P3 国立国会図書館蔵
(読み)
いつし可
いつしか
奈じミて
なじみて
そ多゛ちし
そだ ちし
奈り
なり
ぢゞ
じじ
「ヨウ
よう
奈れ
なれ
おつた
おった
(大意)
いつしかなれ親しみ
育ちました。
じじい
「よく
慣れたもんだ
(補足)
鳥籠がすばらしい。とても丁寧で正確に描かれています。その前にある花束みたいなのはなんでしょうか。「志多?」のようにも読めますが。
P3 国立国会図書館蔵
(読み)
いつし可
いつしか
奈じミて
なじみて
そ多゛ちし
そだ ちし
奈り
なり
ぢゞ
じじ
「ヨウ
よう
奈れ
なれ
おつた
おった
(大意)
いつしかなれ親しみ
育ちました。
じじい
「よく
慣れたもんだ
(補足)
鳥籠がすばらしい。とても丁寧で正確に描かれています。その前にある花束みたいなのはなんでしょうか。「志多?」のようにも読めますが。
P2後半 国立国会図書館蔵
(読み)
可ら春尓お王れ
からすにおわれ
て尓け多る
てにげたる
とき阿や
ときあや
まつて
まって
から春
からす
尓け
にけ
られ多る
られたる
由へとひ
ゆえとい
ゑざりし可゛
えざりしが
ふびん尓おもひ
ふびんにおもい
やし奈いおき多る可゛
やしないおきたるが
(大意)
カラスに追われて逃げるときに
誤ってカラスに蹴られたようで
怪我をしてしまいました。
不憫におもい
養い飼っていたところ
(補足)
「可ら春尓お王れ」、変体仮名「可」(か)は「う」や「ら」とそっくりでまぎらわしいので注意。
「由へとひゑざりし可゛」、「とひゑざりし」は「問い得ざりし」でしょうか。または「由へと」できって、「言えざりしが」でしょうか。さて・・・
P2前半 国立国会図書館蔵
(読み)
む可し\/ せ うじき奈る志゛ゝい可゛
むかしむかししょうじきなるじ じいが
阿つ多とさひとりのむ春め
あったとさひとりのむすめ
春ゞめを可いおき阿さ由ふ
すずめをかいおきあさゆう
ゑをあ多へいつし可者奈し
えをあたえいつしかはなし
可゛いと奈し个るこの春ゞめ
が いとなしけるこのすずめ
ハおや春ゞめ春多゛ち
はおやすずめすだ ち
をつれてこのちゞいの
をつれてこのじじいの
尓ハ尓き多りし可゛
にわにきたりしが
(大意)
むかしむかし、正直なじじいが
あったとさ。じじいのひとり娘が
すずめを飼っていて、朝夕に
餌を与えていました。いつしか
放し飼いにするほどなれていました。
このすずめは、巣立ちのときに親雀に
連れられてこのじじいの庭に
来たのですが、
(補足)
豆本にしては文章が多いためか字の大きさが小さく
また保存の状態もいまひとつだったのか読みづらいです。
「せうじき」、「せ」が「セ」にもみえますが、平仮名だとおもいます。
「阿つ多」、「阿」のくずし字が √記号+小さな「の」のようになってます。
「可いおき」、変体仮名「可」(か)と「う」はそっくりです。
「可゛いと奈し个る」、変体仮名「个」(け)は円周率「π」ににています。「る」は変体仮名「留」(る)。
煙管を手にニコニコ顔の正直爺さん、膝のところには煙管の一式があり、左側の火鉢で吸い終わったタバコをカッカッとたたいて落とすのでしょう(灰落し)。画面右下にあるのは「おもと」でしょうか。江戸時代後期に流行りました。その隣りにあるのは水鉢。爺さんのちょっと体をひねった姿に動きを感じます。文章の字はうまいとはいえませんが、画はどれも丁寧で上手です。
P1後半 国立国会図書館蔵
(読み)
起傳 多流赤 本 尓天児童 の耳目 を悦
つ多へ あ可本゛ん こども 志もく よろこ
きつたえたるあかぼ んにてこどものじもくをよろこ
者゛須尓禍 福 の應 報 口 ハ是 王ざ王いの門
く王ふく おう者うくち これ 可ど
ば すにか ふくのおうほうくちはこれわざわいのかど
其 根を切 し故 よしを示 し多妙 作 今 尓
そのね きり ゆへ 志め め うさくいま
そのねをきりしゆえよしをしめしたみょうさくいまに
捨 らぬ昔 咄 一 期栄 物 語 眼 覚 尓? のミ
春多 む可し者゛なしいちごさ可へしもの可゛多りねむりさまし そらふる
すたらぬむかしば なしいちごさかえしものが たりねむりさましにそらふるのみ
(大意)
(書)き伝えられている。赤本を見たり聞いたりして子どもが悦ぶことは
良くもあるし悪くもあり、その幸不幸の結末は災いの門口となる。
その原因をたとうと、良い妙案は
今でも捨てられずに伝わる昔話の生涯栄える物語を眠気覚ましに一読あるのみ。
(補足)
最後の行、ふりがな「そらふる」の漢字がわかりません。
堅苦しいまえがきになっていますが、平たくいうと、昔話などもまぁ眠気覚ましのつもりでちょっと目を通してみなさい。バカにしたもんじゃありませんよ。そんなところでしょうか。
この豆本は作者晩年に刊行されています。ネットで調べた限りではハチャメチャな生涯を歩んだようにみえます。晩年の心境はこの前書きだったのでしょうか?
