P.3
P.3 上段前半
(読み)
一九 可゛さくよく
いっくが さくよく
で起个れバゑを
できければえを
可ゝセて者ん
かかせてはん
ぎヤへあつらへ
ぎやへあつらへ
むら多ヤ奈ん
むらたやなん
でも者やく
でもはやく
志こんでおいて
しこんでおいて
おもいれうる
おもいれうる
つもり奈れバ
つもりなれば
さつき う尓
さっきゅうに
セ年バ奈ら
せねばなら
ず者ん
ずはん
ぎヤ尓
ぎやに
(大意)
一九の作品が良い出来だったので
絵を描かせて版木屋へ彫りを頼んだ。
村田屋は何でも早めに仕込みをしておいて
思う存分販売するつもりなので、
急いで事を運ばねばならず
版木屋に
(補足)
「さくよく」、「よ」の短い横棒がありません。
「ゑを可ゝセて」、「可ゝ」がなやみますが、「う」にみえるのはたいてい「か」。「ゑ」が「志」に似てますが、
「志こんでおいて」の「志」と比べると違いがわかります。
また「お」の点をとった形が「あ」になりますが、4行目「あつらへ」の「あ」で確かめられます。
「おもいれにうる」、この「おもいれ」は現在では使われなくなった意味です。
「セ年バ奈ら」、このあと6行目にもありますが「ね」の変体仮名「年」のかたちは特徴的で
「○」の横下に「丶」です。実際のくずし字でも同じで「○」になります。
あいかわらず「ら」と「う」が分かりづらいですが、前後の意味から判断するのがよさそう。
彫師の姿が興味深い。
親方と一番弟子は同じ作りの(作業)机を使ってます。
力をかけるからでしょう、畳摺り桟(たたみすりさん)があります。
また机の両側には筆返しがあります。
職人さんの道具が鑿・小刀の3本しかないのは簡略したのでしょう。
煙管はかかせなかったもののようです。
真ん中のまだ髷を結ってない弟子の作業机は一人前の職人のものとは異なっています。
小刀で彫っています。左横には道具が3本。
それにしても、彫師の腕は驚異的です。
この頁の文章も彫っているわけですが、不定形な筆の手跡を「はね」や「とめ」、前後のつながりまでちゃんと表現しているのですから、手先が器用であるとかそのようなことは超えてしまっています。
鑿・小刀など刃物類を製造する職人さんたちもたくさんいたし、研ぎ師もいなくてはこれだけのものは彫れません。版木は桜材が多いのですが、それらの供給も十分にあったのでしょう。
次から次へと彫られてゆくのですから、その技量にため息しか出ません。
こんな大変な仕事でも給金はそれほど良くなかったはずです。
職人の地位や給金は低く、この技術でひと財産を築くことは出来ませんでした。
これら職人たちをこき使った商人たちが大儲けしたのです。
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