2023年1月31日火曜日

西洋昔噺第一号八ツ山羊(長谷川武次郎) その13

P6後半 国立国会図書館蔵

(読み)

さらばわ可゛この敵(可多き)を討(う)ち果(者多)春へし、いま多゛とほくハ

さらばわが この  かたき を  う ち  はた すべし、いまだ とおくは


由くまじと、針仕事(しごと)の文庫(ぶんこ)を抱(かゝ)へつゝ、親子(おやこ)もろとも

ゆくまじと、    しごと の   ぶんこ を  かか へつつ、   おやこ もろとも


狼   の、あと追(お)ひ可けてぞ、いそぎ个利、

おおかみの、あと  お いかけてぞ、いそぎけり、


狼   盤山羊の子をたくさん久らひ、腹(者ら)者利ねむりを

おおかみはやぎのこをたくさんくらい、  はら はりぬむりを


催(もよふ)し个れ盤゛、うらて能山 耳ひるねして、ゐ多るところへ

  もよお しければ 、うらてのやまにひるねして、いたるところへ、


(大意)

そのようなことならば、我が子の敵を討ち果たさねば。まだ遠くには

行ってないだろうと仕事の道具をかかえ、親子ともども

狼のあとを追いかけて、急いだのでした。

狼は山羊の子をたくさん食って腹が一杯で眠たくなっていたので

裏手の山で昼寝をしているところへ


(補足)

 変体仮名をまったく読めぬところから学び始めて超初心者となり、研鑽を積むこと数年いまではなんとか初心者になったろうとはおもうものの、これほどきれいな筆刻の文章でさえも、まだまだ楽ちんには読むことができないのです。

前回のところで「るすちうのこと越」の部分、変体仮名「越」(を)がありました。いっぽう「敵を」「文庫を」「山羊の子を」など平仮名「を」がたくさん使われています。これはほとんど現在の平仮名「を」のかたちになってしまっていますが、変体仮名「遠」(を)です。

 

2023年1月30日月曜日

西洋昔噺第一号八ツ山羊(長谷川武次郎) その12

P6中半 国立国会図書館蔵

(読み)

由ゑ、大變(たいへん)なことがおこわしと、ひと里古゛ち徒ゝ、火を

ゆえ、   たいへん なことがおこわしと、ひとりご ちつつ、ひを


たき徒くれバ、ストーブのうしろ尓て、おつ可さんけむ

たきつくれば、すとーぶのうしろにて、おっかさんけむ


いよ\/  、といふ聲(こゑ)のし个れバ、母 盤者那者多゛よろこび、

いよけむいよ、という  こえ のしければ、ははははなはだ よろこび、


るすち うのこと越たづぬる耳、志可\゛/とこ多ふれ盤゛

るすちゅうのことをたずぬるに、しかじ かとこたふれば


(大意)

(聞かぬ)から、大変なことが起こってしまったのだとひとりごちつつ

火を焚きつけると、ストーブのうしろで、おっかさん煙いよ

煙いよという声がするので、母親はとても喜び

留守中のことを尋ねると、しかじかと答えました。


(補足)

「おこわしと」、起こったということでしょうけど辞書で調べても適当な単語が見つかりませんでした。

「母盤者那者多゛」、変体仮名の連続で悩むところです。


 

2023年1月29日日曜日

西洋昔噺第一号八ツ山羊(長谷川武次郎) その11

P6前半 国立国会図書館蔵

(読み)

して、うらぐちよ里いでゆきぬ、

して、うらぐちよりいでゆきぬ、


や可゛て者ゝおやハかへ里き多利、みれバ子山羊ハ一 疋

やが てははおやはかえりきたり、みればこやぎはいっぴき


もをら須゛、ざしきもサン\゛/耳あらしてあれバ、アゝ

もおらず 、ざしきもさんざ んにあらしてあれば、ああ


あれほどいひ徒多お支し尓母 のいふことをき可ぬ

あれほどいいつたおきしにははのいうことをきかぬ


(大意)

(食い殺)して、裏口より出てゆきました。

やがて母親が帰ってみると、子ヤギは一疋も

おらず、座敷も散々に荒らしてあり、あぁ

あれほど言って聞かせておいたのに、母の言うことを聞かぬ


(補足)

