2023年8月31日木曜日

桃太郎発端話説 その8

P2P3東京都立図書館蔵

P3

(読み)

そのと奈り尓ひとの

そのとなりにひとの


せん多く奈として

せんたくなどして


ミの多つ起とする

みのたつきとする


やもめくらしの

やもめくらしの


けんどん者゛ゝあり

けんどんば ばあり


と奈りの志やうじき

となりのしょうじき


あくぬ起尓も尓ず

あくぬきにもにず


いろくろく本年

いろくろくほね


ふとくあくハ多く

ふとくあくはたく


さん尓てよくで

さんにてよくで


志めこむひ本゛可ハの

しめこむひぼ かわの


うんどんぐとん奈

うんどんぐどんな


うまれ尓てつ年尓

うまれにてつねに


和さびおろしの

わさびおろしの


め尓可ど多て

めにかどたて


いやミうらみ可゛

いやみうらみが


ゑてもの於ろし

えてものおろし


多゛いこんふと志るし

だ いこんふとしるし


とうがらしのふさ\/

とうがらしのふさふさ


し起お者ゝ尓てぞ

しきおばばにてぞ


あり个る

ありける

(大意)

 その隣に人の洗濯などをして生活しているやもめ暮らしの

強欲でケチなババアが住んでいました。

悪とは無縁な隣の正直爺とは似てもいず、色黒く骨は太く、

心は悪で沢山でした。

 欲でしめこんだ紐革(ひもかわ)のような饂飩(うどん)愚鈍の生まれで、

いつもわさびおろしの細かい目のようなことにも目くじらをたて、

嫌味や辛味がしょっちゅう口をついて出る。

目の荒い大根おろしでおろしたブツブツのおろしのように食えたもんじゃない。

唐辛子が赤い房をたくさんつけたような厚かましい、

お婆であった。

(補足)

 かすれもおおく、読めても意味がすぐにはわからないところがこれまたおおく、何度も読み返さねばなりませんでした。読めて意味がわかるところつなげていって、読めなかったところ意味が不明だったところがようやくなるほどとおもいつつ、読みすすめます。

「ミの多つ起」、「ミ」の右側に「丶」があって、「ミ」と読めませんが、前後の流れから意味として「身」の意味ですから、「丶」はまちがいか?変体仮名「身」かもしれません。

「と奈りの」、「奈」がわかりずらい。

 洗濯がババアの仕事なので、石鹸に相当する灰汁(あく)を悪(あく)にひっかけてしゃれているところが随所にあります。

 途中から調子良く講談調になります。ひもかわはもちろん饂飩の平たいもので、革の紐に、そんなものはババア同様食えたもんじゃない。

そのヒモカワを食するときの薬味にわさび、大根おろし、七味唐辛子とひっかけをつづけます。

 正直爺さん座る縁側はよくみると、縁側支えの柱が角柱ではなく細い丸太です。あまり目にしたことはありませんが、実際にあったのでしょうか。

 

2023年8月30日水曜日

桃太郎発端話説 その7

P2P3 東京都立図書館蔵

P2

(読み)

〽奈んとお者゛ゝやけのゝきゞすよる能

 なんとおば ばやけののきぎすよるの


つる者多けのさといもむつの者ら

つるはたけのさといもむつのはら


こを思 王奴ものハ奈いこちらハ

こをおもわぬものはないこちらは


古のとし尓奈つてこの奈いといふハ

このとしになってこのないというは


てんとこゝろ本゛そいことでハお志゛やら奴可

てんとこころぼ そいことではおじ ゃらぬか


〽お者゛ゝや者奈しどり

 おば ばやはなしどり


奈らバそんをして

ならばそんをして


もうつてやる可゛

もうってやるが


与いぞや

よいぞや


〽され者゛いの

 されば いの


きぢ いぬ さる

きじ いぬ さる

(大意)

「なんとものぉ、お婆よ、焼野の雉は子をかばい、夜の鶴は子をかこう、

畑の親里芋だってたくさんの子いもを養う、鯥(むつ)のハラコもそうじゃ、

子をおもわぬものはない。うちらはこの歳になって子がないというのは

なんとも心細いことじゃのぉ」

「お婆や、放し鳥ならば、損をしてもよいから売ってやるがよいぞ」

「そうするのがよかろうのぉ」

(補足)

「やけのゝきゞすよる能つる」、一読して???。読み進めると親の子を思う気持ちと表現かなと。さらに調べると辞書にありました。

『焼け野の雉(きぎす)夜の鶴(つる )

巣のある野を焼かれると雉子(きじ)は身の危険を忘れて子を救い,寒い夜,巣ごもる鶴は自分の翼で子をおおう。子を思う親の情が非常に深いたとえ。』

 じじいになっても無教養なのがなさけない。

「こを思王奴」、「思」のくずし字はよくでてきますが、ここのはさらにくずされている感じ。この行から最後まで「こ」と「て」と「と」の区別がやっかい。「てんと」の「て」が「と」にもみえて、それでも意味が通じそうです。

 いぬがニコニコとかわいらしい。鳥かごや雉の入っている檻、その上の籠のような入れ物はなんの動物をおさめるのでしょう。

 

2023年8月29日火曜日

桃太郎発端話説 その6

P2P3 東京都立図書館蔵

P2

(読み)

〽多とへのふし尓さると

 たとえのふしにさると


いぬハ奈可能和ろ起

いぬはなかのわろき


もの奈連ども志やう

ものなれどもしょう


志゛起ふう婦のとくじつ

じ きふうふのとくじつ


由ゑ尓可ハるゝものまで

ゆえにかわるるものまで


和志゛由んしてちんと

わじ ゅんしてちんと


さるハべ川して奈可

さるはべっしてなか


与くきぢ奈どハ

よくきじなどは


このうちのあひ口 奈り

このうちのあいくちなり

(大意)

 そのような生活をしていたからでしょう、猿と犬は仲の悪いものですが

正直夫婦の篤実さが、飼っているものまで仲良く暮らすことになっていって

特に犬と猿は格別仲がよく、雉などはすっかりこの家になじんでいました。

(補足)