P1前半 国立国会図書館蔵
(読み)
禍 福 無門 人 の招 ところと舌 三 寸 の
く王ふくもんなく飛と ま袮く 志多さん春ん
か ふくもんなくひとのまねくところとしたさんずんの
破 よ里生 涯 を過 もの多 し皆 是 欲 の
やぶれ 志 う可い あやまつ おゝ ミ奈これよく
やぶれよりしょうがいをあやまつものおおしみなこれよくの
奈須とこ路奈り其 勧 善 懲 悪 の教 尓
そのく王んぜんて う阿く おしえ
なすところなりそのか んぜんちょうあくのおしえに
舌 切 雀 どのお宿 ハ何処楚゛チヨツ\/ とか
志多きり春ゞめ やど どこ
したきりすずめどのおやどはどこぞ ちょっちょっとか
(大意)
禍(不幸)も福(幸福)もすべてその人自らが招くものであると
口先だけの巧みな弁舌にだまされ、生涯を誤る者は多い。これはすべて
欲のなすところである。勧善懲悪の教えに「舌切雀、お宿はどこだ。ちょっちょっ」のはなし
(が伝わっている。)
(補足)
多くの豆本は表紙の次には見返しがあります。これがとてもおしゃれでここだけを額装して飾りたくなるようなものなのですが、この豆本はそれをひどく裏切って、堅苦しい文字の羅列でとても子どもに読ませるような読本とはおもえません。まぁしかし形としては豆本。楷書で丁寧に記されています。
辞書には「禍福門(もん)なし唯(ただ)人の招く所〔春秋左氏伝襄公二十三年〕、
悪事を行えば災いがあり,善事を行えば福が得られるというように,禍も福もすべてその人自らが招くものである。」とあります。
「奈須とこ路奈り」、変体仮名が続きます。次行では変体仮名「楚゛」(ぞ)。
表紙 国立国会図書館蔵
(読み)
舌 切 雀
したきりすずめ
可候 作
かこうさく
英 泉 画
えいせんが
山 本 板
やまもとはん
(大意)
略
(補足)
豆本です。120×87mm。刊行年は1844-47年頃。
溪斎英泉(けいさい えいせん)寛永2年(1790)〜嘉永元年(1848)。可候と英泉は同一人物。
ネットで調べるとたくさんヒットします。浮世絵や春画から版本まで幅広く才能をほしいままに活躍したようです。
三人の奴(やっこ)は当時はやった雀踊り。その左下、半分見えているのはツヅラ(葛籠)。面長の娘さんは舌切雀に出てくるおじいさんの娘。下唇を少し厚めに描いてやや肉感的な表情にするのが英泉風であったらしい。着物の色が薄紫に見えますが、もしかしたら元の色は薄茶色で雀の色に似せたのかもしれません。
裏表紙 国立国会図書館蔵
(読み)
【書き込み】
満多かしハ奈らの
またがしはならの
都 この八重佐゛くら
みやこのやえざ くら
今日 見天あ春ハ
きょうみてあすは
来つとお可へし
きっとおかえし
(大意)
又貸しはしてはいけませんよ
今日読んでしまって
明日はきっとお返しくださいな
(補足)
百人一首61番 「いにしへの 奈良の都の 八重桜 けふ九重に 匂ひぬるかな」伊勢大輔。
これを下地にして裏表紙に貸本屋の主人が詠んだものでしょう。「奈良の都の八重桜」と「けふ」をうまくはさみこんでいます。
正直に言いますと、なかなかすべてを判読できませんでした。あっちを調べ、こっちを調べと完読できたのは昨日夕方でした。うれしかったです。
百人一首にひっかけて、やんわりとお願いするなんてオシャレですねぇ。
奥付 国立国会図書館蔵
(読み)
新板本目録
大新板天神記十冊
東山三幅対三冊
河内国姥可゛火三冊
熊若物語三冊
ゑんの行者三冊
中書王三冊
津の国夫婦可池三冊
弘智法印三冊
藤原のち可多三冊
女作出入の湊上下
塩賣文太上下
新板酒天童子五冊
此度改板仕出し申候
御覧被成可被下候
寛延二年巳正月
板元
鱗形屋
(大意)
書籍の題名は省略
此度改板仕出し申候
このたびかいはんつかまつりだしもうしそうろう
御覧被成可被下候
ごらんなされくだされべくそうろう
(補足)
鱗形屋は調べてみると、寛永(1624〜1644)から宝暦(1751〜1764)頃に大伝馬町3丁目で地本問屋を営業とありました。