 子山羊が一疋、柵をとび越えて逃げてきています。

「うらぐち」、「ち」の縦棒中央部分が真っ直ぐではありません。変体仮名「知」(ち)でしょうか。

「かへ里き多利」、この頁では変体仮名「利」(り)がよく使われています。

「サン\゛/耳」、カタカナで記していますが、何か意味がありそう。「に」は変体仮名「耳」「尓」が混在しています。

「いひ徒多お支し尓」、このように読んでみたものの、こんな言葉があるのかどうか、読み間違いの可能性大であります。

 

2023年1月28日土曜日

西洋昔噺第一号八ツ山羊(長谷川武次郎) その10

P5 国立国会図書館蔵

(読み)羊ノ三

戸(と)の春きよ里みゆるあしといひ、者ゝによく尓多れ

  と のすきよりみゆるあしといい、ははによくにたれ


バう連しく於もひ、者ゝさ満お可へ里かと、戸(と)をあ

ばうれしくおもい、ははさまおかえりあと、  と をあ


久流やい奈や、狼   ハ志春まし多利ととび可ゝ里、可多者

くるやいなや、おおかみはしすましたりととびかかり、かたは


しよ里くらひころし个る、そのうち一 疋 の子ハ暖爐(ストーブ)

しよりくらいころしける、そのうちいっぴきのこは   すとーぶ


の蔭(可げ)耳かくれゐ多里し由ゑ、狼   ハ七 疋 をくらひつく

の  かげ にかくれいたりしゆえ、おおかみはしちひきをくらいつく


(大意)

戸の隙間より見える脚といい、母によく似ていたので

うれしくなって、母様お帰りかと戸を

開けるやいなや、狼はここぞとばかりとびかかって、つぎつぎと

食い殺してしまいました。しかしそのうち一疋はストーブ

の蔭にかくれていたので、狼は7匹を食い殺して


(補足)

 豆本にはなかった絵割です。わたしの住居の近所に山羊を飼育しているところがあって、子ヤギがたくさんいます。道路に面している柵のところで見ることができるのですけど、小さい体に小さなしっぽをせわしなくふってかわいらしい。一疋飼ってみたくなります。この絵の子ヤギたちは子犬のよう。

 変体仮名がたくさん用いられているし、その変体仮名の平仮名も混在していて、意外と読みにくい文章になっています。

「戸をあく流やい奈や」、変体仮名「流」が変体仮名「満」(ま)とにているとおもったのですが、1行前の「さ満」と比べてみると、見た感じがすでに異なっていました。変体仮名「奈」(な)が久しぶりに使われています。「く」はよく見るとてっぺんが「ゝ」のようになっていて変体仮名「久」としたほうがよかったようです。

「志春まし多利」、辞書には「しすます。為済ます」とあって、最後までうまくやる。まんまとやってのける、となっていました。

「可多者しよ里」、そのまま片っ端よりでもよいとおもいます。

 

2023年1月27日金曜日

西洋昔噺第一号八ツ山羊(長谷川武次郎) その9

P4後半 国立国会図書館蔵

(読み)

キ屋へゆき足 のさきを

キやへゆきあしのさきを


白(しろ)くぬ里き多り、はゝ

  しろ くぬりきたり、はは


能聲(こハ)色(いろ)を津可ひ、善(よき)

の  こわ   いろ をつかい、  よき


物(もの)をたくさん買(かふ)てきた

  もの をたくさん  かう てきた


可ら、者やく戸(と)を於あけと

から、はやく  と をおあけと、


云(い)ひ个れバ、子山羊(こやぎ)どもハこゑといひ

  い いければ、    こやぎ どもはこえといい


(大意)

(ペン)キ屋へ行って、足の先を

白く塗ってでなおして来ました。

母親の声色をまねて、よいものを

たくさん買ってきたから

はやく戸をお開けと

言うと、子山羊たちは

声といい、


(補足)

「き多り」、変体仮名「多」(た)のかたちで一番目にするのが「さ」の横棒がないものですが、ここの変体仮名「多」は「多」のかたちが残っているややゴチャゴチャした形になっています。

「はゝ能」、変体仮名「能」(の)はあらかじめ学んでいないと読めません。

「津可ひ」、変体仮名「津」よりも頻繁に使われる変体仮名「可」のほうが悩みます。2行先の行頭の「可」も同様。

 いままでみてきた豆本の絵は必ず背景や遠景までを含めてひとつの絵としてきましたが、この翻訳本ではそれらがありません。

 