「このうちのあひ口奈り」、「こ」と「と」は判別しにくい。「う」がかすれていてわかりずらく、またこの「う」は長細い。「口」が「に」にみえてこの行を理解するのに手間取りました。

 爺さんは擂粉木で雉の餌でもこしらえているのでしょうか。

文章にもあるとおり正直夫婦のお互いかわしあう表情も雰囲気も、篤実そのもの。

 

2023年8月28日月曜日

桃太郎発端話説 その5

P2P3 東京都立図書館蔵

P2

(読み)

話説 すむ可し\/ 能事 可と与

わせつすむかしむかしのことかとよ


ミちのく能可多保とり尓ぢゝいと

みちのくのかたほとりにじじいと


者゛ゝアとあつ多とさふう婦とも尓

ば ばあとあったとさふうふともに


ずんど志やうじ起奈ものでかり

ずんどしょうじきなものでかり


尓もあし起こゝろをも多ず

にもあしきこころをもたず


あ王れミふ可起もの奈り个る可゛

あわれみふかきものなりけるが


可いとりをあ起奈いて与王

かいとりをあきないてよわ


多りとすされど志やうある

たりとすされどしょうある


ものをやし奈ふも大 き奈る

ものをやしなうもおおきなる


つミ尓して志やう者゛いの道

つみにしてしょうば いのみち


奈らざる事 を奈げ起つ年尓

ならざることをなげきつねに


ものごと尓奈さけを可けて

ものごとになさけをかけて


くらし个る

くらしける

(大意)

 さて、昔むかしのことだったなぁ。みちのくの片田舎に

爺と婆あが住んでいたとさ。夫婦ともにとても正直で、

まちがっても悪い心を持つということはなく、憐れみ深い

ひとでありました。

 鳥を飼って売り買いする商売をして暮らしていました。

しかし、生きるものを飼ってそのようなことをするのは大きな罪であると

生きるためとはいえこの商いすることを嘆き、いつも物事に情けをかけて

暮らしておりました。

(補足)

「話説す」、辞書に『② 中国の古い口語で,物語の冒頭の「これから話を始める」「さて」などの意のことば。中国の白話小説の影響を受けた江戸時代の読本(よみほん)に「話説す」の形で用いられた。「―す。きのふは奇々怪々といふことが,目下(まのあたり)に有りやした」〈滑稽本・浮世床•2〉』とありました。

「保とり」、くずし字が「伺」のようにも変体仮名「阿」にもにています。

「こゝろを」、「こ」と「と」の区別が判別しにくい。

「可いとり」、変体仮名「可」と「う」や「ら」の区別もおなじくやっかい。

「道」のくずし字は特徴的なのでおぼえやすい。

 爺さんの左袖には「正」印、婆さんの右肩が首をかしげて悩んだすえに「善」と読めました。

この本の絵師春朗(北斎)はこのとき32歳。

 

2023年8月27日日曜日

桃太郎発端話説 その4

上P1 東京都立図書館蔵

(読み)

可くて楚゛紅粉皿闕皿(べ尓さら可けざら)乃砕(く多゛)け多るを阿川め

かくてぞ       べにさらかけざら の  くだ  けたるをあつめ


鉢被姫(者ち可つ起゛ひめ)の古(ふる)き越多づね天世(与)ゝ新(阿多ら)しく桜木(さくら

    はちかつぎ ひめ の  ふる きをたづねて  よ よ  あたら しく   さくら


ぎ)尓の保゛せ花咲(者奈さ起)幾

ぎ にのぼ せ   はなさき き


ぢゝの灰(者い)をあふぎ希ん登゛んぢゝを悪(尓くま)まざらめや

じじの  はい をあおぎけんど んじじを  にくま まざらめや


浦 嶋 太郎 月  山 東 京  傳  印

うらしまたろうつき さんとうきょうでん いん

(大意)

このようにして「紅皿欠皿」(紅皿は姉で実子で美人、欠皿は妹で継子で不美人。継子いじめの話)の破片をあつめるようにポツポツと出版され続け、「鉢かづき」(中世のシンデレラ日本版昔お伽噺)の古い昔話を訪ねてつぎつぎに新しく版木(桜の木)をおこし赤本とする。花咲爺を古い桜の木にのぼらせ(儲かるようにと)灰をまかせ満開にさせる。あぁなんとけちで欲の深い爺(出版人)であることか、憎まずにはいられない。

浦島 一月 山東京傳 印

(補足)

 世にしれわたっている赤本、舌切雀・猿蟹合戦・桃太郎・鼠の嫁入り・猿の生肝・かちかち山とたくさんの赤本をあげてきて、そして紅皿欠皿・鉢かづき姫とつづき、最後に花咲爺をもってきて

「新しく桜木尓のぼせ」とこの洒落をいいたくていいたくてしょうがなかったような感じで締めくくります。そしてきっと山東京伝きっとこの洒落をいたく気に入っていて、人にほめられるとうんうんとうなずく姿が目にうかびます。

 版木は桜の板でしたから、花咲爺が咲かせる桜の木に引っ掛けたわけで、さらにそれにのぼらせるという言葉も世に出す・印刷して出版するということに引っ掛けているわけです。

 太郎月とは一月のこと。十二月を極月(ごくげつ)というのと同じで、それぞれの月に別名があります。

「彼善耳」、「鉢被姫」の「彼」と「被」の形は間違い探しにしてもよいくらいよくにています。

「多づね天」、変体仮名「多」はおおくは「さ」の横棒がないかたちですが、ここの変体仮名は「多」のかたちがいくらか感じられるくずし字になっています。「づ」はよくみると左側に短い縦棒があるので変体仮名「川゛」です。

「悪(尓くま)まざらめや」、振り仮名「ま」がダブっていますが、他の部分の振り仮名も同じような箇所がいくつもあります。「花咲(者奈さ起)幾」など。

「の保゛せ」、よくみたら変体仮名「保」(ほ)でした。

「希ん登゛ん」、変体仮名やくずし字を学んでいないと読めません。

 さて物語はこの口上にあるように、なじみある日本昔噺をつなぎ合わせたような奇想天外のながれですすんでいきます。はじまりはじまり〜。

 

