2023年7月31日月曜日

箱入娘面屋人魚 その58

P30P31 国立国会図書館蔵

(読み)

〽せミのぬけ可らとち可゛ひ

 せみのぬけがらとちが い


人 魚 のぬけ可らハめづらし个れバ

にんぎょのぬけがらはめずらしければ


こ連をきくす里やへうり

これをきぐすりやへうり


平 二可き年のそとの金 を

へいじかきねのそとのかねを


もう个る

もうける


よいとき尓ハ

よいときには


よい事 者゛可り

よいことば かり


ふき付 るもの奈り

ふきつけるものなり


P31

〽ゆくすへ

 ゆくすえ


とも尓

ともに


まもるべし

まもるべし


可奈ら須

かならず


う多可゛ふ

うたが う


事 奈可れ

ことなかれ


志可し

しかし


あて尓も

あてにも


する事

すること


奈可れ

なかれ


ドロン\/

どろんどろん


ドロ\/\/\/

どろどろどろどろ

(大意)

 蝉の抜け殻とちがい人魚の抜け殻は珍しく

これを生薬屋へ売り、平次はもうひともうけをした。

良いときには良いことばかりが続くものである。

(浦島)「これから先は夫婦ともに手を取り助け合いなさい。

疑うことなどもってのほか。しかし、頼りきってもいけないよ。」

どろどろどろん。

(補足)

 桃がふたつに割れてあらわれた桃太郎を意識したかどうかはわかりませんが、

人魚の抜け殻がわれて、あらわれたような構図です。

 平次の前の玉手箱から立ち上るのは白い煙。浦島太郎と奥さんの鯉(人魚の母親)は科白とともに大きな吹き出しの中にあって、異世界からあらわれたような光景になっています。

 この版では、浦島太郎が髭をはやしています。いたずら書きかな・・・


 

2023年7月30日日曜日

箱入娘面屋人魚 その57

P30P31 国立国会図書館蔵

P31

(読み)

〽さて女  本う人 魚 も

 さてにょうぼうにんぎょも


王可ひてやい可゛

わかいてあいが


手を付 多り

てをつけたり


あしをつけ多可゛りし

あしをつけたが りし


一 袮ん尓て

いちねんにて


者可まを

はかまを


ぬき多るごとく

ぬぎたるごとく


一 可ハむけ

ひとかわむけ


あし手可゛

あしてが


できて本んとうの

できてほんとうの


人 間 と奈り

にんげんとなり


个るこそ

けるこそ


も川とも

もっとも


あまり

あまり


こじつけ尓て

こじつけにて


うま春き多る

うますぎたる


本どふしぎ奈り

ほどふしぎなり


〽平 次ハ人 魚 と

 へいじはにんぎょと


中 む川ましく

なかむつまじく


うとくの

うとくの


ミと奈り

みとなり


さ可い丁  へんへ

さかいちょうへんへ


ぢ う多くを

じゅうたくを



引 こし个る此 所  を人 魚 丁

ひっこしけるこのところをにんぎょちょう


といひし可゛今 ハ人 形  丁  と

といいしが いまはにんぎょうちょうと


あやまり个る

あやまりける

(大意)

 さて女房の人魚も、若い連中が手をつけたい足をつけたいという一念が

通じたのか、袴を脱いだかのように一皮むけて手足ができて本当の人間になった

というのは、はなはだあまりのこじつけで出来すぎた不思議なことである。

 平次は人魚と仲睦まじく金持ちの身となり、堺町あたりに住宅を建て、引っ越した。

ここを(もと人魚が住むというので)人魚町というのだが、いまは訛って人形町と

言い伝えられている。

(補足)

 人形町は現東京都中央区日本橋の町名。人形師が多く住んでいたので俗称でそう呼ばれていた。近くの十軒店に「面屋(めんや)」という屋号の人形屋が実際にあった。その面屋と人形が箱入りで売られていたことから本作の書名「箱入娘面屋人魚」とした、とものの本にはありました。

 

2023年7月28日金曜日

箱入娘面屋人魚 その56

P30P31 国立国会図書館蔵

P30

(読み)

平 二大 き尓

へいじおおきに


よろこび个る

よろこびける


これ多満ごで

これたまごで


ふやして

ふやして


く王ゐで

くわいで


へらし多

へらした


やう奈

ような


もの奈り

ものなり


〽きよ袮ん

 きょねん


ふ可川 の八 まんで

ふかがわのはちまんで


可いちやうありし

かいちょうありし


玉 手者こハ

たまてばこは


す奈王ち

すなわち


これ奈り

これなり

(大意)

平次は大変に喜んだ。

これはたまごで増やし、クワイで減らしたようなもので

落ち着くところに落ち着いた。

去年深川の八幡で開帳した玉手箱は

つまりこれだったのだ。

(補足)

「よろこび个る」、ここの「こ」は前後で使われている形とは異なっているようにみえます。変体仮名「古」(こ)でしょうか。

「多満ごでふやしてく王ゐでへらし多やう奈もの」、なんのことかわかりません。ものの本には次のようにありました。たまごは強精、クワイは精を減らす食べ物と考えられていたことから、精力の均衡がとれたことをいう。

「ふ可川の八まんで可いちやうありし玉手者」、横浜の東神奈川近くにある慶運寺は別名浦島寺とよばれ、そこの玉手箱が当時江戸の町で開帳されたという記録があるそうです。


 

2023年7月27日木曜日

箱入娘面屋人魚 その55

P30P31 国立国会図書館蔵

P30

(読み)

さてもつりふ年ふうふ奈んぎの

さてもつりふねふうふねんぎの


ところへうら志ま太郎 こいを

ところへうらしまたろうこいを


どう\/してあら王れ出 可の

どうどうしてあらわれいでかの


こともと奈りし平 次尓

こどもとなりしへいじに


多満手者このふ多を

たまてばこのふたを


あけさせ个れハあい可ハら須゛

あけさせけれはあいかわらず


としの

としの


よる玉 手者この

よるたまてばこの


ゐとく尓て

いとくにて


て うどいゝ

ちょうどいい


可希゛んの

かげ んの


男  ざ可り

おとこざかり


かん平 どの尓

かんぺいどのに


奈る可奈ら須゛と

なるかならず と


いふとし

いうとし


可川こう尓

かっこうに


奈り个れハ

なりければ

(大意)

さて、釣船の平次夫婦がいろいろと面倒なことになっているとき、

浦島太郎が鯉といっしょにあらわれ出た。あの子どもになってしまった

平次に玉手箱のふたを開けさせると、いつになっても古びている玉手箱の

威徳のある力のおかげで、ちょうどよい年格好の(早野)勘平に似ているとも似ていないともみえる男盛りになっていた。

(補足)

早野勘平は仮名手本忠臣蔵で31歳で亡くなっている。

「可希゛んの」、変体仮名「希」(け)と読みましたが、この変体仮名はあまりみません。

 浦島太郎が玉手箱を持ってあらわれ、それを幼子になった平次に開けさせるとは、なんとも奇抜なはなしの展開、おもしろい。平次の衣装のなりで今度は顔もツヤツヤの男盛りに若返っています。