2023年1月26日木曜日

西洋昔噺第一号八ツ山羊(長谷川武次郎) その8

P4前半 国立国会図書館蔵

(読み)

いへば子山羊どもハ

いえばこやぎどもは


こゑ盤よく尓ている

こえはよくにている


がと、戸の春きよ里、の

がと、とのすきより、の


ぞきて、そんなくろい

ぞきて、そんなくろい


足(あし)のを者゛さん盤ない

  あし のおば さんはない


よとい者れて、狼   ハま多

よといわれて、おおかみはまた


志ま川多わと、こんどハペン

しまったわと、こんどはペン


(大意)

言うと、子山羊たちは

声はよくにている

けどと、戸の隙間より

のぞいて、そんな黒い足の

おばさんはいないよと

言われて、狼はまた

しまったわと、今度はペン(キ屋)


(補足)

「狼ハま多志ま川多わと、」、なんで「川」が「つ」となるかなど考えずに変体仮名「川」(つ)とおぼえます。おぼえてしまえば、カタカナ「ツ」がなるほど「川」と同じと気づきます。

 明治20年頃にすでにペンキ屋という言葉が定着していたのかはわかりませんし、職種としても広く知られていたのかもどうなのでしょうか。このペンキ屋さんは表紙のペンキ屋さんと同一人物のようです。表紙ではペンキ缶に青と赤でしたが、ここでは白になっています。

 

2023年1月25日水曜日

西洋昔噺第一号八ツ山羊(長谷川武次郎) その7

P3 国立国会図書館蔵

P3 仕掛け部分を開いたところ

(読み)羊ノ二

と里あは

とりあわ


ね盤゛、こハ

ねば 、こは


しそこ

しそこ


なふた

なうた


りと、狼

りと、おおかみ


ハ薬種(く春り)

は   くすり


屋(や)へ

  や へ


ゆき、聲 のよく

ゆき、こえのよく


なるく須里を

なるくすりを


のみ、ま多山羊の

のみ、またやぎの


家(いへ)耳い多里、おと

  いえ にいたり、おと


れへ盤゛、うちよ里誰(どな多)といふ、

れえば 、うちより  どなた という


を者゛さんだよ、こゝあ个てと

おば さんだよ、ここあけてと


(大意)

相手にせず、これは

しそこなったと

狼は薬屋へ行き

声のよくなる薬をのみ

再び山羊の家へ向かいました。

戸をたたくと、中からどなたですかと聞かれ、

おばさんだよ、ここを開けてと


(補足)

 仕掛けのある頁です。豆本では頁を折り込んで見開きになるものがありました。こちらは西洋風にいろいろな仕掛けがある仕掛け本の一番簡単なものです。

「と里あはね盤゛」、お手本のような平仮名「は」です。この頁では変体仮名「盤」「者」とカタカナ「ハ」があります。

「あ个てと」、まずは読めることがくずし字を学ぶ第一ですけど、この変体仮名「个」も番傘のようでなんとも。

 枠外に「羊の二」とあり丁合です。一枚の横長の紙に二面を摺り、山折りにしてひとつの丁合にします。前の頁にも「羊の一」とありました。


 

2023年1月24日火曜日

西洋昔噺第一号八ツ山羊(長谷川武次郎) その6

P2後半 国立国会図書館蔵

(読み)

もひ、春ぐそのいへ耳い多り戸を多ゝけ盤゛うちよ

もい、すぐそのいえにいたりとをたたけば うちよ


里、どれたととふ、おほ可みハぬ可らぬ顔(可ほ)耳て、を者゛

り、どれたととう、おおかみはぬからぬ  かお にて、おば


さん多゛よとこたふ、子山羊(こやき)ども盤そんなボーッ

さんだ よとこたう、    こやぎ どもはそんなぼーっ


といふ聲(こゑ)のをばさん盤私(王多くし)とものうち尓ハないよと

という  こえ のおばさんは  わたくし どものうちにはないよと


(大意)

(お)もい、すぐその家に向かいました。戸をたたくと、家の中から

誰だと問う。狼は抜け目ない顔つきで、叔母

さんだよと答えました。子山羊どもはそんなぼーっ

とした声の叔母さんはわたしたちの家にはいないよと


(補足)