2023年8月26日土曜日

桃太郎発端話説 その3

上P1 東京都立図書館蔵

(読み)

鼠(ね春゛ミ)の娵(与め)入 ハ

  ねず み の  よめ いりは


男女(奈ん尓よ)の中(奈可)をも和(や王)らげ御子様方(おこさ満可゛多)の御心(おこゝろ)

   なんにょ の  なか をも  やわ らげ     おこさまが た の   おこころ


を慰(奈くさ)むるハ赤本(あ可本゛ん)奈り古れや

を  なぐさ むるは   あかぼ ん なりこれや


ひさ可多能雨(あめ)尓し天ハ乙姫(おとひめ)尓はじまりて猿(さる)の生肝(い起きも)越奴

ひさかたの  あめ にしては   おとひめ にはじまりて  さる の   いききも をぬ


らしあら

らしあら


かね能土(つち)尓し天ハ狸(多ぬき)の舩(ふ年)尓於古り天兎(うさ起゛)の手柄(て可゛ら)

かねの  つち にしては  たぬき の  ふね におこりて  うさぎ  の   てが ら


をみせ彼(可れ)善(ぜん)耳

をみせ  かれ   ぜん に


春ゝめ是(これ)悪(あく)越こら須

すすめ  これ   あく をこらす

(大意)

 鼠の嫁入りの噺は男女の仲の良さをもおだやかにし、御子様方のお心を慰め楽しませるのが赤本である。七夕の乙姫がでてくる浦島太郎や猿の生肝では涙をながし、地の土では泥舟で狸を殺す兎の手柄となるカチカチ山で喝采をおくる、勧善懲悪の噺である。


(補足)

「和(や王)らげ」、辞書に「男女の中をも―・げ」〈古今和歌集•仮名序〉とありました。

「あらかね能」、変体仮名「能」は「ə」+「e」のようなかたち。

「善(ぜん)耳」、「に」はたいてい変体仮名「尓」がおおいが、この変体仮名「耳」もよくでてきます。

 

2023年8月25日金曜日

桃太郎発端話説 その2

上P1 東京都立図書館蔵

(読み)

それ赤本(あ可本゛ん)ハ一 ツ趣向(し由可う)を種(多年)として萬(よろ川)の笑(わらひ)

それ   あかぼ ん はひとつ   しゅこう を  たね として  よろず の  わらい


ひとぞ奈れ里个る竹(多け)尓鳴(奈く)

いとぞなれりける  たけ に  なく


雀(すゞめ)ハ糊(のり)の為(多め)尓舌(し多)を切(きら)連穴(あ奈)尓住(すむ)蟹

  すずめ は  のり の  ため に  した を  きら れ  あな に  すむ


(可尓)ハ柿(可起)の多め尓甲(可う)を破(和ら)る悪老婆(あく者゛ゝ)

 かに は  かき のために  こう を  わら る    あくば ば


のふさ\/志きハ力(ち可ら)をも以連ずし天重(おも)き葛籠(つゞら)をうごかし桃太郎(も

のふさふさしきは  ちから をもいれずして  おも き   つづら をうごかし    も


ゝ多らう)能

もたろう の


天んこち毛奈起ハ目(め)尓ミへ奴鬼神(お尓可ミ)もあ王れと思(おも)ハ寿

てんこちもなきは  め にみえぬ   おにかみ もあわれと  おも わす

(大意)

 子どもたちの読み物、赤本というものは古来伝わるひとつの童話をさらに創作工夫して、大人にまで笑いをとるものとなっている。

 竹にとまって鳴く雀は糊をなめたために舌を切られ、穴に住む蟹は柿のために甲羅をわられた。「舌切雀」のふてぶてしい悪婆は、力もいれずに重い葛籠を運び(あんな重いものを痩せっぽちのババアが運べるわけがない)、「桃太郎」の途方もない活躍には(どうみたって大群の鬼どもを桃太郎と三匹で戦って勝てるわけがない)、おもわず鬼たちを哀れにおもうこともある。

(補足)

全体にふりがながかすれています。拡大して読んでいますので間違いがあるかもしれません。

「桃太郎能天んこち毛奈起ハ目尓ミへ奴鬼神も」、てんこちもなき、なんて辞書にないとおもって調べるとありました。『(形)〔「てんこつない」の転。近世語〕

思いもかけない。とんでもない。善悪両方にいう。「おや―・い,あんとして食はれべいぞ」〈咄本・鯛の味噌津〉』。変体仮名「毛」が「斗」のようにも「比」のようにもみえます。「ミへ奴」は何度かみなおしてようやくわかりました。

「思ハ寿」、最初「寿」は変体仮名「春」かとおもいましたが、よく見ると「春」ではありませんでした。

 

2023年8月24日木曜日

桃太郎発端話説 その1

上表紙 東京都立図書館蔵

(読み)

附  り

つけた


作 者  山 東 京  傳

さくしゃ さんとうきょうでん


ひら久や梅(むめ)の赤本(あ可本゛ん)にの勢天

ひらくや  むめ の   あかぼ ん にのせて


出 した類御年玉(おとし多゛ま)

多゛したる    おとしだ ま


昔(む可し)〃(\/ )

  むかし   むかし


桃太郎發端話説(も〃多らう本川多ん者゛奈し)

        ももたろうほったんば なし


并  二

ならびに


そろゆる草双紙(くささうし)

そろゆる    くさそうし


者や春薺(奈づな)の青本(あを本゛ん)ハひやうし

はやす  なずな の   あおぼ ん はひょうし


(上) 板元   通  油  町  (屋号印)徒多や

じょう はんもと とおりあぶらちょう     つたや


(大意)

 もう少しすると紅白の梅の花がさくけど、赤本をお年玉代わりに子どもたちにやるときには、どうか銭をそれにのせてやってくださいな。そうすれば赤本をもっとかってくれるだろうしね。

 たくさんそろってきた草双紙、正月7日七草のなずなの色がはえてきれいなのは青本の表紙だな、もっとかってそろえてくだいね。

(補足)

 この黄表紙は三巻三冊十五丁寛政4(1792)年刊。附の歌「ひらくや梅の」はこの本の翌年「先開梅の赤本(まずひらくうめのあかほん)」が刊行されていますが、それを意識したものなのかどうかはわかりませんけど、なにか伏線めいたものを感じます。