 平次の右肩には「平」、左の腰蓑をつけた浦島の右袖に「浦」、その隣には頭にでっかい鯉をのせた美人、帯柄は青海波。浦島の袖や裾のところの柄は浪となっていて、凝ってますねぇ。

 

2023年7月26日水曜日

箱入娘面屋人魚 その54

P29 国立国会図書館蔵

(読み)

女  本うハ尓んぎよていし由ハ

にょうぼうはにんぎょていしゅは


子どもさりとハつまらぬ

こどもさりとはつまらぬ


事 と奈るあまり由き

こととなるあまりゆき


すぎるものを奈め

すぎるものをなめ


春ぎ多や川多゛と

すぎたやつだ と


いふも

いうも


こん奈

こんな


事 可ら

ことから


いひ

いい


出せし

だせし


奈るべし

なるべし


〽それミ奈せへし

 それみなせえし


あんまり奈め

あんまりなめ


すぎ奈者る可ら

すぎなはるから


そう多゛

そうだ


〽可ゝアヤこれ

 かかあやこれ


まあどうし多

まあどうした


もん多゛

もんだ


アゝちゝ可゛

ああちちが


のミ多く

のみたく


奈つ多

なった

(大意)

女房は人魚、亭主は子ども、こうなっては

目も当てられぬ事となった。

あまりにゆき過ぎるヤツのことを

嘗め(すぎ)たヤツだというのは

こんな事から言い出したのだろう。

(補足)

「つまらぬ事と奈る」、「る」は変体仮名「留」のかたちで、丸っこい。そして「る」のかたちになっているのが「事」のくずし字と変体仮名「奈」(な)。

「奈るべし」、こちらの「奈る」は同じく変体仮名「奈」が「る」のかたちで、次の「る」はほとんどかたちになっていません。

「可ゝアヤ」、いったん読めてしまえばなんでもないですけど、初見では??でした。

 平次が大人のなりで、そのまま子どもの顔つきになっているのが愉快ゆかい。

 

2023年7月25日火曜日

箱入娘面屋人魚 その53

P29 国立国会図書館蔵

(読み)

平 二ハまんとし多可年

へいじはまんとしたかね


もちと奈り此 うへの

もちとなりこのうえの


よく尓ハどいの二 郎尓

よくにはどいのじろうに


あら年どもとし二十

あらねどもとしはたち


多゛尓王可くんハおもしろ

だ にわかくんばおもしろ


多ぬきとてまへもの

たぬきとてまえもの


奈れバま可奈すき可゛奈

なればまがなすきが な


女  本うを奈め个る可゛

にょうぼうをなめけるが


奈めれバ奈める本ど

なめればなめるほど


王可く奈る可゛

わかくなるが


おもしろさ

おもしろさ


尓王れを

にわれを


王すれて

わすれて


あんまり奈め

あんまりなめ


すぎつい尓七 ツ

すぎついにななつ


者゛可りのこぞうと奈り

ば かりのこぞうとなり

(大意)

平次はとんでもない金持ちとなり、

この上の欲は、土肥二郎ではないが、

歳がもう二十歳だけでも若ければよいのだがと、

自分の女房だからと、少しでも暇があるといつも

女房を嘗め続けた。嘗めれば嘗めるほど若くなるのが

面白く、我を忘れてあんまり嘗めすぎて、

ついに七つばかりの小僧となってしまった。

(補足)

「土肥二郎」、源頼朝の家臣、土肥次郎実平(どひのじろうさねひら)。芝居などでは老人として登場するが、もっと若ければ、合戦で活躍できたろうとされる人物。

「此うへの」、「う」がわかりずらい。

「二十多゛尓王可くんハ」、何度か音読して納得。

「多ぬきとてまへもの奈れバ」、どこで区切るか悩む。「多ぬきとて/まへもの奈れバ」「多ぬきと/てまへもの奈れバ」。

「ま可奈すき可゛奈」、間がな隙がな。しばらくわかりませんでした。

女房の脇には行灯があります。夜となく昼となく嘗め続けたことを暗示するとものの本にはありました。なるほどね。

 

2023年7月24日月曜日

箱入娘面屋人魚 その52

P28 国立国会図書館蔵

(読み)

〽人 魚 者可まひつけ須゛

 にんぎょはかまひつけず


つんとしている

つんとしている


〽しやうじん

 しょうじん


日尓ハ

びには


つきやハれ

つきやわれ


袮へよのふ

ねえよのう


〽あすあ多りハむさしやへでもいつて

 あすあたりはむさしやへでもいって


志や連るきハ奈し可へ

しゃれるきはなしかえ


志可しこのごしんぞも

しかしこのごしんぞも


む可ふしまでハ由多゛んの

むこうじまではゆだ んの


奈らねへ奈り多

ならねえなりだ

(大意)

人魚はそんな誘いにもおうじずツンとすましている。

(人魚曰く)「精進日にはお付き合いはできませんのよ」

「明日あたり、武蔵屋へでも行って洒落る気はねえかい。

しかし、このご新造も向島では油断のならねえなりをしてやがる」

(補足)

ローカルな内容で、ものの本にたよらないと理解できません。以下その本よりです。

向島には中田屋(葛西太郎)や武蔵屋権三郎といった鯉料理で有名な料理屋があって、人魚はまちがって料理されかねない。がこれは表向きのことで、江戸郊外向島の料理やなどは出会茶屋(大人の休憩所、ラブホテル)でもあったので、そこで嘗めてみたいというのが本音なのでした。

 

2023年7月23日日曜日

箱入娘面屋人魚 その51

P28 国立国会図書館蔵

(読み)

可くてつりふ年の平 次ハすこしのうち尓女 ウ本゛うの

かくてつりぶねのへいじはすこしのうちににょうぼ うの


お可げ尓て大 可年を

おかげにておおがねを


もうけ今 ハ

もうけいまは


奈尓ふそく奈きミの

なにふそくなきみの


うへと

うえと


奈り个れハ

なりければ


きんじよの王可いてやい

きんじょのわかいてあい


これをうら山 しく思 ひ

これをうらやましくおもい


平 二可゛ぶ男  をミこミ?て

へいじが ぶおとこをみこみ て


人 を人 ツくさいとも

ひとをひとっくさいとも


思 ハ須゛人 魚 をうをツくさい

おもわず にんぎょをうおっくさい


とも思 ハぬや可ら平 二可゛

ともおもわぬやからへいじが


る春といふと志けこミ

るすというとしけこみ


いろ\/いやらしきせりふを

いろいろいやらしきせりふを


のべて者り个れとも人 魚 ハ貞魚(ていきよ)

のべてはりけれどもにんぎょは   ていぎょ


多ゞしく中\/ せう ちせ須゛さ可奈多け

ただしくなかなかしょうちせず さかなだけ


おひれ尓て者年つ个る

おひれにてはねつける

(大意)