新板(しんはん)、板元(はんもと)は現在では新版、版元となります。活版刷りになる前は版木(板木)である桜の板に彫って摺っていたので「板」なのでした。江戸後期から明治になって活版印刷になって木が使われなくなり同じ音である「版」にしたのでしょうか。
「塩賣文太」は上下の二冊。三冊とあるのは上中下ということです。十冊は十巻。
P19 国立国会図書館蔵
(読み)
王れう多
われうた
まくらの
まくらの
ためひ多ちへ
ためひたちへ
下 り奈んじ可゛
くだりなんじが
む春め尓
むすめに
奈れそめ
なれそめ
ふさいの
ふさいの
可多らいを
かたらいを
奈すひさしや
なすひさしや
文 太よ
ぶんたよ
正 じきそう奈
しょうじきそうな
ふうふ可奈
ふうふかな
(大意)
わたしは歌枕の地を訪ねたく
常陸国へ下り、あなたがたの
娘に恋してしまい、結婚を
約束したのだ。
しばらくぶりであったのう
文太よ。
正直そうな
夫婦だ
(補足)
「まくらの」、「く」がつぶれて「つ」のようにみえます。ここの「ら」は変体仮名「可」や「う」と似た形。楷書の「ら」は6行あとにでてきます。
「ふさいの可多らい」、「可多らい」を調べると「② 男女の契り。情交。「浅はかなる―にだに」〈源氏物語•松風〉」とありました。
最後の頁のためか、他の頁より描きこんでいるような気がします。
P18 国立国会図書館蔵
(読み)
一 とせあ起
ひととせあき
人 と奈りて
びととなりて
ひ多ちへ
ひたちへ
く多゛り
くだ り
奈ふ
なう
助 八 と申 ハ
すけはちともうすは
まことハ
まことは
ありすの
ありすの
中 志やう
ちゅうじょう
との也
どのなり
よ尓
よに
出
で
奈ひ
ない
文 太ふうふ
ぶんたふうふ
御めし有
おめしあり
あり可゛多う
ありが とう
ぞんじまする
ぞんじまする
文 太尓
ぶんたに
御本うび
ごほうび
あま多奈本る
あまたなおる
(大意)
一年間商人となって常陸国へ下っていた
助八と申すものは実は
有栖の中将殿なのでした。
世に知られることない文太夫婦を
呼び出しました。
ありがとう存じまする
文太はご褒美を
たくさん賜りました。
(補足)
出だし「一とせあ起人と奈りて」は「一年後、人となって」とも読めますが、それでは意味があとに続きません。
「まことハ」、「こと」は合字になってます。「より」の合字のフォント「ゟ」はあるのですが。
「よ尓出奈ひ」で読みはあっているとおもうのですけど。
「あま多奈本る」、「奈本る」が違うかもしれません。「本」としましたが、ウ~ン・・・
P17後半 国立国会図書館蔵
(読み)
可ごの
かごの
内 尓て
うちにて
めん鳥 を志多う事 年
めんどりをしたうこととし
久 し故 むすめの奈さけ尓
ひさしゆえむすめのなさけに
よつていのちた春けられ
よっていのちたすけられ
そのへんれいとして人 ゝ を
そのへんれいとしてひとびとを
今 又 た春け申 し也 とたちまち
いままたたすけもうしなりとたちまち
さむらいつ可いのをしと(り)
さむらいつがいのおしどり
奈り者うちしてとび
なりはうちしてとび
さり个り
さりけり
(大意)
カゴの中で妻をおもうこと
年久しく過ごしておりました。
小しおの情けにより命を助けられ
その返礼としてご夫婦を助けたのです」
話し終わるとたちまち
侍はいつかのおし鳥となって
羽ばたき飛び去ってゆきました。
(補足)
一見、すべて読めているようですがわからないところは前後の話の流れでフィクションで補いました。
「年久し故」、「m」に見える字を「故」としましたが、そうでなかったらなんでしょうか。
「よつて」、「よ」は変体仮名「与」(よ)かもしれません。
「申し也」、「申」はあってるとおもいます。「申也」かもしれません。ここまで平仮名「た」が三回出てきています。
「をしと奈り」、「り」を忘れたのではなく、「鳥」を省略したと理解したほうがよさそうです。
「者うちして」、「羽打ち」という熟語をしらないと、悩む箇所です。
鳥はほとんどがそうですが、雄は色彩豊かで派手、雌は地味です。なので右が捕らわれていた雄のはず。
P17前半 国立国会図書館蔵
(読み)
文 太ふうふふし付 能奈んを
ぶんたふうふふしづけのなんを
の可゛れ本゛うぜんとしてい多り
のが れぼ うぜんとしていたり