つたやは「蔦重」こと蔦屋重三郎。このBlog「箱入娘面屋人魚」のまじめ奈る口上ででてきました。

 大意はフィクションになってしまってますけど、それも歌の読み方。

 赤本の赤は古来魔除けの呪力をもった色とされてきたので、江戸時代の縁起物の刊行物は赤色で印刷されてました。疱瘡絵・疱瘡絵本と呼ばれるものがそうでした。子どもの成長を願って、正月など神社へお参りしたお土産にしたそうです。こうして人々は正月の祝い物(お年玉)として、赤本を買い求めるようになったのでした。これらは享保年間(1716〜36)ごろを境に一般大衆のあいだに浸透して、赤本が大衆化し発行部数が増大してゆくことにしたがい表紙に使用した赤の顔料(酸化鉛)が高騰したこともあって、植物性の染料を使った萌黄色の表紙になり、これが青本でありました。と、これらのウンチクはとある本からの受け売りでありました。

 この本の絵師は最後の頁に春朗画(しゅんろうが)とあり、これは勝川春朗、葛飾北斎。

 上部の絵は、東北を巡る實方朝臣(さねかたあそん)、笠をもっています。そして吹き出しの雀は實方が亡くなって姿を変えたもの。その雀を左の慳貪婆がこらしめるという、登場人物が大雑把に紹介されています。

 藤原実方はどことなく高貴で品にあふれるような風体、慳貪婆はいかにもいじわるくといった感じ、うまく雰囲気をかもしだすものです。

 

2023年8月23日水曜日

MOMOTARO その21

裏表紙 個人蔵

(読み)

なし

(大意)

なし

(補足)

 中央の一番大きい鶴の折り紙、ササッと手早く描いた感じです。このような図案は苦手なのかとおもいきや、周りの小さい飛翔している鶴折り紙たちは、かたちは折り紙でも実際に飛んでいるかのようであります。やはりうまいなぁ。

 まさかこの裏表紙のためだけに型紙をつくったわけではないでしょうから、一羽一羽の動きはみな手書きでしょう。彫師も大変。

 さて、このBlogの目的の第一は、変体仮名を読めるようになることでした。

次回から再び山東京伝の黄表紙を連載します。

 

2023年8月22日火曜日

MOMOTARO その20

奥付と広告 個人蔵

(読み)

Nos,1-6,7-12 « 13-18 Bach in One Volume.

Extra No. Princess Splendor , The Woodcutter's Daughter


AINO FAIRY TALE SERIES.

1. The Hunter in Fairy Land.

2. The Birds'Party.

3. The Man who lost his Wife.


Published by T. HASEGAWA, 10, Hiyoshicho, TOKYO.

(大意)

1〜6号、 7〜12号、 13〜18号 各々一巻ずつ

追加番 竹取物語

アイヌ昔噺

1 お伽の国の狩人

2 鳥たちの宴

3 妻を亡くした男

出版 長谷川武次郎 東京日吉町10

(補足)

nos が no(number) の複数形(numbers)とはこの歳まで知りませんでした。お恥ずかしい。

AINO FAIRY TALES については

「『B.H.チェンバレンのAINO FAIRY TALESについて』石澤小枝子 梅花女子大学文学部紀要第32号1998/12」 

に詳しい。

  

2023年8月21日月曜日

MOMOTARO その19

奥付と広告 個人蔵

(読み)

JAPANESE FAIRY TALE SERIES.

Ordinary Paper & Crépe Paper.

No.

1.Momotaro or lLttle Peachling.

2.The Tongue Cut Sparrow.

3.The Battle of the Monkey and the Crab.

4.The Old Man who made the dead Trees Blossom.

5.Kachi-Kachi Mouatain.

6.The Mouses' Wedding.

7.The Old Man and the Devils.

8.Urashima, the Fisher boy.

9.The Eight-Headed Serpent.

10.The Matsuyama Mirror.

11.The Hare of Inaba.

12.The Cub's Triumph.

13.The Silly Jelly-Fish

14.The Princes Fire-Flash and Fire-Fade.

15.My Lord Bag-o'-Rice.

16.The Wooden Bowl.

17.Schippeitaro.

18.The Ogre's Arm.

19.The Ogres of Oyeyama.

20.The Enchanted Waterfall.

(大意)

日本昔噺

平紙本と縮緬本

番号

1 桃太郎

2 舌切雀

3 猿蟹合戦

4 花咲爺

5 カチカチ山

6 鼠の嫁入り

7 瘤取

8 浦島太郎

9 ヤマタノオロチ

10 松山鏡

11 因幡の白兎

12 野干ノ手柄(きつねのてがら)

13 海月

14 彦火々出見尊(ひこほほでみのみこと)

15 俵藤太

16 鉢かつき

17 竹箆太郎(しっぺいたろう)

18 鬼の腕

19 大江山

20 養老乃瀧

(補足)

 この部分の巻数がふえていったいきさつは、白百合女子大学児童文化研究センター研究論文集に寄稿された尾崎るみ氏「長谷川武次郎のちりめん本出版活動の展開」に詳しい。

 わたし自身、これら昔噺の内容で人に説明できるのは半分程度。どんな噺なのか概略に目をとおすと、あ〜そうだったと以前にどこかで聞き知った、または読んだような気がしてくるものもありました。

 ちりめん本のために、小さい文字が判別しにく間違えているところもあるかもしれません。このつづきの下半分はさらに読みづらく次回にまわします。

 

2023年8月20日日曜日

MOMOTARO その18

P18 個人蔵

(読み)

adventure, displayed his riches,

and at last became a leading man,

a man of influence, very rich and

honorable; a man to be very much

congratulated indeed!!

(大意)

(桃太郎はたくさんの)冒険譚を(はなし、)

宝物を披露し、やがて富貴な威信ある第一人者となったのでした。

まことにめでたいことでありました。

めでたしめでたし。

(補足)

 挿絵が今までとはことなるタッチになっています。このままま消しゴムハンコにできそうな図案です。

 

2023年8月19日土曜日

MOMOTARO その17

P16P17 個人蔵

P16 個人蔵

(読み)

with the help of his three com-

panions, to whom he attributed

all his success, he had been able

so easily to accomplish his end.