かくて釣船の平次は、少しのうちに

女房のおかげで、大金をもうけ

今は何不足のない身の上となった。

近所の若い手合はこれをうらやましくおもい

平次が醜男(ぶおとこ)であることをいいことに

人を人っ臭いともおもわず、人魚を人魚っ臭いとも

おもわぬ輩(やから)は、平次の留守をねらって家にしけこみ

いろいろいやらしいせりふを言ってものにしようとする。

しかし人魚はまさしく貞魚(貞淑)であり、これをなかなか承知せず、

魚だけに尾鰭ではねつける。

(補足)

「大可年を」、すぐには読めず次の「もうけ」でわかりました。

「平二可゛ぶ男をミこミ?て」、「て」の変体仮名は「天」や「帝」がありますけど、それらとはことなっています。「ミ」と「て」のあいだにもう一文字あるようにもみえますけど、わかりません。

 横兵庫に結った人魚は気分良く一服。そのまわりには武家や町人、さかりの付いたオス猫どもが一匹のメス猫の周りにジッとうずくまっている有様であります。

 

2023年7月22日土曜日

箱入娘面屋人魚 その50

P26P27 国立国会図書館蔵

(読み)

〽マアこいの

 まあこいの


きものを

きものを


ぬいで可ら

ぬいでから


ぶ多れやう

ぶたれよう


者奈しねへ

はなしねえ


\/

はなしねえ


〽うぬ可゛き可゛

 うぬが きが


き可袮へ可ら

きかねえから


者やら袮へハ

はやらねえは


このふん者゛りめ

このふんば りめ


者りさけらア

はりさけらあ


P27

奈尓者り

なにはり


さけるへ

さけるへ


きい多ふう奈

きいたふうな


者りさけるとハ

はりさけるとは


このごろ

このごろ


よしハらの

よしわらの


ハやり

はやり


ことバ可へ

ことばかえ


そん奈事 ハ

そんなことは


志ら袮へ

しらねえ


こ川ちやア

こっちゃあ


このふき

このふき


奈可゛し可゛

なが しが


者りさけらア

はりさけらあ


〽おいらハ志らぬ

 おいらはしらぬ


かゝさんハようよ

かかさんはようよ


おとゝ尓奈川多

おととになった


おいらハ志らぬ

おいらはしらぬ

(大意)

「あぁ、鯉の着物を脱いでからぶっておくれ、

はなしねぇ、はなしねぇ」

「おまえが、気がきかねぇからはやらねぇんだ、

このバカ女房が、張り裂けらぁ」

「なにが張り裂けるだ、きいたふうなことを。

張り裂けるとは、この頃吉原の流行り言葉かえ。

そんなことは、しらねぇよ。

こっちはこの鯉の吹き流しが張り裂けらぁ」

「おいらのしったことかい、

かかさんはやっとお魚になったのに、

おいらのしったことかい」

(補足)

 鯉の吹き流しの尻ビレあたりから女房の脚がにょっきり張り裂けて出てきています。

背景の衣桁の竿に着物の脇に鍵らしきものがかかっています。首から下げられるように紐までついています。なんでしょうか?

この絵をみてから、きっと鯉の吹き流しがたくさん売れたこととおもいます。

 

2023年7月21日金曜日

箱入娘面屋人魚 その49

P26P27 国立国会図書館蔵

P27

(読み)

人 魚 を奈めさせて大 金

にんぎょをなめさせてたいきん


をもうけ連バその

をもうければその


と奈りのていし由

となりのていしゅ


よくしんもの尓て

よくしんものにて


や可゛てあんじ付

やが てあんじつき


女  本うの山 の可ミ可゛

にょうぼうのやまのかみが


ふくらすゝめのやう奈

ふくらすずめのような


つらへおしろいをこて\/とぬらせむ年可ら

つらへおしろいをこてこてとぬらせむねから


下 へうちのこぞう可゛五月 のこいのふき

したへうちのこぞうが さつきのこいのふき


奈可しをとり出して者可満尓者可せ

ながしをとりだしてはかまにはかせ


尓多山 尓ん魚 尓志多て天こと\/しく

にたやまにんぎょにしたててことごとしく


可ん者゛んを出し一 奈め二百  文 川ゝのやす

かんば んをだしひとなめにひゃくもんづつのやす


うりを出し可け个れどもこいつハさぎを

うりをだしかけけれどもこいつはさぎを


可らすよ多可をち うさん奈ん本゛

からすよたかをちゅうさんなんぼ


こけ奈俗物(ぞくふつ)でもその手ハ

こけな   ぞくぶつ でもそのては


く王須゛多れひとり奈め尓

くわず だれひとりなめに


こぬ由へていし由やけをおこして

こぬゆえていしゅやけをおこして


ふうふけんく王をおつ者しめる

ふうふけんか をおっぱじめる

(大意)

人魚をなめさせて大金を儲ければ、

その隣の亭主は強欲者で、しばらく考え思い付き

山の神である女房のおたふくのような顔に

白粉をコテコテと塗りたくり、

胸から下は、うちの子どもが五月の鯉のぼりを取り出してきて

袴のようにはかせ、人魚に似た山人魚に仕立て上げた。

大げさに看板まで出し、ひとなめ二百文ずつと安売りにしたけれども、

これは、鷺を烏、夜鷹を昼三とするような嘘っぱち。いくらなんでも

愚かな俗物といっても、こんな手にだまされることもなく、

誰一人としてなめに来るものはいなかった。

亭主はやけを起こして、夫婦喧嘩をおっぱじめてしまった。

(補足)

「山の可ミ可゛」、「山」と気づくまでにちと時間がかかりました。

「ぬらせ」、「ら」のかたちはありませんが、ながれから「ら」。

「こと\/しく」、「こと」は合字。大げさに。

「こぬ由へていし由やけを」、変体仮名「由」と平仮名「や」はまちがえやすい。当時の「や」の形が現在の「ゆ」にそっくり。変体仮名「由」(ゆ)は縦棒が「口」のなかでゆらぎます。

 どこかの長屋で実際にありそうな夫婦喧嘩の光景で、おかしくもあるがちとこわい。

 

2023年7月20日木曜日

箱入娘面屋人魚 その48

P26P27 国立国会図書館蔵

P26

(読み)

ふ可川 の三ぶ可゛者やると

ふかがわのさぶが はやると


両  ごくへもでき

りょうごくへもでき


と奈りでち うしんくらをすると

となりでちゅうしんぐらをすると


こ川ちも忠  臣 くら

こっちもちゅうしんぐら


十  二文 のちやつけミせハ

じゅうにもんのちゃづけみせは


とこ可゛本んけやら

どこが ほんけやら


志れ奈く奈り

しれなくなり


志゛やう志うで

じょうしゅうで


八 丈  を尓せ

はちじょうをにせ


連バ

れば


八 王 子でも

はちおうじでも


おり出す

おりだす


奈可\/

なかなか


由多゛んハ

ゆだ んは


奈ら須゛

ならず


王れおとらじと

われおとらじと


お川可ふせるよの中

おっかぶせるよのなか


つりふ年の

つりふねの


平次可゛

へいじが

(大意)

深川の三ぶ(料理屋の名前)がはやると、両国へも同じようなものができ

隣で忠臣蔵がかかると、こっちも忠臣蔵、

十二文の茶漬屋は、どこが本家かわからなくなる有様。

上州で八丈に似せたものがでれば、八王子でも織り出す。

なかなか油断はならず、われもわれも遅れてはならずと

次から次へと出てくる世の中である。

釣船の平次が

(補足)

