2023年7月6日木曜日

箱入娘面屋人魚 その34

P18P19 国立国会図書館蔵

P18

P19

(読み)

P18

まいつるやの伝 三 ハ七 両  二分出して

まいずるやのでんぞうはしちりょうにぶだして


とん多゛や川可いものを引 づりこミ

とんだ やっかいものをひきずるこみ


可年て飛年川多あくあんじを志多可゛る男  由へ

かねてひねったあくあんじをしたが るおとこゆへ


うぬハぐ川とあん

うぬはぐっとあん

P19

じ多きて人 魚 の奈を魚人(うをんど)とあら多め

じたきでにんぎょのなを   うおんど とあらため


ち可\/尓つき多しのおいらん尓するつもり奈り

ちかぢかにつきだしのおいらんにするつもりなり


〽多゛ん奈さんハ

 だ んなさんは


けし可らぬあんじを

けしからぬあんじを


なさるぢき尓

なさるじきに


者多きさう奈

はたきそうな


こ川多と

こったと


女  可ミ由ひ

おんなかみゆい


口 の内 天゛

くちのうちで


いふ

いう

(大意)

舞鶴屋の伝三は七両二分を出して、とんだ厄介者を引きずり込んだ。

以前よりあれこれ考えていた悪いもくろみをしたがる男なので、

本人は考えあぐねたつもりで、人魚の名を「魚人(うおんど)」とあらたにして

近々に突出しの花魁にするつもりとした。

「だんなさんはけしからぬもくろみをなさる。

じきに失敗するだけさ」と女髪結いはブツブツ言う。

(補足)

「出して」、「出」と「て」のあいだが変体仮名「多」にもみえますけど。

「可年て飛年川多」、「て」以外はみな変体仮名。

「うぬ」、「う」「ら」変体仮名「可」はみなそっくりです。

 伝三が股引をぶら下げています。よく見なくてもこの股引、指先の分かれた足袋までついている特注品でありました。お足がなければ始まらぬ、伝三は(苦)笑い。

そのうしろには、薦被(こもかぶ)りの四斗樽(四十升)の酒樽より酒を注いでいます。提子(ひさげ)からあふれてしまっても、こぼさぬように桶の中でしているところが実際の酒屋での所作。わたしが子どものころまでは、このようにしていました。お使いで酒屋にいくときは瓶をもち、豆腐屋へは鍋を持っていくのは当たり前でした。

 「銘酒男山」そして「山本」とあるので調べてみました。現在では「男山」というと北海道旭川の酒を第一に思い浮かべます。どうやら本家である摂州伊丹の本家は廃業したようで、それを現在の北海道の蔵元が復活させたようです。

 また、提子に入れている娘は、禿(かむろ)でしょう。薦被りが筵でくるまれているのを丁寧に描いていますが、禿もこれまたそれ以上に細かく描写されています。髪の襟足など手をぬいていません。右手に持っている細長い棒状のものはきっと、酒樽の注ぎ口の栓でしょう。裾からのぞいている足の向きがなんか変で、どんな座り方をしているのやら。

 源氏名を魚人(うおんど)としたのは、当時、吉原では松原屋に松人(まつんど)、扇屋に花人(はなんど)といった名高い遊女がいたのをもじったものと、ものの本にはありました。

 

 

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