「そのいへ耳」、「ぬ可らぬ顔耳て」、「に」はほとんどが変体仮名「尓」ですが、ここではめずらしく変体仮名「耳」(に)。「ぬ可らぬ」を確かめてみると辞書に「ぬからぬ顔」でありました。

抜け目のない顔つき。油断のない顔つき。

変体仮名「盤」(は)をつかっているのが目立ちます。

「どれたととふ」、「だれ」のまちがいかとおもったのですが、辞書をみると、『不定称の人代名詞。不特定の人をさす。だれ。』がありました。

 

2023年1月23日月曜日

西洋昔噺第一号八ツ山羊(長谷川武次郎) その5

P2中半 国立国会図書館蔵

(読み)

ち可き山 尓春み个流狼獲物(於ほ可みゑもの)をあさ流をり可ら、牝

ちかきやまにすみける    おおかみえもの をあさるをりから、め


山羊のまち尓行(由)くを見(ミ)るよ里、とび可ゝ里天食(くら)ハん

やぎのまちに  ゆ くを  み るより、とびかかりて  くら はん


とおもひしが、こゝ尓て古の母羊(おや)を食者んよ里、そのる

とおもいしが、ここにてこの   おや をくはんより、そのる


春にゆきて、こどもらを久らふ可゛、うまからんと於

すにゆきて、こどもらをくらうが 、うまからんとお


(大意)

近くの山に住む狼が獲物を探しているとき、

牝山羊が街に行くところをみて、とびかかって食ってしまおう

とおもったのですが、ここでこの親を食ってしまうより、その留守

の家に行って子どもたちを食うほうが、うまいだろうとおもい


(補足)

 小学校の読本のような字の並びですが、音読するとつっかえつっかえになってしまいます。

「ち可き山尓春み个流」、変体仮名を知らないと、まずは読めないでしょう。

「久らふ可゛」、変体仮名「久」は、2行前の「とび可ゝ里天」の変体仮名「天」とほとんど同じです。

 

2023年1月22日日曜日

西洋昔噺第一号八ツ山羊(長谷川武次郎) その4

P2前半 国立国会図書館蔵

(読み)

ある日市街(まち)尓行(由)可んとして子どもらにむ可ひ、るす

あるひ   まち に  ゆ かんとしてこどもらにむかい、るす


のうち盤か多く戸をとぢて、たれ可゛きたるともかなら

のうちはかたくとをとじて、だらが きたるともかなら


須゛あく流ことな可れ、皆々(ミな\/)於と那しくる春せよ、みや

ず あくることなかれ、   みなみな おとなしくるすせよ、みや


げ尓は、旨(うま)き物(毛の)を多くさんかふてき天、あ多へんと

げには、  うま き  もの をたくさんこうてきて、あたえんと、


袮んごろ尓いひ於ゐてい天゛ゆきぬ、

ねんごろにいいおいていで ゆきぬ、


(大意)

ある日街に出かけようとして子どもたちにむかって、

留守中はかたく戸を閉じて誰が来ようとも必ず

開けることはしないように、皆々おとなしく留守をしなさい。

みやげにはうまいものをたくさん買ってきてあげるからと、

よく言って聞かせて出かけてゆきました。


(補足)

 以前に、木村文三郎の豆本シリーズをアップしました。その豆本は銅版で文章はこの絵本にあるような鉛筆やペンでくずし字を書いた筆刻の文章でした。筆刻の特徴は毛筆のように文字を続けて書くことが少なく、つながらないためにひと文字一文字がはっきりとわかることです。毛筆でつぶれてしまう文字も、筆刻ならばどのように書いているかがよくわかります。

 よくわかるのですが、やはり変体仮名ですので、毛筆のくずし字を読んでいくのと同じ手順をふむことになります。この頁全体をパッとみると、すぐにでもスラスラ読めそうにおもいますが、読み始めるとつっかえつっかえになってしまって、変体仮名をあれこれ調べることになってしまいます。