「ふ可川の三ぶ可゛」、「三」は「ミ」のようにも見えます。この「深川の三ぶ」とは、深川州崎にあった升屋にならんで、有名な料理屋「樽屋三郎兵衛」のことと、とある本にはありました。

 女房はなんともへんちくりんな格好をして夫婦喧嘩の真っ最中、それを脇で見る子どもはタジタジ。障子は障子紙のどこも破れることなく新品同様で下は板張りになっている豪華なもの。

 

2023年7月19日水曜日

箱入娘面屋人魚 その47

P24P25 国立国会図書館蔵

P24

(読み)

〽ミ奈\/

 みなみな


者゛ん付 の

ば んづけの


ふ多゛尓て

ふだ にて


志由ん尓奈める

じゅんになめる


〽おの\/奈める

 おのおのなめる


可本者奈者多゛

かおはなはだ


里可うらしく

りこうらしく


ミへる

みえる


P25

〽ひやう

 ひょう


し尓

しに


可ゝ川て

かかって


奈めまんしやう

なめまんしょう


〽い川そ

 いっそ


もつと

もっと


下 の本う可゛

したのほうが


奈め多ひ

なめたい


〽奈ん本人 魚 でも

 なんぼにんぎょでも


すこしハ者つ可しく

すこしははずかしく


可本をづきん尓て

かおをずきんにて


可くす

かくす

(大意)

皆さん、番号札を手に順になめる。

おのおの、なめるときの顔は、とても賢そうにみえる。(ほんとうは阿呆ずら)

「拍子にあわせてなめまんしょう」

「ほんとうはもっと下の方がなめたい」

いくら人魚でも、少しは恥ずかしく、顔を頭巾で隠す。

(補足)

「可本者奈者多゛」、どこで区切って読むのかなやみます。

「里可うらしく」、「可」も「う」も「ら」もみな似ているかたちですが、ここの「ら」はわかりやすい。

「もつと」「人魚でも」、ふたつの「も」のかたちがことなっています。

「なめる」とは情事の隠語でもあるとものの本にはありました。

 

2023年7月18日火曜日

箱入娘面屋人魚 その46

P24P25 国立国会図書館蔵

P25

(読み)

〽なめるもの尓とりてハ志よく王いの

 なめるものにとりてはしょか いの


さしきのさ可づき可ていし由の

ざしきのさかずきかていしゅの


るすの女  本゛う可マダどう二の

るすのにょうぼ うかまだどうにの


ふん多゛多いこ二可水 あめ

ふんだ たいこにかみずあめ


飛し本きんざんじ

ひしおきんざんじ


ご満ミそ由ずミそ

ごまみそゆずみそ


さとうミそハア飛やうし尓

さとうみそはあひょうしに


可ゝ川て奈めさ川せへ

かかってなめさっせえ


ドコツク\/  スコドコドン\/

どこつくどこつくすこどこどんどん


〽せんの可多ハお可王り

 せんのかたはおかわり

(大意)

「舐めるものにとりては、初会の座敷の盃か、

亭主の留守の女房か、マダ胴二の踏んだ太鼓二か、

水飴・醤・金山寺、胡麻味噌・柚子味噌・砂糖味噌、

ハア、拍子に掛かってなめさっせい、

ドコツクドコツク、スコドコ、どんどん」

「先の方は代わって下さい」

(補足)

「志よく王いのさしきのさ可づき可」、読めても意味が?なので不安、「さ可づき」は「盃」とわかりますから「さしき」は「座敷」だろうと、で、最初のところは「初会の」だろうと。

遊女と初めての夜、遊女が御酌してくれた盃を緊張してチビチビなめる様でしょうか。

「ていし由のるすの女本゛う可」、これは髪結いの亭主、妻が稼いでいる間、家でチビチビ酒をなめる亭主、のことでしょうか。

「マダ胴二の踏んだ太鼓二か」、調べるとかるた遊びの内容ですが、全然わかりませんでした。

 なめるものはたくさんあって、以下具体的にいろいろあげております。

「水あめ」、「水」のくずし字は特徴的なのですぐに覚えられます。一画目の「丶」が「水」の縦棒で、次が「水」の左側を、そのまま右側に筆を運んで「水」の右側「く」になると理解しています。

 平次が太鼓をたたいて調子をとり、それにあわせてなめなっせいと囃し立てます。なんせ一人前、一両一分、なめる時間はほんのわずか、客の回転もすこぶるよく、大金が転がり込んできて平次の口上も快調です。

 

2023年7月17日月曜日

箱入娘面屋人魚 その45

P24P25 国立国会図書館蔵

P25

(読み)

さ川そく門 口 へ志゛由ミやうのく春り人 魚 御奈め所  と

さっそくかどぐちへじ ゅみょうのくすりにんぎょおなめどころと


いふや春可ん者゛んを出し个れバ何 可゛むしやう尓

いうやすかんば んをだしければなにが むしょうに


よく者゛り天 めいのものさし尓者づ連て

よくば りてんめいのものさしにはずれて


奈可゛いきをし多可゛るぞくぶつとも千 年

なが いきをしたが るぞくぶつどもせんねん


いきるときゝ王れも\/ と奈め尓

いきるとききわれもわれもとなめに


来多り个るこそおろ可奈れ

きたりけるこそおろかなれ


〽多ゞし奈めちんハ一 人 まへ

 ただしねめちんはいちにんまえ


金 一 両  一 分川ゝよび出しち うさんと

きんいちりょういちぶずつよびだしちゅうさんと


同 し袮多゛ん奈り

おなじねだ んなり


〽ぬしハいつそ

 ぬしはいっそ


口 がくさひよ

くちがくさいよ


〽平 二そ者゛て

 へいじそば で


者や春

はやす


〽飛やうし尓かゝ川て

 ひょうしにかかって


奈めさつせへ

なめさっせい


〽ひやうし尓かゝ川て

 ひょうしにかかって


奈めまんしよ

なめまんしょ

(大意)

早速門口へ「寿命の薬 人魚御なめ所」という安看板を出したところ、

天より与えられた寿命を無視してただ欲張り長生きしたがる俗物どもが

千年生きると聞いて、われもわれもと舐めに来ることこそ愚かなことである。

ただし舐め賃はひとり一両一分、「呼出し昼三(吉原の最高級の遊女の一昼夜)」と同じ値段である。

「あなたはほんとうに口が臭いよ」

平二がそばで囃(はや)す。

「拍子に合わせて舐めさっせい」

「拍子に合わせて舐めまんしょう」


(補足)

「志゛由ミやうのく春り」、変体仮名「也」(や)は現在の平仮名「ゆ」に形が似ているので、読み間違いやすい。変体仮名「由」(ゆ)は中の縦棒がゆらぎます。「く」がカタカナ「ム」のようになっています。

 人魚の胸のあたりを舌を出して舐めているのは脇に刀と扇子があり、また身なりもからも武士でしょうが、他の身分の人ではなく武士を描いたところが山東京伝の京伝たるところでありましょう。