し可゛代 く王ん志よのさむらい
しが だいか んじょのさむらい
両 人 尓む可いま事 ハ王れ
りょうにんにむかいまことはわれ
をし鳥のつ可゛い奈り
おしどりのつがいなり
者可らずも大 ぐうじ尓
はからずもだいぐうじに
とら王れ
たらわれ
(大意)
文太夫婦はふし付け刑の難を
逃れ呆然として
いましたが、代官所の侍が
両人に向かって申し述べました。
「まことはわたしは
おし鳥のつがいなのです。
はからずも大宮司にとらわれてしまい
(補足)
「ふし付能」、「ふし付」は簀巻きの刑。変体仮名「能」(の)はよくでてきます。
「ま事ハ」、「真(まこと)は」なのですが、この字の並びは馴染みがなく、すぐにはピンときません。
P16 国立国会図書館蔵
(読み)
代 く王んしよの
だいか んしょの
さむら
さむら
いと
いと
ミへしハ
みえしは
さてハ
さては
小志本可゛
こしおが
者奈せし
はなせし
をし鳥 で
おしどりで
あつ多よ奈
あったよな
これゟ
これより
ふうふも
ふうふも
ミやこへ
みやこへ
たづ年ゆ起
たずねゆき
む春め尓
むすめに
あをうぞ
あおうぞ
ふしぎ\/
ふしぎふしぎ
(大意)
代官所の侍と見えたのは
さては、小しおが放したおし鳥
だったのでした。
これから、娘に会おうと、
文太夫婦も
都へ訪ね出かけたのでした。
ふしぎふしぎ
(補足)
この頁はすべて読むことができました。
塩を煮詰めています。ゴミや雨などのためか屋根をかぶせています。
P15 国立国会図書館蔵
(読み)
代 くわん志よゟ 使 として
だいか んじょよりつかいとして
何 可し来 り??文 太
なにがしきたり??ぶんた
ふうふ可゛つミをゆるしふし可゛けを
ふうふが つみをゆるしふしが けを
やめられ个るぞ
やめられけるぞ
あり可゛多个れ
ありが たけれ
い可尓文 太
いかにぶんた
そち多ち両 人
そちたちりょうにん
をし鳥 のため
おしどりのため
つミせし?
つみせし?
事 ふびん尓
ことふびんに
お本しめして
おぼしめして
御た春け
おたすけ
あるぞ
あるぞ
(大意)
代官所より某使者がやって来ました。
「罪人なる文太夫婦の罪を許し
ふし掛けを解かれたぞ。
感謝せよ。
なんと文太よ、
おまえたち両人は
おしどりを逃したことを不憫に
おもわれてお助けくださったのだ」
(補足)
「何可し来り??文太」、「??」は「ぬひ」(奴婢)でしょうか。または「何可し来りぬ」できれて「ひ文太」、「ひ」は「匪」で「わるもの」の意味。ウ~ン・・・
「つミせし?」、前後関係から推理しようともウ~ン。
平仮名の「た」や「け」も使われてます。
前回、視線の先に大宮司がいると記しましたが、間違いでした。顔が似ているだけでした。
使者の某は右手に扇を逆さにもって、指示棒のように使っています。よくある仕草だったのかも。
P14 国立国会図書館蔵
(読み)
すで尓
すでに
よるのいぬの
よるのいぬの
こく者゛可り尓
こくば かりに
文 太ふうふ
ぶんたふうふ
すま起尓
すまきに
奈り
なり
うミへ
うみへ
うちこまれんとせし
うちこまれんとせし
ところ尓
ところに
(大意)
すでに夜の戌の刻(19時〜21時)頃になって
文太夫婦は簀巻きにされ、
海に放り込まれようとしていた
ところに
(補足)
やっとまともに読めたような気がします。
背景は和船にふたつの重しと櫂(かい)。浜には文太夫婦がいままで簀巻きにされていたものが広げられて筵(むしろ)代わりになっているようです。夫婦の視線の先には代官所の侍や大宮司がひかえています。
海の波の様子、和船のつくり、浜の人物、むしろがわりの簀などどれも丁寧に描かれています。
P13 国立国会図書館蔵
(読み)
文 太ふうふを
ぶんたふうふを
ふしづけ尓する
ふしづけにする
「ね」
む多゛本年おつ多
むだ ぼねおった
をれまで可゛う者ら奈
おれまでご うはらな
もとゟ 正 じきなる文 太
もとよりしょうじきなるぶんた
ふうふ子由へ尓つミせらるゝ
ふうふこゆへにつみせらるる
事 す奈しも王るびれず
ことすなしもわるびれず
すま起尓奈りうミへ志づめらるゝ
すまきになりうみへしずめらるる