 現在では句点( 。)読点(、)の区別がありますが、この絵本では読点が両方の記号で使われています。教育的なことを意識したのだろうとおもいます。

「市街尓」、ここの変体仮名「尓」(に)のかたちは、英文小文字筆記体「y」と同じです。

「るすのうち盤」、この変体仮名「盤」(は)が悩みました。

「あく流こと」、変体仮名「流」(る)としましたが、間違っているかもしれません。

「る春」、変体仮名「春」は小さな「す」+「て」のようなかたちですが、二行目の変体仮名「盤」ににています。

「多くさん」、ここの変体仮名「多」は二行目「か多く」のものとはことなってもう少しゴチャゴチャしたかたち。

「かふてき天」、変体仮名「天」は平仮名「く」のてっぺんに飾りが付きます。次の行の「い天゛」も同じ。

 

2023年1月21日土曜日

西洋昔噺第一号八ツ山羊(長谷川武次郎) その3

 

P1 国立国会図書館蔵

(読み)

羊ノ一

東京圖書館印・ TOKIO LIBRARY


八ツ山羊

やつやぎ


む可し\/

むかしむかし


八ツ子(や?こ)をもち

やつこ     をもち


し牝山羊(めやぎ)あ里个り、

しめやぎ     ありけり


な可よく

なかよく


おしよ

おしよ


(大意)

むかしむかし

八つ子をもつ

牝やぎがいました。

仲良く

しているのですよ。


(補足)

 家壁のレンガの遠近感がおかしいですが、そんなことは気にもしていないような絵です。もっぱら母山羊の姿の仕上げに集中しているようです。山羊は偶蹄類なので母の子を指差す指先も鋏のよう。

「八ツ子」の振り仮名「や」の次が読めません。拡大しても不明。

この時期の印刷方法は従来の木版から石版・銅版・活版などいろいろな印刷方法が広がりだした頃ですが、この絵は石版でしょうか?

 西洋の翻訳本ですからもっとこってりした感じがあふれるとおもいきや、水彩のようにサラッとしたさっぱり感がただよっています。


2023年1月20日金曜日

西洋昔噺第一号八ツ山羊(長谷川武次郎) その2

見返し 国立国会図書館蔵

(読み)

西洋昔噺

せいようむかしばなし


第一號

だいいちごう


八ツ山羊

やつやぎ


定價金拾銭

ていかきんじゅっせん


明治二十年七月十五日


版権免許同九月出版

はんけんめんきょどうくがつしゅっぱん


廣島縣士族

ひろしまけんしぞく


譯者 呉文聡

やくしゃ くれあやとし/ふみあき


麹町區元園丁二丁目八番地

こうじまちくもとぞのちょう


東京府平民

とうきょうふへいみん


出版人 長谷川武次郎

しゅっぱんにん はせがわたけじろう


京橋区南佐柄木町二番地

きょうばしくみなみさえきちょう


東京

とうきょう


南佐柄木町

みなみさえきちょう


弘文社版

こううぶんしゃ


明治二〇・一〇・一〇・内交・


(大意)

(補足)

 この絵本の正確な大きさは182mm×124mmでした。第一号とあり続けて出版されるかとおもいきやこの本だけで終わってしまいました。グリム童話「狼と七匹の子山羊」の翻訳ですが、「八ツ」になっているのは、日本では「八岐の大蛇」など「八」のほうが受け入れられやすいと考えたからでしょう。

 訳者「呉文聡」は明治期の統計学の学者です。出版人「長谷川武次郎」は言わずとしれた「ちりめん本」などの出版で有名です。「JAPANESE FAIRY TALE SERIES」のちりめん本はうっとりするほどきれいです。また、Calendarシリーズも素晴らしい。

 立方体の三面に弘文社の読みをローマ字で意匠しています。「文」と「社」はローマ字でちょうど3文字におさまりますが、「弘」は現在ならば「KOU」とすればよかったのでしょうけど、当時は困ったようで「N」が上面にあります。

 

2023年1月19日木曜日

西洋昔噺第一号八ツ山羊(長谷川武次郎) その1

表紙 国立国会図書館蔵

(読み)

西 洋 昔  噺

せいようむかしばなし


弘 文 社

こうぶんしゃ


(大意)

(補足)

 前回の豆本の出版は明治21年でした。ほぼ同時期にこの絵本も出版されています。ちょうど1年前の明治20年のことです。この絵本の大きさは約140mm×190mmで、豆本は約80mm×120mmですからふたまわりくらい大きい。価格は当時東京近郊で販売されていた豆本が1銭5厘で、この絵本は10銭。

 ラベルが貼ってあるところは「西」です。

 ミルク缶のように見えるのは赤と青の色がのぞいていて、樽の上には刷毛のようなものがあるのでペンキでしょうか。狼は驚いて飛び上がったところなのか、なんとも中途半端な格好です。