 

2023年7月16日日曜日

箱入娘面屋人魚 その44

P24P25 国立国会図書館蔵

P24

(読み)

こゝ尓つり

ここにつり


ふ年の

ふねの


平 ニ可゛

へいじが


きんじよ尓

きんじょに


一 人の

ひとりの


者くぶつ

はくぶつ


あり个る可゛

ありけるが


平二可

へいじが


人 魚 を

にんぎょを


女  本う尓して

にょうぼうにして


もち尓つくときゝ

もちにつくときき


可れ尓志めしてい王く

からにしめしていわく


夫本艸(それ本んざう)尓人魚(尓んぎよ)と称(せ う)

    それほんぞう に   いんぎょ と  しょう


ずる者(もの)ニ種(し由)あり曰

ずる  もの に  しゅ ありいわく


魚亭魚(ていぎよ)曰  魚児魚(じぎよ)又 異物誌(いぶつし)尓

    ていぎょ いわく    じぎょ また    いぶつし に


人 の形(可多ち)尓似(尓)て長(奈可゛)さ尺(しやく)余(よ)

ひとの  かたち に  に て  なが  さ  しゃく   よ


頂(い多ゝき)乃うへ小穿(すこしきあ奈)ありとハ

  いただき のうえ   すこしきあな ありとは


志るせし可とかゝる本゛つ

しるせしがとかかるぼ っ


とりもの奈る事 を志ら須゛

とりものなることをしらず


ま多む可しよりいひ

またむかしよりいい


つ多ふる尓人 魚 を

つたうるににんぎょを


奈め多るものハ千歳 の

なめたるものはちとせの


志゛由ミやうを多も川といへハ

じ ゅみょうをたもつといえば


何 尓もせよ金 尓奈る志ろもの

なににもせよかねになるしろもの


しやとい王れて平 二大  尓よろこび

じゃといわれてへいじおおいによろこび

(大意)

 ここに釣り船平次の近所に一人の博学者がいた。

平次が人魚を女房にして持て余していると聞き、

彼にこのようなこと言った。

「『本草』という書物に人魚と称するものは二種類あり。

ひとつは魚帝魚(ていぎょ)、ひとつは魚児魚(じぎょ)。

また『異物誌』には人の形に似て長さは一尺余り、頭のてっぺんには

小さな穴があると記してあるが、このように愛くるしい美人であるとは知らなかった。

また昔よりの言い伝えに、人魚を嘗めたものは千歳の寿命を保つとあるが、

いずれにせよ、金になる代物じゃ」。

これを聞き平次はおおいに喜び

(補足)

「もち尓つく」、辞書で調べてもありませんでした。文章の流れから意味はもてあますでありましょう。

 安看板に「寿命薬 人魚御奈め(所)」とあります。

順番を待つ人々、当時は身分社会ですから、髪型・持ち物・喋る言葉・挙措動作・人との対応などでその身分をおしはかることができました。ここにもいろいろな方々がいらっしゃいます。

 

2023年7月15日土曜日

箱入娘面屋人魚 その43

P21 国立国会図書館蔵

(読み)

〽可き入 可゛おゝく

 かきいれが おおく


奈つて本んや可゛

なってほんやが


うちま須可ら

うちますから


王多くしハ

わたくしは


多ゞ

ただ


ハイ\/と

はいはいと


者可り申

ばかりもうし


ておりま須

ております

(大意)

書き入れが多くなって文字が増えてしまうと

本屋が版木を彫るのが面倒になって

困りますから

わたくしはただ

はいはいとだけ

申しておりました。

(補足)

「申」、くずし字はカタカナ「ヤ」にもまた漢字の「巾」にもにています。

人魚は髪は横兵庫のままで表情はにこやか、座敷に逆反りのたたずまいはなんとも変、尾が平次の背中に見えます。

 

2023年7月14日金曜日

箱入娘面屋人魚 その42

P21 国立国会図書館蔵

(読み)

〽イヤ者や

 いやはや


つき出しの入 用 ハいふも九大夫 おの可゛心  可゛らと

つきだしのいりようはいうもくだゆうおのが こころが らと


いひ奈可゛らゐしやう可らくし可う可゛い

いいなが らいしょうからくしこうが い


由可う尓びやうふよぎふとん者んぞう

ゆこうにびょうぶよぎふとんはんぞう


ひ者゛ち多者こ本゛ん

ひば ちたばこぼ ん


きやう多゛いちやうちん

きょうだ いちょうちん


奈がへげ多多んす

ながえげたたんす


奈可゛もちさらさ者ち

なが もちさらさばち


すりこぎ春り者゛ち

すりこぎすりば ち


者ち\/\/可゛ら\/\/

はちはちはちが らがらがら


いくらのそん可志れませぬと

いくらのそんかしれませぬと


き川年つき尓うゐらう

きつねつきにいうろう


のませ多やう尓人 魚 のを尓

のませたようににんぎょのおに


おをつけて志や遍゛る

おをつけてしゃべ る

(大意)

「いやはや、突出しにかかった費用は言うも苦だよ。自業自得とはいえ、

衣装から櫛(くし)笄(こうがい)、衣桁(いこう)に屏風夜着蒲団、半挿(はんぞう)火鉢

煙草盆、鏡台提灯長柄下駄、箪笥長持更紗鉢擂粉木擂鉢、鉢はちはち、柄がらがら、

いくら損したかわかりませぬ」と、

狐憑きに外郎を飲ませたように、人魚の尾に尾をつけたように喋る。


(補足)

「いふも九大夫」、言うも苦だよと洒落と解釈しましたけど。

「心」のくずし字は「飛」とまぎらわしい。

「ゐしやう」とそのあと9行目「うゐらう」の「ゐ」はここのフォントのようではなく左下の丸みがありません。変体仮名「為」(ゐ)。

「ちやうちん」、「や」がかすれていて「中」のよう。

「き川年つき尓うゐらうのませ多やう尓」、伝三は、歌舞伎役者市川團十郎のお家芸のひとつ、曽我十郎の扮装をして小田原名物の妙薬外郎の由来効能を述べたあとに早口言葉をつらねた長い口上を述べる、そのまねをしている。とものの本にはありました。

 

2023年7月13日木曜日

箱入娘面屋人魚 その41

P21 国立国会図書館蔵

(読み)

まひつるやのていし由可゛思 ひつき

まいづるやのていしゅが おもいつき


きん袮んの者多き尓て

きんねんのはたきにて


志よ尓ち可らミそをつけ

しょにちからみそをつけ


まひつるやへハ者けもの可゛でる

まいづるやへはばけものが でる


と可奈んと可ひやうぎし个れハ

とかなんとかひょうぎしければ


人 魚 を一 日 もうち尓

にんぎょをいちにちもうちに


於可連須゛ざ川とめ尓ミへて

おかれず ざっとめにみえて


七 両  二分をそん尓して

しちりょうにぶをそんにして


人 ぬし平 ニをよび

ひとぬしへいじをよび


引 王多す

ひきわたす

(大意)