  Great was the joy of the

old man and the old woman

when Momotaro came back.

He feasted every body boun-

tifully, told many stories of his

(大意)

桃太郎の三従者の助けもあって、桃太郎は勝利は

かれらのおかげであるとおもっていました。桃太郎は

とてもたやすく目的を達することができたのでした。

 桃太郎が戻ってきたとき爺と婆の喜びは大変なものでした。

桃太郎はあらゆる人たちに気前よくもてなしをしました。

桃太郎はたくさんの(冒険譚を)はなし、

(補足)

 江戸時代の終わりにはすずめ踊りが流行ったそうですが、ここは雉踊り。紫のちゃんちゃんこを羽織って青の股引。頭には小さな烏帽子のようなものまでのせています。

 それを楽しむ桃太郎と爺婆、犬に猿。着ているものが素敵です。猿は鼓をたたいているのでしょうか。犬はきっとあいの手をわんわんと入れているはず。

 床の間には宝物を披露して、亀の甲羅があって、その左側のしろい蓑(みの)のようなものは、これを羽織ると姿を隠すことができるという隠れ蓑笠でしょうか。そしてその下には打ち出の小槌があって、その後ろには黄金色の大判小判が山盛りです。珊瑚も宝物がつまった大きな袋もあります。

 

2023年8月18日金曜日

MOMOTARO その16

P14P15 個人蔵

P14 個人蔵

(読み)

  After this Akandoji the chief

of the devils said he would

surrender all his riches.  "Out

with your riches then:"  said

Momotaro laughing.  Having

collected and ranged in order

a great pile of precious things,

Momotaro took them, and set

out for his home, rejoicing, as

he marched bravely back, that,

(大意)

 こののち、鬼ヶ島の大将赤ん童子はすべての宝物を差し出しますといい、

それならばそれら宝物をもって出ようと桃太郎は笑いながら言いました。

山となった貴重な宝物を集め、整然と並べました。桃太郎はそれらを

持って国へ向けて出発し。喜びながら勇敢に帰途に着いたのでした。

(補足)

 話の内容はすでにわかっているのですが、この部分訳すのに意外と大変で、自身がありません。

 船の上では雉だけがまだ鎧を身に着けているようです。おおきな珊瑚のむこう舳先側に袋に入れた宝物がたくさんあります。

 

2023年8月17日木曜日

MOMOTARO その15

 

P14P15 個人蔵

P14 個人蔵

(読み)

At last they grappled each other.

and without difficulty Momotaro

just crushed down Akandogi and

tied him with a rope so tight

that be could not even move.

All this was done in a fair fight.

(大意)

とうとうふたりはつかみ合いの格闘となりました。

そして難なく桃太郎は赤ん童子を組み伏せ、

綱できつく縛り上げたのでもはや身動きは

できなくなりました。

こうして正々堂々とした戦いは終了しました。

(補足)

 宝物を満載した帆掛け船、帆の中央がほぼ四角く空白になっているのが気になります。ここに旗印を摺るつもりだったようにもみえます。


2023年8月16日水曜日

MOMOTARO その14

P12P13 個人蔵

P13 個人蔵

(読み)

they pressed still inwards, and at

last encountered the chief of the

devils, called Akandoji.  Then

came the tug of war.  Akandoji

made at Momotaro with an iron

club, but Momotaro was ready for

him and dodged him adroitly.

(大意)

桃太郎たちはさらに奥へと押し進み、そしてとうとう

赤ん童子という鬼の大将と出くわしました。すぐに

激しい争いとなりました。赤ん童子は鉄の棍棒を桃太郎に

振り回しましたが、桃太郎はすばやくうごきまわり

たくみにかわしました。

(補足)

 一番の見せ場なので、見開きで絵も豪華です。

 猿はゲンコツで鬼を一突き、雉(尾羽根も羽も細かく描かれている)は足でギュゥっとつかみ押さえクチバシでつつき、犬は鬼の尻にかみついています。そして城の中では桃太郎が大将を払い腰でうっちゃっています。鬼のやられた顔がちょっと怖い。首周りの橙色が鮮やかできれいです。

 その部屋の腰壁が豪華で大理石のようなものがはめこまれています。

 カーテンは日本の文化(ここは鬼ヶ島、異国です)にはありませんでしたからなのでしょうか、念入りに描かれています。上下で濃淡をつけ、花柄のような模様があり、床にふれるところは縁取りの柄も入り、裏生地の赤をのぞかせています。

 奥に急峻な山をのぞむ手前には城壁らしきものが見えています。

 

2023年8月15日火曜日

MOMOTARO その13

P10P11 個人蔵

P11 個人蔵

(読み)

In no time they arrived at the

island of the devils, and at once

broke through the front gate;

Momotaro first; then his three

followers.  Here they met a

great multitude of the devil's

retainers who showed fight, but

(大意)

あっという間にかれらは鬼ヶ島に着き、すぐに

城門を打ち破り、最初に桃太郎が、つづいてかれの

三匹の従者が突入しました。かれらはここで

戦意むき出しの鬼の家来の大群に出会いましたが、しかし

(補足)

 雉はどこか手持ち無沙汰のようで、腰に後ろ手をしているように見えます。

普通は城門を突破されてなるものかと激しい戦いになるものですけど、どうしたものかとても静かです。 

2023年8月14日月曜日

MOMOTARO その12

P10P11 個人蔵

P10 個人蔵

(読み)

dog. So Momotaro took a

dumpling out of his pouch and

gave it to the dog.  Then a

monkey came and got one the

same way. A pheasant also

came flying and said:  "Give

me a dumpling too, and I will

go along with you."  So all

three went along with him.