 豆本の表紙とはことなって、水彩のようにサラッとした感じで、本屋さんの店頭ではかえって目をひいたかもしれません。

 

2023年1月18日水曜日

文福茶釜(小森宗次郎) その10

P10 国立国会図書館蔵

(読み)

文 福 大 明  神

ぶんぶくだいみょうじん


ちや可゛まハ

ちゃが まは


のちより

のちより


ぶんぶく

ぶんぶく


ミようじんと

みょうじんと


かミ尓まつり

かみにまつり


奉   りとぞ

たてまつりとぞ


明治廿一年七月十日印刷同年七月廿二日出版

めいじにじゅういちねんしちがつとおかいんさつ

どうねんしちがつにじゅうににちしゅっぱん


日本橋區馬喰町三丁目十番地

にほんばしくばくろちょう

さんちょうめじゅうばんち


印刷兼発行者 小森宗次郎

いんさつけんはっこうしゃ

こもりそうじろう


(大意)

茶釜はその後

文福明神として

神に祀り奉り

あげられたとのことでした。


(補足)

この頁では平仮名「み」はなく、従来どおりの「ミ」です。

「奉り」、一文字目がパッとみためは平仮名「あ」に見えます。しかし拡大してみると「あ」ではありませんでした。文の流れからは「まつりたてまつり」でしょうから、「奉」のくずし字をしらべてみると、まさしくそれが正解でした。

 地味な頁で、赤色ののせかたが乱暴です。しかし、その他の部分はすべて丁寧です。掛け軸のかかっている砂地の漆喰壁、その下の以前から使われているややテリのある壁柄(茶釜と同じです)、床の間の欅柄の床板と床框など、これでおしまい、めでたしめでたしという感じです。

 奥付は節約のためか同じ頁の脇に入れてます。よくあるまとめかたです。

 

2023年1月17日火曜日

文福茶釜(小森宗次郎) その9

P8P9 国立国会図書館蔵

(読み)

[三 ゟ]

 さんより


と古のま尓

とこのまに


かけぢを

かけじを


可けみきを

かけみきを


そ奈へ

そなえ



[五へ]

 ごへ


[四ゟ]

 しより


いと

いと


由うふく尓

ゆうふくに


くらし■

くらし


■ける

 ける


めでたし

めでたし


\/  \/

めでたしめでたし


(大意)

床の間に掛け軸ををかけ

お神酒をそなえて

大変に裕福に暮らしました。

めでたし

めでたしめでたし


(補足)

 P9には色ズレがなくP8は赤が右側にずれてしまっています。出来不出来の差が大きいのは数人の摺師の仕事で腕に差があるからでしょうか。

高貴な方の館に出かけて芸を披露している場面、障子の作りも高級なものになっています。

 

2023年1月16日月曜日

文福茶釜(小森宗次郎) その8

P6P7 国立国会図書館蔵

(読み)

[次 ゟ]

 つぎより


志゛さん奈し

じ さんなし


それをてらの

それをてらの


くら尓おさめ

くらにおさめ


本うもつと

ほうもつと


奈しぶんぶく

なしぶんぶく


ちや可゛まとぞ

ちゃが まとぞ


なづけたり

なずけたり


またやしハ

またやしは


ぢしよをもとめ

じしょをもとめ


いへくらを

いえくらを


たて

たて


[四へ]

 しへ


(大意)

持参して、それを寺の

蔵に納め、宝物とし

文福茶釜と名付けたのでした。

また香具師は地所をもとめ

家・蔵を建て


(補足)

 この頁の文章に変体仮名「多」(た)が使われてないのも、ややめずらしいかも。

当時の小屋風景。観客の頭の後ろ姿だけでも明治20年頃の様子がわかっておもしろい。

背景の赤幕の柄は麻の葉文様(あさのはもんよう)、この豆本シリーズの表紙の背景と同じです。

P7の舞台側面の広告は読めそうで読めない。

 

2023年1月15日日曜日

文福茶釜(小森宗次郎) その7

P4P5 国立国会図書館蔵

(読み)P5

[二ゟ]