舞鶴屋の亭主の思いつきは

最初から失敗で

(突き出しの)初日からミソが付き

舞鶴屋には化け物がでる

とかなんとか噂になってはと

人魚を一日もうちに

置くことは出来ず、ざっとみつくろっても

七両二分の損はするのだが

人魚の主人である平次を呼び

引き渡しました。

(補足)

 人魚は鱗におおわれているとはいへ、素っ裸です。舞鶴屋の伝三は欅づくりのような贅沢な火鉢に着慣れた着物。対する平次は縦縞模様の質素なもののようにみえます。

「思ひつき」、「思」がずいぶんとくずされていますが、まぁなんとか読めそうです。

「人魚」、「魚」が「争」にみえます。

「於可連須゛」、変体仮名が続きます。

「七両二分」、「分」のくずし字は「ミ」+「丶」。

「そん尓して」、「し」が線対称のようになってますけど、こんなのもあるのでした。

 

2023年7月12日水曜日

箱入娘面屋人魚 その40

P20 国立国会図書館蔵

(読み)

人 魚 ハ个 ふの

にんぎょはきょうの


どう中  の

どうちゅうの


つ可れ尓て

つかれにて


多王い奈く

たわいなく


袮いりゐ多

ねいりいた


れバ手ハらう

ればてはろう


可尓あつ天

かにあって


あ多まハと

あたまはと


この内 尓有

このうちにあり


てん可ら

てんから


者けを

ばけを


あらハ須

あらわす


〽奈んでもこの女 郎 ハ者゛けもの多゛

 なんでもこのじょろうはば けものだ


あの床 のうち可ら

あのとこのうちから


こゝまで手可゛とゞく

ここまでてが とどく


とハさて\/

とはさてさて


奈可゛い手多゛

なが いてだ

(大意)

人魚は、今日の道中の疲れでぐっすりと

寝入ってしまっていた。手は廊下にあり

頭は床のうちにあって、すっかり

化けの皮をはがしてしまった。

「どうみてもこの女郎は化け物だ。

あの床の内からここまで手が届くとは

なんて長い手だ」

(補足)

「とこの内尓有」、「有」のくずし字は頻繁に出てきます。

掛け布団の柄がサッカーボールのような五角形です。見たことのない柄や紋がほんとうにたくさんあるなと驚きます。

 

2023年7月11日火曜日

箱入娘面屋人魚 その39

P20 国立国会図書館蔵

(読み)

あるきやく魚人(うをんど)可゛

あるきゃく   うおんど が


志よ尓ち尓き多り

しょにちにきたり


とこ可゛おさまると

とこが おさまると


びやうぶの

びょうぶの


うちをまつ

うちをまっ


くら尓し可の

くらにしかの


く路ごをき多

くろごをきた


るものうしろ可ら

るものうしろから


手を出し

てをだし


多者゛こをすいつけて

たば こをすいつけて


出しいろ\/志うちハ春川ハり

だしいろいろしうちはすっぱり


人 間 のとをり尓てぐら可し个れども

にんげんのとおりにてぐらかしけれども


と可く王る奈まぐさき由へこ多へ可年

とかくわるなまぐさきゆへこたえかね


きやくハ尓げ出春を尓んぎよつ可ひハ

きゃくはにげだすをにんぎょつかいは


可へ春満じとそてをひ可へつゞひて

かえすまじとそでをひかへつづいて


可け出し个る可゛かんじんの本んぞんの

かけだしけるが かんじんのほんぞんの

(大意)

ある客が魚人の初日に来た。床の支度がすむと

屏風の内を真っ暗にし、あの黒衣を着た者が

屏風の後ろから手を伸ばして、煙草を吸い付けて出し

客へのいろいろな振る舞いは何から何まで人間の通りにして

ごまかしたのだが、あのひどい生臭い臭いには我慢ができず

客が逃げ出すのを、人魚遣いは帰すまじと袖をつかみつつ

追い駆けすがったが、肝心の本尊の

(補足)

「とこ可゛おさまると」、「る」は変体仮名「留」ですが、ここのように小さな「っ」のような形も多い。

「まつくら尓し」、ここの変体仮名「尓」は英筆記体小文字「y」のようなかたち。

「春川ハり」、スッパリ。濁点「゛」半濁点「゜」は付いたり付かなかったりなので、ながれから判断するしかありません。

 突き出しの初日には「敷初(しきぞめ)」の祝いの儀式がありました。三つ蒲団や五つ蒲団などの重ね敷蒲団があったそうです。ここでは四つですけど。枕元には香をたく香台がありますがこれっぽっちでは生臭さは消えなかったみたい。敷布団の片隅にお客さんの抽斗付きの枕がころがっています。

 

2023年7月10日月曜日

箱入娘面屋人魚 その38

P20P21 国立国会図書館蔵

P20

(読み)

〽アレ可゛つき多゛し多゛そふ奈

 あれが つきだ しだ そうな


奈る本ど可本ハうつくしひ可゛

なるほどかおはうつくしいが


道 中  可゛へん多゛ぜのふ

どうちゅうが へんだ ぜのう


谷我子(こく可゛し)

    こくが し


〽江戸や尓多し可

 えどやにたしか


甚 五郎 さん可゛

じんごろうさんが


ゐさし川多よ

いさしったよ

(大意)

「あれが突き出しだそうな。なるほど顔は美しいが

道中が変だぜ。のぅ谷我子。」

「江戸屋にたしか、甚五郎さんがいらっしゃいましたよ」

(補足)

「谷我子」、梅暮里谷我、洒落本作者。上総久留里藩江戸詰武士で本所梅堀の藩邸に住んでいたので梅暮里と号した。茶屋の縁台から道中を見ている山東京伝の右側にいる。

「甚五郎」、江戸屋は吉原江戸町二丁目の引手茶屋、江戸屋甚五郎(ねもと屋嘉平次の隣の茶屋)のことであろうとものの本にはありました。

 谷我子の半分は簾(すだれ)に隠れています。よくみると谷我子がそのすだれをすけて見えています。ちゃんと仕事をしているのですね。

 禿はまだ子どもなので、裾捌きが乱れて道中もまだまだの様子です。

 

2023年7月9日日曜日

箱入娘面屋人魚 その37

P20P21 国立国会図書館蔵

P21

(読み)

〽くろご尓て

 くろごにて


うしろ可ら

うしろから


手をつ可ふ

てをつかう


〽人魚(尓んぎよ)ウ

    にんぎょ う


徒可いと

つかいと


いふ事 ハ

いうことは


此 と起よりぞ

このときよりぞ


者じまり个ると

はじまりけると


いふの可

いうのか


コレさくしや

これさくしゃ


そうハ

そうは


い王せぬ

いわせぬ


ふるひ

ふるい


\/

ふるい

(大意)

黒衣がうしろから手を使う。

「人魚う(人形)遣いはこのときよりはじまった」

なんていう洒落は、古すぎるので作者のわたしは言わないよ。


(補足)