男 共 てあら尓あつ可う
おとこどもてあらにあつかう
(大意)
文太夫婦をふしづけに処する。
「ね」無駄骨をおった。オレまで腹がたった。
もとより正直な文太夫婦の子でしたから
罪を犯したわけもなく、
悪びれずに簀巻きになり、海へ沈められそうになり
男どもは手荒に扱うのでした。
(補足)
「ふしづけ」、ふしづけ【柴漬け】① 冬,柴(しば)や笹(ささ)を束ねて湖や川岸に沈めておき,寒さを避けて集まりひそむ魚を捕らえるもの。粗朶(そだ)巻。漬け柴(しば)。笹伏せ。②〔その形が① に似ていることから〕罪人などを簀巻(すま)きにして水中に投げ入れること。「とときの淵に―にしたてまつりけり」〈曽我物語2〉。と辞書にありました。
「をれまで可゛う者ら奈」、「オレまでが」できると意味がわかりません。「可゛う者ら奈」は「業腹」(ごうはら)でした。なかなかわかりませんでした。
「つミせらるゝ」、「らるゝ」が「し奈く」とも見えて、よくわかりません。
「事す奈しも」、ここも自身がありません。
「男共」、「共」はわかったのですが「男」がてごわかった。
重しの石がありますがこれは前頁の文太の簀巻きにつながっています。ねじかね婆は関取並にでかい。文太の妻の帯の結びが前にきています。文太は悪びれずにかもしれませんが、奥方はとてもいやそう。
P12後半 国立国会図書館蔵
(読み)
ふて\゛/しい
ふてぶ てしい
をやぢめ多゛
おやじめだ
む春めハ
むすめは
どつちへ
どっちへ
尓可し多
にがした
もとより
もとより
可くごの
かくごの
まへ
まえ
い可やうとも
いかようとも
(大意)
ふてぶてしいおやじだ
娘はどっちへ逃した
もとより覚悟の上
どうともしろ
(補足)
「かくごのまえ」(覚悟の前)、『前もって十分に覚悟していること。覚悟の上。「これらはもとより―にて侍れば」〈平治物語•上・古活字本〉』とありました。
文太はとても丁寧に頑丈に簀巻きにされています。描くのもねんがいってます。重しがなんともおもたそう。
P12前半 国立国会図書館蔵
(読み)
「大」
きつくいましめよ
きつくいましめよ
大 ぐうじ
だいぐうじ
心 を可けし小志本ハ
こころをかけしこしおは
可けをちさする
かけおちさする
そのうへひそう
そのうえひそう
してあづけをく
してあずけおく
をし鳥 ハ尓可゛す
おしどりはにが す
一 可多奈らずい起
ひとかたならずいき
とをり者らたちて
どおりはらたちて
(大意)
きつくしめあげろ。
大宮司は我がものとしようとした小しおが
駆け落ちをするは、
そのうえ、秘かに飼ってあずけておいた
おし鳥を逃がすは
大いに憤慨し、腹をたてました。
(補足)
書き手も彫師も摺師も上手とみえて、読みやすい。
「きつく」、「く」は「と」にも「こ」にもみえます。「く」の上に点がありこれは平仮名ではなく変体仮名「久」(く)でしょうか。
「可けし」、「け」の中央に「し」の先端が入っています。
「い起とをり」、「ど」と読めばすぐにわかりました。
この絵師は手や足を小さく描くのが好みのようです。
大宮司の蜘蛛の巣のような柄や家来のラーメンどんぶりの縁の模様のような柄もおもしろい。
P11後半 国立国会図書館蔵
(読み)
「文」
奈尓\/
なになに
王多くし
わたくし
たちの起
たちのき
候 あとハ
そうろうあとは
さぞ\/
さぞさぞ
御両 志ん
ごりょうしん
い可゛い
いが い
御くらう尓
ごくろうに
候 者ん
そうらわん
可王いや\/
かわいやかわいや
(大意)
なになに
『わたくしが立ち退きましたあとは
さぞさぞご両親様にはご苦労が
あるかもしれません』
かわいいのう、かわいいのう。
(補足)
「奈尓\/」のあとは小しおの書き置きの文です。
「И」+「ゝ」のようなかたちの文字が2箇所あります。手紙文の「候」です。
「m」のようにみえるのは「御」のくずし字。「両」のくずし字が「あ」にみえます。「志ん」が一文字のようでまぎらわしい。
「いがい」、「意外」でしょうか。予想外。思いがけないこと(さま)。
「候者ん」、「そうらわん」です。
文太の前に置いてある両端を絞った紐つきの筒状のものは何でしょう?手紙が入っていたもの?