(大意)

 それから桃太郎は腰の袋から団子をとりだし、犬に与えました。

まもなく一匹の猿がやってきて同じようにして団子をもらいました。

一羽の雉も舞い降りて言うのでした。「わたしにもひとつ団子を下さいな、

さすればあなたと一緒に行きましょう」。そうして三匹そろって

桃太郎と一緒に進みました。

(補足)

 猿も雉もそれらしいのですけど、犬は尻尾がみあたらなく股引に押し込んであるようです。

正門の丈夫そうな木の門をちょうど少し押し開けている様子なのでしょうか、右側が少し開いているように見えます。

 

2023年8月13日日曜日

MOMOTARO その11

P8P9 個人蔵

P9 個人蔵

(読み)

"Momotaro!  What have you

there hanging at your belt!"

He replied: "I have some of

the very best Japanese millet

dumplings."  "Give me one and

I will go with you," said the


(大意)

「桃太郎様!お腰につけているものはなんでしょうか?」

桃太郎は答え「とってもうまいきびだんごじゃ」、

「ひとつわたしにくださいませ。さすれば一緒に

参りましょう」と(犬は)言いました。

(補足)

 この場面、桃太郎童謡の歌詞そのままです。歌詞はいつ頃のものかと調べてみると、明治44(1911)年に当時の音楽教科書「尋常小学唱歌」第一学年用で発表された日本の文部省唱歌でした。ということは歌のほうがこの絵本よりあとなのです。桃太郎の話は古くから伝えられ親しまれてきましたから、それを童謡唱歌にしたという自然なながれでした。

 桃太郎の表情は表紙とはことなって、ややいかつい錦絵風の顔立ちになっています。きび団子の網袋や藁の脚絆は相変わらず丁寧。猿の毛むくじゃらも一本一本これまた丁寧。わんこは拡大してみると目が小さくとてもかわいらしいく、膝をおってうしろに反りかげんの姿勢も落ち着いた忠犬そのもの。

 

2023年8月12日土曜日

MOMOTARO その10

P8P9 個人蔵

P8 個人蔵

(読み)

the old woman about

the matter, and got them to

make him some dumplings.

These he put in his pouch.

Besides this he made every

kind of preparation for his

journey to the island of the

devils and set out.

  Then first a dog came to

the side of the way and said;

(大意)

(すぐに桃太郎は爺と)婆にそのことについて(相談し)、

桃太郎は老夫婦に団子を作ってもらいました。

団子を桃太郎は袋に入れ、さらに鬼ヶ島への道中の様々な支度を

ととのえ出発しました。

 そののち、最初に一匹の犬が道のわきにあらわれ

言うのでした。

(補足)

 右の松の上部が枠外なので描かれていません。そして左の小枝が見えない松の上部から枠内に伸びてきています。その描かれていない部分が見えてしまうから不思議です。画工の力でしょうか。

 桃太郎の幟はもっと派手に目に冴えるような桃色でもよさそうなものですが、なんとも地味な目立たぬ薄い青色。唯一の赤系統は猿の顔だけでした。いや、小さくて気づきにくいですが雉の顔も赤でした。雉は拡大してみると、これまた丁寧、羽もきれいです。

 

2023年8月11日金曜日

MOMOTARO その9

P6P7個人蔵

P7 個人蔵

(読み)

Momotaro finding that he

excelled every body in strength

determined to cross over to the

island of the devils, take their

riches,and come back. He at

once consulted with the old

man and

(大意)

桃太郎は誰よりも並外れた力があるとわかり、鬼ヶ島へ渡り

かれらの宝物を奪い戻ってくると、決心しました。

すぐに桃太郎は爺と(婆にそのことについて)相談し

(補足)

 お婆さんが糸車で綿糸を紡いでいるところです。わたしがこまかな説明をするよりもネットで「糸車 youtube」で調べれば一目瞭然です。左手を回すのに上掛けがじゃまなのでしょう、片方を脱いでいます。

 わたしは子どものころ母の実家にあずけられていたとき養蚕の時期に、桑の葉をお蚕さんにあたえたり、蚕玉から絹糸を取り出すお手伝いをよくしたものです。夜寝ているときに聞こえてくるムシャムシャ、ムシャムシャというお蚕さんが桑の葉を食べる音が今でも耳に残っています。

 左手で糸車を回して、右手は綿の塊をを引っ張りながら細く伸ばしたあとにすぐ、撚りをかけて丈夫にしてゆくのですけど、その手加減や集中しているさまがうまく描けているなとおもいます。

 

2023年8月10日木曜日

MOMOTARO その8

P6P7 個人蔵

P6 個人蔵

(読み)

their expectations raised, and

bestowed still more care on

his education.

(大意)

期待をふくらませ、なおいっそう桃太郎の教育に力をいれたのでした。

(補足)

 煙草道具を入れる巾着や灯りの台などとても丁寧に描かれています。桃太郎はまるで小さな書生のよう。袴が本物の生地のようです。その下からちらりとのぞく正座の両親指、ほんとうに細かくていねい。また土壁の質感がみごと。このまま壁紙にできそうです。

 お爺さんは左手の親指を上にして組んでいます。にこやかに桃太郎を見守るお爺さん、全身に喜びがあふれでています。

 部屋の隅にある切り株の火鉢、ちょうど頁をまたいでしまって、版木がことなったためでしょうか、摺り加減が違ってしまって左半分、右半分の色調を合わすことができなかったようです。

 

2023年8月9日水曜日

MOMOTARO その7

P4 個人蔵

P5 個人蔵

(読み)

When she cut the peach

in two, out came a child from

the large kernel. Seeing this

the old couple rejoiced, and

named the child Momotaro, or

Little Peachling, because he

came out of a peach.  As

both the old people took good

care of him, he grew and

became strong and enterpris-

ing.  So the old couple had

(大意)

婆さんがその桃をふたつに割ってみると、

大きな種から子どもが出てきました。

これを見て、年寄り夫婦は大喜びし、

桃から生まれたので、その子どもを桃太郎とも桃王子とも名付けました。

老夫婦ともに、桃太郎を大切に世話をしたので、桃太郎は丈夫で冒険心にとんだ子どもに

育ちました。そうして老夫婦は

(補足)

「he came out of a peach」、「a peach」と不定冠詞 a になっているのは、ここでは桃太郎が出てきた桃「the peach」をさすのではなく、「桃」という果物一般をさすため。 定冠詞と不定冠詞の扱いは厳格です。