「うしろ可ら」、「し」以外、どれもみなそっくりの形です。

黒衣をよくみると、左手は人魚の襟元から少し見えている鱗を隠すように襟をなおし、右手はとさがしてみると、花魁道中の華、花魁が外八文字で歩き乱れぬようにと褄(つま)をとっています。でも着物の裾からはでっかい尾鰭がのぞいています。

 人魚の左側にいるのは禿、右側には新造が伴をしています。一番うしろのぼぉーっとして手持ち無沙汰顔は若衆、いつもならば紋所の入った大きい提灯でまわりを明るくするのだけれど・・・

 

2023年7月8日土曜日

箱入娘面屋人魚 その36

P20P21 国立国会図書館蔵

P20

P21

(読み)

P20

まいつるや可゛あんじいよ\/できあ可り

まいつるやが あんじいよいよできあがり


ついぞ奈い人 魚 のおいらん夕 ぐれのすこしうすくらく奈りし

ついぞないにんぎょのおいらんゆうぐれのすこしうすくらくなりし


己路をミ春まし中 の丁  へ出 し个れバその日ハどう可可う可者゛けを

ころをみすましなかのちょうへいだしければそのひはどうかこうかば けを


P21

あらハさ須゛ちや可して志まい个る

あらわさず ちゃかしてしまいける

(大意)

舞鶴屋の計画はようやくできあがり

今まで見たことのない人魚の花魁道中が、夕暮れの少しうす暗くなった頃を

みきわめて、大門の中の通りを道中し、その日はどうにかこうにか化けの皮を

はがすことなくごまかすことができました。

(補足)

「うすくらく奈りし己路を」、カタカナ「ム」のような「く」と縦長の普通の「く」、また「う」は「く」にもみえます。「こ」は変体仮名「己」のようです。

のれんに「毛とや」と読めます。ここの見世は吉原大門を入ってすぐ左の江戸町二丁目にある引手茶屋「ねもとや」ではないかと、ものの本にはありました。

 

2023年7月7日金曜日

箱入娘面屋人魚 その35

P18P19 国立国会図書館蔵

P18

P19

(読み)

P18

〽本うこう人 尓ハき可

 ほうこうにんにはきか


佐連袮へ可゛奈んと

されねえが なんと


マア人 魚 をいつひき

まあにんぎょをいっぴき


七 両  二分とハや春ひ

しちりょうにぶとはやすい


志゛やア袮へ可か川本

じ ゃあねえかかつお


でもお本への

でもおぼえの


あるこ川多

あるこった


〽こい川をまへ江

 こいつをまえへ


あてさせるの多゛

あてさせるのだ


可ミハ志のぶゟ

かみはしのぶより


よこひやうご可

よこひょうごが


せい可゛多可く

せいが たかく


ミへていゝ

みえていい


〽ゐ志やうのぬいハ

 いしょうのぬいは


田まちのき う林(りん)尓

たまちのきゅう  りん に


多のん多゛可ら

たのんだ から


志゛よ

じ ょ


P19

さひハあるめへ

さいはあるめえ

(大意)

「奉公人には聞かされたくねえが、

なんとまぁ、人魚を一匹、七両二分とは安いじゃねえか。

鰹でもそんなこたぁあらぁ」

「こいつを前へあてさせるのだ。

髪はしのぶ髷(まげ)より横兵庫が

背が高く見えていい」

「衣装の縫いは田町の旧林に頼んだから間違いはあるめぇ」

(補足)

「き可佐連袮へ可゛」、「佐」が「御」にみえます。

「まへ江」、「江」は「に」にもみえますが、どちらでも意味は通じる。

「可ミハ志のぶゟ」、変体仮名「可」と「う」はそっくりというか同じ形。「ゟ」は「より」の合字。

「横兵庫髷」、女髪結いが結っている人魚の笄(こうがい)が何本も横に張り出している髪型。

「旧林」、浅草田町に住んでいた縫箔屋(ぬいはくや)のかたばみや久兵衛の号。旧林斎とも。山東京伝が寛政十二(1800)年の冬、吉原弥八玉屋の遊女玉の井を金二十余両で身請けして後妻に迎えたときの媒酌人であったと、ものの本にはありました。

 この頁の見開きはとてもにぎやかで細やかでもあります。鏡台の側面が蒔絵にでもなっているのか花のような柄になっているようにみえます。また大きな囲炉裏もきってあり、奥には客商売だからでしょうか大きい立派な神棚もしつらえてあって、なんかチグハグな感じの部屋です。鏡台の鏡の裏までとても丁寧に造作を描いています。髪結いの中腰の姿勢も動きを感じますし、後帯の下がりもきれい。神棚の前に箱があってその上に大福帳みたいなものがのっています。

 

2023年7月6日木曜日

箱入娘面屋人魚 その34

P18P19 国立国会図書館蔵

P18

P19

(読み)

P18

まいつるやの伝 三 ハ七 両  二分出して

まいずるやのでんぞうはしちりょうにぶだして


とん多゛や川可いものを引 づりこミ

とんだ やっかいものをひきずるこみ


可年て飛年川多あくあんじを志多可゛る男  由へ

かねてひねったあくあんじをしたが るおとこゆへ


うぬハぐ川とあん

うぬはぐっとあん

P19

じ多きて人 魚 の奈を魚人(うをんど)とあら多め

じたきでにんぎょのなを   うおんど とあらため


ち可\/尓つき多しのおいらん尓するつもり奈り

ちかぢかにつきだしのおいらんにするつもりなり


〽多゛ん奈さんハ

 だ んなさんは


けし可らぬあんじを

けしからぬあんじを


なさるぢき尓

なさるじきに


者多きさう奈

はたきそうな


こ川多と

こったと


女  可ミ由ひ

おんなかみゆい


口 の内 天゛

くちのうちで


いふ

いう

(大意)

舞鶴屋の伝三は七両二分を出して、とんだ厄介者を引きずり込んだ。

以前よりあれこれ考えていた悪いもくろみをしたがる男なので、

本人は考えあぐねたつもりで、人魚の名を「魚人(うおんど)」とあらたにして

近々に突出しの花魁にするつもりとした。

「だんなさんはけしからぬもくろみをなさる。

じきに失敗するだけさ」と女髪結いはブツブツ言う。

(補足)

「出して」、「出」と「て」のあいだが変体仮名「多」にもみえますけど。

「可年て飛年川多」、「て」以外はみな変体仮名。

「うぬ」、「う」「ら」変体仮名「可」はみなそっくりです。

 伝三が股引をぶら下げています。よく見なくてもこの股引、指先の分かれた足袋までついている特注品でありました。お足がなければ始まらぬ、伝三は(苦)笑い。

そのうしろには、薦被(こもかぶ)りの四斗樽(四十升)の酒樽より酒を注いでいます。提子(ひさげ)からあふれてしまっても、こぼさぬように桶の中でしているところが実際の酒屋での所作。わたしが子どものころまでは、このようにしていました。お使いで酒屋にいくときは瓶をもち、豆腐屋へは鍋を持っていくのは当たり前でした。

 「銘酒男山」そして「山本」とあるので調べてみました。現在では「男山」というと北海道旭川の酒を第一に思い浮かべます。どうやら本家である摂州伊丹の本家は廃業したようで、それを現在の北海道の蔵元が復活させたようです。