P11前半 国立国会図書館蔵
(読み)
文 太
ぶんた
ふうふ
ふうふ
むすめ可゛
むすめが
可起を起を
かきおきを
ミてあんどする
みてあんどする
さてハ小志本ハすけ八と
さてはこしおはすけはちと
つれてたちのい多る
つれてたちのいたる
で可し多\/
でかしたでかした
(大意)
文太夫婦は
娘の書き置きをみて
安堵しました。
どうやら、小しおは助八と
一緒に逃げたようだ。
よくやった、よくやった。
(補足)
この見開きの頁は文字がみやすく角がたってないような感じで、書き手か彫師が他の頁と違うような気がします。
文太の妻の座り方が左膝を立てています。お行儀が悪いわけではなく、実際にくつろいでいる時はこのうような立膝の座り方をしていたようです。
ふたりとも手がちっこいですね。
P10 国立国会図書館蔵
(読み)
「助」
そ奈多ハく多びれハせぬ可もふ
そなたはくたびれはせぬかもう
二三 りあるびや
にさんりあるびや
小志本つまの可多へ
こしおつまのかたへ
ふミして志らせ
ふみしてしらせ
両 人 うちつれて
りょうにんうちつれて
ミやこの可多へ行
みやこのかたへゆく
(大意)
あなたはくたびれてないか(大丈夫か)、もう
二三里歩こう。
小しおは恋人である助八に
手紙を書きしらせ
二人して都へ逃れ行きました。
(補足)
「あるびや」、あよ・ぶ【歩ぶ】①あるく。あゆむ。「鬼は―・び帰りぬ」〈宇治拾遺物語・9〉。などとありました。
「小志本つまの可多へ」、つま 1【夫・妻】① 〔配偶者の意〕夫婦や恋人などが,互いに,相手を呼ぶ称。男女ともに用いた。
小しおの裾は地面を引きずって、都についたときにはさてどうなっていることやら。
P9後半 国立国会図書館蔵
(読み)
ねち可年者゛ゝあきれ
ねじかねば ばあきれ
者て又 もやてを可へ
はてまたもやてをかえ
をそろしき
おそろしき
せめ尓あハさんと
せめにあわさんと
大 ぐうじの
だいぐうじの
可多へ行
かたへゆく
さても\/ こ尓くらしい
さてもさてもこにくらしい
女 め可奈此 うへハ多゛ん奈と
おんなめかなこのうえはだ んなと
そう多゛んしてつるしあげ
そうだ んしてつるしあげ
こ可゛多奈者゛りて??や可゛し
こが たなば りて
あや奈し申 さん
あやなしもうさん
(大意)
ねじかね婆は呆れ果て、あきらめずにまた
手をかえ、恐ろしいせめにあわそうと
大宮司のところへ行きました。
「さてもさてもなんと小憎らしい
女であることか。このうえは旦那さまと相談して
(もっと厳しい責をして)
思い通りにしてやる。
(補足)
「あきれ者て」、「あき」を「尓さ」と読み、「者て又」とつづけたのでなんか意味が変でした。
「さても\/」、「も\/」の部分がなかなかわかりませんでした。
「つるしあげ こ可゛多奈者゛りて??や可゛し」、部分部分は読めますが、ウ~ン、わかりません。
ねじかね婆さんは眉間にしわをよせ口はムの字、裸足です。腹に「ね」とあります。
この頁は読めないところが多すぎです。先を読みすすめながら考えます。
P9前半 国立国会図書館蔵
(読み)
助 八
すけはち
二志る?起の
にしる?きの
村 尓い多りし可゛
むらにいたりしが
小し本可゛可多ゟ のふミを
こしおが かたよりのふみを
ミてつれての可んと来 る
みてつれてのかんときたる
(大意)
助八
????
村に着いたが
小しおからの手紙を
見て、連れて逃げようと
(文太の)家にやって来ました。
(補足)
P8P9は見開きで家の藁葺き屋根がつながっています。
「二志る?起の」、読みがわかりません。「荷売るわきの」?