 お爺さんの白目をむいた驚愕の表情がすごい。お婆さんはなんとも言えぬ慈しみの面持ち、とても対照的です。

 桃はまな板ではなく、縁のあるお盆にのってます。桃の果実に桃の葉を添えて描いているのも細かい。ふたつに割った桃の果肉の色がとても見事です。種のふちに右足をかけて出てこようとするその一瞬の動きが見えてくるから不思議です。

 そばにある菜切り包丁で桃太郎がよく真っ二つにならなかったと心配する声も聞くのですが、桃太郎は幼くして武芸に秀でて生まれてきたので、いとも簡単に真剣白刃取りで菜切り包丁をとらえたという逸話が伝わっています。

 奥の囲炉裏が生活感を感じさせます。

 

2023年8月8日火曜日

MOMOTARO その6

P4 個人蔵

P5 個人蔵

(読み)

she saw that it was a very large

peach. She then quickly finished

her washing and returned home

intending to give the peach to

her old man to eat.

(大意)

とても大きな桃だとわかりました。婆さんはそれからいそいで洗濯をすまし、

爺さんにその桃を食べさせてやろうとおもい、家に戻りました。

(補足)

 前頁でお婆さんが桃を引き寄せているときの表情はとても年寄に見えましたが、この頁の桃をふたつに割ったときの顔は喜びでシワもないほどに若返って見えます。

 ちりめん本の効果でしょうか、ヒビの入った土壁や柱や窓枠の質感がつたわってきます。

 

2023年8月7日月曜日

MOMOTARO その5

P2P3個人蔵

P3 個人蔵

(読み)

she was very glad, and pulled

it to her with a piece of bam-

boo that lay near by. When

she took it up

and looked at it

(大意)

大変に喜び、そばにあった竹竿で手元に

引きよせました。それを取り上げて、

見てみると

(補足)

 流れてきたものがひと目見て桃とわかってはいけないし、しかしそれらしく描かなければいけないし、難しいところ。

 おばあさんの、右足を引いて左膝で体を支えるこの姿勢、これも描くのが難しそうです。

 

2023年8月6日日曜日

MOMOTARO その4

P2P3個人蔵

P2 個人蔵

(読み)

went to the river to wash clothes.

While she was washing a great

big thing came tumbling and

splashing down the stream.

When the old woman saw it

(大意)

川へ洗濯をしに行きました。

婆さんが洗濯をしていると、大きなものが

川をどんぶらこっこ、すっこっこ、と流れてきました。

婆さんはそれをみて、

(補足)

 山間を流れる小川とすぐそばの山道をつないで一つの風景で爺さん婆さんの仕事を描いています。

遠くの爺さんを拡大してみると、小さくなったからといってまったく手を抜いてないことがわかります。右手に持つ鎌は鋭く切れ味がよさそうです。

 

2023年8月5日土曜日

MOMOTARO その3

P1 個人蔵

(読み)

MOMOTARO

or

Little Peachling.

A long long time ago there

lived an old man and an

old woman. One day the old

man went to the mountains to

cut grass; and the old woman

(大意)

桃太郎 または桃王子

むかしむかし、爺さんと婆さんがおりました。

ある日、爺さんは山へ芝刈りにゆき、婆さんは

(補足)

 桃は英語でpeachですが、peachには素晴らしい人、すてきな人、魅了的な人などの意味があるようで、訳者のダビッド・トムソンは桃太郎の話を初めて読んだとき、Little Peachlingという訳がひらめいて、どうしてもこれに引っ掛けたかったのでしょう。

また、-lingは『1 子…, 小… (!〖名詞〗に付く)▸ duckling子ガモ. 2 …に属する[関係のある]人[物] (!〖名詞〗〖形容詞〗〖副詞〗に付く)▸ earthling地球人.』とあります。

 両方をまとめると、訳者の頭の中には、部下3名を従えた桃部隊のすてきな小隊長みたいなものがあったような気がします。

 桃の写生は難しいとおもいます。産毛につつまれたような感じが手強そう。しかしちりめん本なのでその感じが平紙よりでていそうです。右上に伸びている桃の葉、裏をちらりと見せているところがひかれます。

 

2023年8月4日金曜日

MOMOTARO その2

見返し 個人蔵

(読み)

版權所有

Japanese Fairy Tale Series,No.1.

MOMOTARO,

PUBLISHED BY

T.HASEGAWA,

10,Hiyoshicho.

TOKYO

日本昔噺第一號

米國 ダビッド タムソン 譯述

再販 桃太郎

鮮齋永濯畫

明治十八年八月十七日版權

免許同年九月出版同十九年

八月廿六日再販幷添題御届

東京市京橋區日吉町十番地

發行者

長谷川武次郎

(大意)

(補足)

 目のさめるような桜色の背景に、毛むくじゃらの猿と犬、まだ子猿子犬のようです。かわいらしい。

 英文字部分は、いまではあふれるほどのフォントがありますが、この時代どのようにしてこれだけの活字をあつめたのでしょう。というかすでにたくさんの中から選択するぐらいにはあったのかもしれません。

 この桃太郎はスウェーデン語・スペイン語・ポルトガル語・ドイツ語・フランス語・英語とたくさんの言語で出版再版されています。しかし猿と犬がこの位置のものはこの版だけで、他のものは猿と犬の位置が入れ替わっていたり、ことなった絵柄だったり、または猿も犬もいないものとなっています。

 画工は鮮齋永濯(せんさいえいたく)(小林永濯)。ネットでその生涯と業績を読むことができます。

 

2023年8月3日木曜日

MOMOTARO その1

表紙 個人蔵

(読み)

JAPANESE FAIRY TALE SERIES No.1

MOMOTARO.