 また、提子に入れている娘は、禿(かむろ)でしょう。薦被りが筵でくるまれているのを丁寧に描いていますが、禿もこれまたそれ以上に細かく描写されています。髪の襟足など手をぬいていません。右手に持っている細長い棒状のものはきっと、酒樽の注ぎ口の栓でしょう。裾からのぞいている足の向きがなんか変で、どんな座り方をしているのやら。

 源氏名を魚人(うおんど)としたのは、当時、吉原では松原屋に松人(まつんど)、扇屋に花人(はなんど)といった名高い遊女がいたのをもじったものと、ものの本にはありました。

 

 

2023年7月4日火曜日

箱入娘面屋人魚 その33

P16P17 国立国会図書館蔵

P17

(読み)

これ又

これまた


手可゛

てが


奈个れバ

なければ


せん可多奈く

せんかたなく


まへど冨 十  郎 可

まえどとみじゅうろうが


し多る

したる


道 成  寺を

どうじょうじを


きゝおよひ

ききおよび


口(こう)飛つ尓て

  こう ひつにて


さら\/とハ

さらさらとは


可ゝ須゛

かかず


本゛川

ぼ っ


多り

たり


\/  と

ぼったりと


可く

かく


書 をきの事

かきおきのこと


王たくし

わたくし


P16

〽イヤかく

 いやかく


もん多゛ハへ

もんだ わえ


こい川

こいつ


おそれ

おそれ


ありまの

ありまの


人魚ウ

にんぎょう


ふで多

ふでだ

(大意)

これまた、手がなければどうすることもできず

昔、富十郎がやった道成寺を思い出し、

口に筆をくわえて、

さらさらとは書けずぼったりぼったりと書いた。

P15

「いあやぁかくもんだわぇ

こつぁおそれ有馬の人魚ぅ筆だ

(補足)

「道成寺」、「道」のくずし字は特徴的で覚えやすいのですが、どうしてこんな形になったのだろうといつもおもいます。「寺」のくずし字は「ち」と「る」をあわせたような形。

「書をきの事」、「書」のくずし字も特徴的。ここのは縦棒「|」+「乙」。

安倍晴明出生説話のなかで正体は白狐である葛の葉が筆をくわえて障子に「恋しくば尋ね来て見よ 和泉なる信太の森のうらみ葛の葉」と書くところがあり、それをなぞったもの。


 

2023年7月3日月曜日

箱入娘面屋人魚 その32

P16P17 国立国会図書館蔵

P17

(読み)

〽されどもから多゛ハうをの事奈れハつふしの袮うち

 されどもからだ はうおのこなればつぶしのねうち


くび者゛可りいけのふミ尓て袮んい川者いをおさ多゛まりの

くびば かりいけのふみにてねんいっぱいをおさだ まりの


くび代 を七 両  二分でかゝへる

くびだいをしちりょうにぶでかかえる


〽人 魚 はていし由の

 にんぎょはていしゅの


る春尓さう多゛んを

るすにそうだ んを


き王め金 尓

きわめかねに


そへて可きおき

そえてかきおき


をのこさんと

をのこさんと


思 へ

おもえ


ども

ども

(大意)

しかしながら、体は魚なのであるから、年季が明けるまでの値打ちは

首から上だけである。どんなに値踏みしても年いっぱいをお定まりの

七両二分で抱えることにした。

 人魚は亭主の留守中に相談をにつめ、金に添えて書き置きを残そうと

おもったのだが、

(補足)

「いけのふミ尓て」がよくわかりません。「ふむ」には「⑦ 見当をつける。評価する。「ざっと―・んでも一億は下らない」「素人ではないと―・む」」という意味もあり、これなら文の流れから妥当だとおもうのですが、今度は「いけの」が?「池の踏みにて」でもなんか変。う~ん・・・

「七両二分」、間男の示談金のこと。これを「首代」といったので、人魚の首代に引っ掛けている。

 

2023年7月2日日曜日

箱入娘面屋人魚 その31

P16P17 国立国会図書館蔵

P16

(読み)

此 又 うしろ可ら手を多し多男  ハ

これまたうしろからてをだしたおとこは


大 いその女 郎 や

おおいそのじょろうや


まひづるやの

まいずるやの


てゐし由傳 三といふ

ていしゅでんぞうとう


もの奈りさいぜんより

ものなりさいぜんより


もの可げ尓てこの

ものかげにてこの


やうすをミて

ようすをみて


ゐ多りし可゛めづらしき

いたりしが めずらしき


志ろもの由へ人 魚 を

しろものゆえにんぎょを


かゝゑんと思 ひ

かかえんとおもい


さてこそこの

さてこそこの


ところへ

ところへ


多ち出 し奈り

たちいだしなり

(大意)

また、うしろから手を出した男は

大磯の女郎屋舞鶴屋の亭主伝三というものだった。

先刻より物陰に隠れてこの様子を見ていたのだが

珍しき代物なので人魚を抱えようとおもい

だからこそ、ここに姿をあらわしたのであった。

(補足)

「うしろ可ら手を多し多男ハ」、看板や額装された有名人の書など左右どちらから読むのか迷います。右から読むのが以前の通例でした。ここのように一行一文字と見れば右から読むのが理にかなっているのが納得できます。

「大いその女郎や」、江戸時代のそのときの出来事でも、読み物や芝居などでは鎌倉時代に設定するのが暗黙の了解事項でした。取締を避けるためだったのでしょう。

「てゐし由」「ゐ多りし可゛」「かゝゑんと」、「ゐ」は「為」、「ゑ」は「恵」がもとです。

 伝三が縁側に脚を組んで腰掛け、黒足袋。着崩した着方もいなせな女郎屋舞鶴屋の亭主というところか。

 

2023年7月1日土曜日

箱入娘面屋人魚 その30

P16P17 国立国会図書館蔵

P16

(読み)

さて飛しやくをふり上 ると飛としく

さてひしゃくをふりあげるとひとしく


者゛ら\/と小者ん小つぶふりかゝり

ば らばらとこばんこつぶふりかかり


个れと人 魚 ハあらあり可゛多やと

けれどにんぎょはあらありが たやと


口 でハいへと手可奈个れバ金 を

くちではいえどてがなければかねを


飛ろふ事 奈ら須゛ごふせへ尓きを

ひろうことならず ごうせいにきを


もミ

もみ


个る

ける

(大意)

さて、柄杓を振り上げると同時に、

ばらばらと小判小粒が降り落ちて

きましたが、人魚は「あらありがたや」と

口では言うけれど手がなければ金を

拾うことができず、ひどく気を

もみました。


(補足)

「飛ろふ事」、「ひろう」なのか「ひらう」なのか迷います。

「ごふせへ尓」、ごふせはご布施ではなく、ごうせい(強勢)でした。

 四つ手駕籠が随分と細かく描かれています。人が座る竹笊の部分がよくわかります。竹笊の底には直接地面にふれないように薄い脚があるのがわかります。

 座敷の方にはやけに大きな鉄瓶と屏風がります。屏風に貼ってある絵は大津絵の鬼の絵とものの本にはありました。