「小し本可゛可多ゟ」、この「可多」は「方」でしょうか。
当時、子どもたちは読みがわからないと、大人に聞いたのでしょうが、わたしの周りには誰もいません、ウ~ン・・・
P8 国立国会図書館蔵
(読み)
をし鳥 よろこびとんでゆく
おしどりよろこびとんでゆく
小志本身のくるしミ尓
こしおみのくるしみに
おもいくらべをし鳥もさぞ
おもいくらべおしどりさぞ
つまこいし可らんとふびんさ
つまこいしからんとふびんさ
いやまし可こゟ
いやましかごより
出し者奈しやる
だしはなしやる
「小」
助 八 さんハどふして????じや
すけはちさんはどうして
も者や内 尓ハいられまい
もはやうちにはいられまい
(大意)
おし鳥はよろこんで飛んでゆきました。
小しおは自分と一羽だけのおしどりの身の苦しさをおもいくらべました。
おしどりはさぞ妻が恋しいのだろうとおもうとその不憫さがいっそうまして
カゴより出して逃してやりました。
助八さんは今頃どうしていることでしょうか。
(わたしはおしどりを逃してしまったので)もはや家にはいることはできないでしょうに。
(補足)
「おもいくらべ」、最初「くしべ」と読んでしまい、何のことだろうと悩みました。
「ゟ」は合字「より」。
「どふし????じや」、「じや」のうえ二文字は「い事」のように見えます。意味はわかるので不明な部分を埋める言葉はと推理するのですが・・・
他の頁の籠もそうでしたが、籠の網そのものは丁寧に描かれていて、透けて見えるその向こうまで描かれていれば完璧でしたけど絵本ではそこまで凝ったことはしてなさそうです。
小しおの着物の裾が地面にするくらいに描かれています。その後ろには縄のれん。
P7 国立国会図書館蔵
(読み)
ねぢ可年者゛ゝ
ねじかねば ば
いろ\/
いろいろ
だまし个れ共
だましけれども
小志本可゛てん
こしおが てん
せぬ由へ
せぬゆえ
松 者゛尓て
まつば にて
いぶし
いぶし
ころさん
ころさん
とする
とする
「ね」
志ぶとい
すぶとい
とちあま
とりあま
め多゛
めだ
たぬ起もど起
たぬきもどき
いぶつて
いぶって
やらう
やろう
尓くい
にくい
つら可奈
つらかな
「小」
どのやう尓
どのように
せわられても
せわられても
心 尓志多可゛う事 ハ
こころにしたが うことは
いやじや
いやじゃ
(大意)
ねじかね婆はいろいろと
だましたのですが
小しおは承知しなかったので
松葉でいぶし
殺そうとしました。
「ね」
しぶとい
馬鹿な女だ
たぬきのように
いぶし殺してやる
憎らしい面だ
「小」
どのように
しつこく頼まれても
おまえの言うようになるのは
いやじゃ
(補足)
ふぅ、この頁でやっと完読できました。
「だまし个れ共」、「たぬ起」、この頃(寛延二年1749年)は平仮名「た」もよく使われていたようです。明治前後ではめったにみることはなくほとんど変体仮名「多」(た)になります。
「とちあま」、調べてみるとそのままのっていました。きっと、どじなあまがつまったのでしょう。
「たぬ起もと起」、これはぶんぶく茶釜をもじったものか。
「せわられても」、「せわる」という動詞がのっていました。せがむ。うるさく催促する。
「心尓志多可゛う事ハ」、小しおの本心は助八にあるので、ねじかね婆になびくのは本心ではないはずですが、この言葉通りではおかしい。読み違えたか。いぶされて、小しおは気持ちよさそうだし・・・
P6後半 国立国会図書館蔵
(読み)
「ね」
どう多゛可゛てんしろ
どうだ が てんしろ
だん奈の
だんなの
よめ尓
よめに
奈ると
なると
此 よふ奈
このような
小そでハ
こそでは
いくらも
いくらも
きるぞや
きるぞや
「小」
奈ん本゛でも
なんぼ でも
王しや
わしゃ
いや\/
いやいや
(大意)
「ね」
どうだ。承知しろ。
旦那の嫁になれば
このような
小袖はいくらでも
着ることができるぞ。
「小」
なんといわれようと
いやじゃいやじゃ。
(補足)
「どう多゛」としましたが、「どうじゃ」かもしれません。「マ」のかたちに見える部分がわかりません。
小しおの前に、小袖・櫛・笄(こうがい)ともう一つありますが、なんでしょうか。
ねじかね婆の顔がかすれているのは、この本の持ち主が意地悪婆めと指先でこすったのかもしれません。
P6前半 国立国会図書館蔵
(読み)
大 くうじ小志本をて尓入 んため文 太
だいぐうじこしおをてにいれんためぶんた
ふうふをよびねぢ可年者゛ゝ尓申 付
ふうふをよびねじかねば ばにもうしつけ
いろ\/く連可すれ共 小志本外 へ
いろいろくれかすれどもこしおほかへ
?の????奈个れハ可てんせづ
??????なければがてんせず
小そでくし可う可゛い奈と
こそでくしこうが いなど
いろ\/とりい多゛して
