようです。お歯黒を忠実に施した映画などもありますが、現在の感覚からしたらギョッとしてしまいます。

お歯黒は臭いもあって、見た目も臭いも明治の外国人たちにはとても不評でした。

 挿絵はハツカが母親からそのお歯黒の方法を教わっているところでしょうか。

 

2023年11月10日金曜日

THE MOUSE'S WEDDING その10

P8P9 個人蔵

P9

(読み)

a linen kami-shimo, dried bonito,

dried cuttle-fish, white flax,

sea-weed, fish, and sake;

thus confirming the marriage

promise.

 A lucky day was then chosen,

and every thing prepared for

the bride's removal to her new

home, her clothes were cut out

and made, and needed articles

purchased. So Chudayu was

kept busy preparing for the

wedding.

(大意)

それらは、麻の裃、鰹節、スルメ、白い亜麻、昆布、魚、酒で、

このようにして結納の儀はとりおこなわれました。

そして大安の日が選ばれ、新婦の新居へ向かうためのあらゆる準備が整い、

新婦の衣類は手入れをされ、必要な品々は購入しました。

そのようなことで忠太夫は婚礼の準備で忙しく過ごしました。

(補足)

 紫色の着物は、お見合いの日にハツカが着ていた振り袖のように見えます。母親が右側に裁縫箱を置き、着物の繕いをしています。その左側にあるのはなんだろうと、拡大してみたのですけどよくわからないながら、火熨斗(ひのし)、今でいうアイロンでしょうか?

 隣の間ではハツカの父親忠太夫と仲人さんが相談をしています。

 

2023年11月9日木曜日

THE MOUSE'S WEDDING その9

P6P7 個人蔵

P7

(読み)

an obi or belt, silk cotton,

dried bonito, dried cuttle fish,

white flax, sea-weed, and sake

or rice wine. The bride sent

the bridegroom in like manner:

(大意)

それらは帯(すなわちベルト)、反物、鰹節、スルメ

白い亜麻、海藻、そして酒(つまり米のワイン)でした。

花嫁方は花婿方に同様の品々を贈りました。

(補足)

「silk cotton」は反物だろうとおもいます。太物(綿織物・麻織物など)かもしれません。縁側に三段重ねになっている反物です。

 赤い樽はこの頁で大きく描かれていて、さらに拡大してみるとどうやら日本酒のようでした。角樽でないこのような背丈の低い樽もあったようです。

 日本のお祝いごとの品々はお正月の鏡餅のお飾りとおなじように、ほとんどがその品物の名前にひっかけたものですから、これらの品物にもなにか目出度いこととかかわりがあるはずです。でもここには鯛がありませんね。

 ほかの品々がありますが、なんなのか気になるところです。

 

2023年11月8日水曜日

THE MOUSE'S WEDDING その8

P6P7 個人蔵

P6

(読み)

The bridegroom sent the bride

the usual articles:

(大意)

新郎方は新婦方に日常の品々を贈りました。

(補足)

 昔噺「鼠の嫁入り」は子ども向けに婚礼の儀礼や流れを教え伝えるという側面もありました。典型的なその儀式を海外向けに紹介しているのがこのちりめん本でもあります。

 縁側では次から次へと品物が運び込まれています。

赤い桶は日本酒の入れ物ではありませんし、さて、醤油?味噌?何でしょうか?

 部屋や板戸の上部のぼかしは空間の広がりをあたえて、日本の基本的な技法です。

 

2023年11月7日火曜日

THE MOUSE'S WEDDING その7

P4P5 個人蔵

P5

(読み)

marriage.

When the young folks

were allowed to see each other,

neither party objected, and so

presents were exchanged.

(大意)

若い二人が会うことを許されたとき、どこからも反対の声はあがらず、

そうして、贈り物が交換されました。

(補足)

 ハツカの振り袖の紫色がきれいです。裏地の赤もはえてますし。目も耳も。

仲人の奥様「ハツカさん、あちらの茶屋に腰掛けている黒羽織の方が福太郎さんですよ」。

 うしろの梅の木、木札に「華邨梅」とあります。この本の絵師鈴木華邨です。華邨は著名な絵師でありながら、こうした日常の大衆的なちりめん本や料理本の口絵、各種読み物の挿絵など、こだわりなく描いた絵師でもありました。

 めでたく紅白梅にしたいところを白梅だけにして、茶屋の提灯を紅くしたのがおしゃれです。

 

2023年11月6日月曜日

THE MOUSE'S WEDDING その6

P4P5 個人蔵

P4

(読み)

with

Chudayu

respecting

the

(大意)

婚姻に向けて忠太夫と(相談をするために仲人をたてました。)

(補足)

 わずか4つの語句、それも1行1語句という体裁。隣の頁にまわす余裕は十分にあるのに、何のこだわりかわからないけれども、なんらかのこだわりがあってのことだとおもいます、う〜ん・・・

「福太郎さん、あの梅の木の下にいるのがハツカじゃ」と指差すのが仲人でしょうか。お二方ともに素敵な着物です。すぐ後ろのお茶を飲む御婦人は背中に荷物をくくりつけています、なんとも筆の細かいことです。緋毛氈の赤もきれい。