 により


くづやの

くずやの


お可げ奈り

おかげなり


と天

とて


その◯

その


◯くづやへ

 くずやへ


由きて△

ゆきて


△者奈しを

 はなしを


なしくづやと

なしくずやと


どう\/尓て□

どうどうにて


□かのも里ん

 かのもりん


じ尓由き

じにゆき


いろ\/

いろいろ


奈る▲

なる


▲者奈し

 はなし


の春へ

のすえ


そこ

そこ


者゛くの

ば くの


可ねを

かねを


おさめ

おさめ


みぎの

みぎの


ちや可゛

ちゃが


まも

まも


[次 へ]

 つぎへ


(大意)

くず屋のおかげであると

そのくず屋へゆき話し合い、

くず屋といっしょに

あの茂林寺へ出かけ

いろいろなはなしをしました。

その結果、いくらかのお金を納め

例の茶釜も


(補足)

青いふすまの背景部分は柄にも重なって、拡大してやっと読めました。このふすま、右から続く壁と同じ平面ではなく、曲がっていますし部屋の奥行き感などもなんか変。

行灯の上部から書見台みたいなものがとびだし、そこに短冊のような色紙のようなものが貼り付けられて文章が書き連ねてありますけど、この行灯書見台もへんてこりんであります。趣向としては面白いですけど・・・

 たぬきの毛並みなどは一切無視していますが、布団やふすまの柄やら壁紙の質感や、くず屋(左脇毛までかいている)の驚き加減など、気のつく限り描き込んでいるようではあります。

 

2023年1月14日土曜日

文福茶釜(小森宗次郎) その6

P4P5 国立国会図書館蔵

(読み)P4

[次 ゟ]

 つぎより


とふを

とうを


させける尓

させけるに


そのひやう

そのひょう


者゛ん大 いり

ば んおおいり


を奈し

をなし


おもいの

おもいの


ほ可奈

ほかな


るひやう

るひょう


者゛ん

ば ん


尓天◯

にて


◯かぞくさま可゛たへ

 かぞくさまが たへ


めされ古との

めされことの


本可

ほか


奈る

なる


おふ

おう


可袮

がね



もうけし由へ

もうけしゆえ


やしハ

やしは


お本い尓

おおいに


よろこび

よろこび


こ連も

これも


[三 へ]

 さんへ


(大意)

(芸)をさせてみると

それは評判となって大入りとなり

想像以上の人気でした。

華族様方もご覧になり、

格別の大金をもうけたので

香具師(やし)は大変に喜び、

これも


(補足)

「おもいのほ可奈る」、「古との本可なる」、同じような表現です。「本可」が「をの」にみえてしまいます。

「こ連も」、「連」と「も」のあいだにもう一文字あるように見えますが、つながっているだけのようです。

 たぬきが主役のはずですが、絵師はどうも毛皮ものの生き物が苦手のようで、輪郭(これもいい加減)だけで、赤くはみ出すように摺っているだけです。しかし茶釜は丁寧に描いています。

 たぬきは下手くそでも、それ以外はやはり絵師、上手です。壁紙などもテリがはいっているような感じにして凝っています。

 

2023年1月13日金曜日

文福茶釜(小森宗次郎) その5

P2P3 国立国会図書館蔵

(読み)P3

[一 ゟ]

 いちより


めさめて

めざめて


みれバてら

みればてら


尓て可いし

にてかいし


可能ちや可゛満尓

かのちゃが まに


てあし可゛者へ

てあしが はえ


おどりし尓

おどりしに


くづやハきもを

くずやはきもを


つぶしさつそく

つぶしさっそく


きんじようのや

きんじょ のや


しへうり者らい

しへうりはらい


志尓やしハその

しにやしはその


ちや可゛まをみ

ちゃが まをみ


せもの尓い多し

せものにいたし


いろ\/のげゐ[次 へ]

いろいろのげい つぎへ


(大意)

目を覚ましてみると

寺で買った例の茶釜に

手足がはえ、踊っていました。

クズ屋は肝をつぶし

早速、近所の香具師(やし)へ売払い、

香具師はその茶釜を見世物にして

いろいろの芸(をさせて)


(補足)

赤の背景は文字が見づらい。

「可能ちや可゛満尓」、変体仮名「可」(か)は平仮名「う」と区別が付きませんが、濁点がつくのは「可゛」だけなのでまちがえません。変体仮名「能」(の)はちょこちょこ顔をだします。