いろいろとりいだ して
とくしんせよといふ
とくしんせよという
(大意)
大宮司、小しおを手に入れようと文太
夫婦を呼び、ねじかね婆に申し付けました。
いろいろなものを与えたのですが小しおは
欲しい物もなく受け入れませんでした。
小袖・櫛・笄(こうがい)など
いろいろ見せて
納得しろとせまりました。
(補足)
「小志本をて尓入んため」、「尓」は「ふ」に見えますし、「入」が漢字かもといろいろ迷いました。
「ふうふをよび」、「よび」は「よけ」にもみえますが、意味が変。
「?の????奈个れハ」、ああでもないこうでもないと迷うのですが、最初の一文字が読めません。迷いましたが「心」のようにも読めます。「心のふるし事」でしょうか。ウ~ン。
P5後半 国立国会図書館蔵
(読み)
大 くうし鳥 をす起て可へり中 尓もおし鳥 をひそう
だいぐうじとりをすきてかえりなかにもおしどりをひそう
して文 太尓あつけをく又 そのころミやこゟ 来 る
してぶんたにあづけおくまたそのころみやこよりきたる
助 八 といふあきんどいつも文 太可゛もとをやどとせり
すけはちというあきんどいつもぶんたが もろをやどとせり
小志本歌道 をこのめバ助 八 尓奈づミいつし可
こしおかどうをこのめばすけはちになづみいつしか
ふ可くいゝ可王し此 よ奈らぬ中とぞ奈り尓个る
ふかくいいかわしこれよならぬなかぞなりにける
文 太もむ春め可゛?いけとり志るとハいへども
ぶんたもむすめが ?いけとりしるとはいえども
春け八 可゛人 可゛らいやし可らねハミぬふり尓てい多る
すけはちが ひとが らいやしからねばみぬふりにていたる
(大意)
大宮司は鳥が好きで中でもおし鳥を秘かに
文太にあずけていました。またその頃都からやって来た
助八という商人はいつも文太の家を宿としていました。
小しおは歌を詠むことが好きで助八になじんでいつしか
深く言い交わし、ならぬ中になりました。
文太も娘が助八を好きであることはわかっておりましたが
助八の人柄がよかったので見て見ぬ振りをしていました。
(補足)
読めないところが何箇所もあり、前後から類推しましたのでフィクションになっていそうです。
「をす起て可へり中尓も」、読みがあっているのか、あってたとしても正確な意味がどうもわかりません。「可へり」は「可ハり」かも。「中」がかすれていて読みが違いそう。しかし全体的な意味は「鳥が好きで中でもおし鳥を秘かに飼っていて」だとおもいます。
「ふ可くいゝ可王し此よ」、「ふ」が「や」に見えました。「いゝ可王し」は悩みました。
「此よ」は「これよ」だとおもうのですが、「よ」は「尓」?、そして意味が?
「む春め可゛?いけとり」、ウ~ン。
わからないところだらけでへこみます。
P5前半 国立国会図書館蔵
(読み)
をし鳥 ハもろ
おしどりはもろ
こし尓可ん者くといふものあつて
こしにかんはくというものあって
そのふうふ
そのふうふ
ミ可と尓ころされ
みかどにころされ
そ能れいこん
そのれいこん
二羽の鳥 と
にわのとりと
奈りて
なりて
をし鳥 と
おしどりと
申 いろうつまを
もうしいろうつまを
志多う鳥 で
したうとりで
ござります
ござります
(大意)
おし鳥は唐土
に関白というものがあって
その夫婦は
帝に殺されました。
その霊魂が
二羽の鳥となって
おし鳥と申すのだそうです。
美しい妻を慕う鳥でございます。
(補足)
「可ん者く」、読みはこれでよいとおもうのですが、意味が?「関白」としましたがやはり変です。
「そ能れいこん」、変体仮名「能」(の)としましたけど「乃」かもしれません。
「申いろうつまを」、はじめ「い可う」と読んだのですが意味不明。で、「いろう」を調べてみると、「色ふ・彩ふ」がありました。文字通りの意味でした。
丸に「助」が右袖にあります。美男です。商人なので箱に売り物が入っているのか大きな荷物、全ページの桶を担いでいた二人の職人の天秤棒もそうでしたが、ここの天秤棒も両端にちゃんと紐が滑り落ちないための止めが描かれています。なかなか細かい。
P4後半 国立国会図書館蔵
(読み)
者ての
はての
春け八 どの
すけはちどの
をし鳥 の
おしどりの
い王れを
いわれを
者奈して
はなして
き可
きか
さつしやれ
さっしゃれ
をミらハ
おみらは
志りませぬ
しりませぬ
(大意)
はての
助八殿
オシドリの
いわれを
はなして聞かせて
ください。
わたしたちは
しらないのですよ。
(補足)
頁の真ん中の「者ての」は文太がつぶやいた言葉なのか、上段からのつながりなのか、わかりません。
「をミらハ」、読み方を間違えているかもしれません。
鳥籠に入っているのはオシドリです。
まだまだ読めないところがたくさんあって、頁をすすめるたびにため息が増えます。ふぅ〜。