(大意)

日本昔噺第一號

桃太郎

(補足)

 ちりめん本です。すでにこのブログでこのシリーズの「KACHI-KACHI MOUNTAIN No5」「OURASIMA LE PETIT PÊCHEUR No8」「THE OLD MAN & THE DEVILS No7」

「The Wonderful Tea-Kettle No10」をアップしています。

 今回はこのシリーズの第一号桃太郎です。つい先日手に入れたものです。状態は中程度と記されていましたが、手にして何度も確かめましたが、それ以上の保存のよいちりめん本でした。本の周辺は擦れていますが、大和綴じの綴じ糸はしっかりとしています。

 虫眼鏡で表紙をくまなく見ました。すばらしいとしかいえません。デジタル写真にしてPCで拡大してみても、これまたすばらしい。

 豆本などでは廉価でなるべく目立つようにして手にしてもらうようにするため、明治赤といわれる派手な色合いでした。外国からこの安い赤色塗料が輸入されるまでは、赤(紅)の塗料はとても高価でそう簡単には使用することができませんでした。明治赤の使用はその反動もあってのことだったのでしょう。

 しかしこのシリーズのちりめん本では、従来の日本の色調を基本として、赤の使用はそれほどでもありません。全体としては地味というのとはことなり、とても落ち着いて上品な仕上がりになっています。この表紙で赤があるのは桃太郎の右手の袖口にのぞく裏生地と右腰の手ぬぐい、うしろにひかえるキジの鎧と顔の部分だけです。

 表紙は絵師・彫師・摺師が一番に気合を込めて描き、彫り、摺るところです。青空や山肌の濃淡、松の針葉一本一本、その枝の折り曲がり、そして幹と根方に腰掛ける桃太郎と目をはこばせます。

 網目の袋にたくさん入っているきびだんご、きびだんごの重みを感じるかのように精緻です。すぐその下の藁で作った脚絆もこれまた見事です。他にもあげればきりがありませんが、犬がさしている太刀も拡大しなければわからないくらいなのですが、柄も鞘も丁寧に描かれています。

 桃太郎と犬の視線と、猿と桃太郎の右足を結ぶ線の交点に桃太郎が差し出すきびだんごが位置するような構図は絵全体に安定感を与えています。そして桃太郎のやさしい表情と犬のひたすら一心に忠義を体全体からにじませる物腰が読者の胸にあたたかいものを感じさせます。

 

2023年8月2日水曜日

箱入娘面屋人魚 その60

P32 国立国会図書館蔵

(読み)

ちうきよ 仕   り候   このうへいくらいきやうやら

じゅうきょつかまつりそうろうこのうえいくらいきようやら


その本どハ志れ申 さ須゛

そのほどはしれもうさず


とう本゛うさく尓多川多

とうぼ うさくにたった


百  年 ち可゛川てやく者らひの

ひゃくねんちが ってやくばらいの


もんく尓ハもれ多れども

もんくにはもれたれども


金 もまんと今 尓

かねもまんといまに


あ連ハまこと尓

あればまことに


外 ゝ のくさそうし

ほかほかのくさぞうし


の志まひでき合 の

のしまいできあいの


めて多可り个るとち可゛ひ

めでたかりけるとちが い


これハ可くべ川尓御あつらへ

これはかくべつにおあつらえ


とびきりのめで多

とびきりのめでた


可りける志多゛い奈り

かりけるしだ いなり


京  傳 作 ㊞

きょうでんさく


(大意)

今はわたくしの隣に住んでいる。この上、どれくらい生きるものなのであるかは、

まったくわからない。「東方朔が九千歳」と歌われるものにたった百年違いで

厄払いの文句にはならないかもしれないが、今は巨万の富をかかえている。

じつに、他の草双紙のおしまいの決め台詞「めでたしめでたし」とはことなり、

こちらはまったく「めでたし」を誂えたようにぴったしの

めでたいことなのでありました。

(補足)

「外ゝ」(ほかほか)、読めませんでした。意味も調べてわかった次第。

「でき合の」、「合」は前後の流れからなんとか。

 婦人は胸にくっきりと「人魚」とあります。裾の柄は青海波の一部のように見えますが、鱗に違いないようにおもわれます。

 ふたりの背後には千両箱を祭壇代わりに積み上げてお神酒徳利をのせています。

 「とう本゛うさく」、「東方朔」は前漢の人で、仙術をよくし、西王母(せいおうぼ)の桃を盗み食って長寿を保ったとの伝説がある、とものの本にはありました。文中たった百年違いとありますが、9000ー7900=1100ですので引き算の計算間違いです。

 「京傳作」の下の印章は「又臭」と読むのだそうです。人魚の臭気を許されよの意味。

 

2023年8月1日火曜日

箱入娘面屋人魚 その59

P32 国立国会図書館蔵

(読み)

此のもの可多りハ

このものがたりは


七 千 九  百  年 本ど

ななせんきゅうひゃくねんほど


む可しの事 尓て

むかしのことにて


どう可一 通 り尓きひて

どうかひととおりにきいて


ハうそらし个れとも

はうそらしけれども


もうとういつハり尓ごさ

もうとういつわりにござ


奈く候   人 魚 ハもとより

なくそうろうにんぎょはもとより


ふろうふし平 二ハとし可゛

ふろうふしへいじはとしが


よりそう尓奈るとハ女  本うを

よりそうになるとはにょうぼうを


奈め\/して今 尓このふうふ

なめなめしていまにこのふうふ


ぞんじやう尓ていまハ王多くしとなり尓

ぞんじょうにていまはわたくしとなりに


ち うきよ仕   り候   このうへいくらいきやうやら

じゅうきょつかまつりそうろうこのうえいくらいきようやら

(大意)

 この物語は七千九百年ほど昔のもので、このまま

通り一ぺんに聞いてしまうと嘘らしくおもえるのだが、

毛頭嘘偽りはございません。人魚はもともと不老不死で、

平次は年寄りになりそうになると、女房をなめなめして若返る。

いまでもこの夫婦は元気に暮らし、今はわたくしの隣に住んでいる。

この上、どれくらい生きるものなのであるかは、

(補足)

「千」「年」「手」のくずし字はどれもにたようなかたちで、最初は悩みます。

「よりそう尓奈るとハ」、「と(き)ハ」or 「ハ」をとるのかどちらでしょう?

 平次は座布団を敷いていますが、妻の方はなし。それとも元は人魚だったので不要なのか、さて?

ふたりとも煙管をもち、その前にあるのは火入れ、火屋(ほや)、火舎(かしゃ)とも。豪華な誂で、金持ちであることを示しています。