平仮名「ま」も使われていますが変体仮名「満」もよくでてきます。

この頁だけに限れば、「ミ」が使われてなく平仮名「み」となってます。

 屑屋が茶釜を秤にかける仕草とその身なりを描くので精一杯だったのか、左端の籠は手抜きとなってしまいました。

 

2023年1月12日木曜日

文福茶釜(小森宗次郎) その4

P2P3 国立国会図書館蔵

(読み)P2

[次 ゟ]

 つぎより


くづやハ

くずやは


もち可へりて

もちかえりて


や春ミける

やすみける


志可る尓その与◯

しかるにそのよ


奈尓可

なにか


もの

もの


おとの

おとの


せし

せし


由へ[二へ]

ゆえ にへ


(大意)

くず屋は持ち帰って

床に入りました。

しかし、その夜

何か物音がするので


(補足)

「もち可へりて」、変体仮名「可」(か)は「ら」や「う」など変化自在なかたちになって、悩ませる仮名です。

「その与」、変体仮名「与」(よ)は「与」をくずし字にするとそのまま「よ」のかたちになってわかりやすいのですが、「奈尓可」のように変体仮名「尓」(に)に似ることもあって、これまた悩みの元であります。

[二へ]、このつなぎは今までの豆本にありませんでした。「二丁」目の頁へ。籠の左側に「二」と漢数字があります。これが当時の頁に相当するものです。一枚の紙に二つの絵を摺り、それを山折りしてひとつの「丁」としました。つまり二丁に表裏があることになります。

 住職がくず屋へ話しかけている姿といい、縁側やその周辺を絵師・彫師は手早くササッと仕上げた感じで、摺師も流れ作業でこれまた簡便な仕事をした感じです。

 

2023年1月11日水曜日

文福茶釜(小森宗次郎) その3

P1後半 国立国会図書館蔵

(読み)

◯ぜんと

 ぜんと


志つ本の

しっぽの


いでし

いでし


可バ△

かば


△ぢうじハ

 じうじは


おどろき

おどろき


さつそ久

さっそく


でいりの

でいりの


くづやへ

くずやへ


うり

うり


王多

わた


せし尓

せしに


[次 へ]

 つぎへ

(大意)

 (突)然に、尻尾があらわれて

住職(住持)は驚き

すぐに、出入りのくずやへ

売り渡しました。


(補足)

「さつそ久」、平仮名「く」の書き始めに「ゝ」があります。変体仮名「久」です。ちなみに変体仮名「天」(て)もほとんど同じかたちをしています。

「くづやへ」、最後の「へ」が上からの続きでつながってしまっているため、最初の「く」と同じかたちになってしまっています。

 住職が腹のところで帯を結んでいます。現在ではあまりみません。

背景のふすま紙に柄を入れたりしているところやふすまの桟も細かく描いているところが絵師のこだわりかもしれません。

 

2023年1月10日火曜日

文福茶釜(小森宗次郎) その2

P1前半 国立国会図書館蔵

(読み)

本つたん

ほったん


む可し

むかし


も里ん

もりん


じと

じと


いふ

いう


てら尓としふる

てらにとしふる


ちや可ま可゛阿り

ちゃがまが あり


あるひぢうじ

あるひじうじ


ちやのゆをた天んと

ちゃのゆをたてんと


可のちや可゛まを

かのちゃが まを


ろ尓かけし尓とつ◯

ろにかけしにとつ


(大意)

発端

むかし茂林寺という寺に

年代物の茶釜がありました。

ある日、住職(住寺)が茶の湯をたてようと

例の茶釜を炉にかけたところ

突(然)


(補足)

 たいていは「むかしむかし・・・」ではじまるのがほとんどですが、この豆本は異色です。

講談師が開口一番、扇子でバシッとたたいてはじめる口上のようです。

ふすまの赤で文字が読みにくく、「も王んじ」と間違えて読んでしまいました。

 小森宗次郎の豆本の文章は変体仮名と平仮名が半々くらいの割合で使われている感じです。

 

2023年1月9日月曜日

文福茶釜(小森宗次郎) その1

表紙 国立国会図書館蔵

見返し

(読み)

文 福 茶 釜

ぶんぶくちゃ可゛ま

東京圖書館印 TOKIO LIBRARY

明治二一・七・三0・内交・

(大意)

(補足)

 左上部背景の赤い蛸の足のような小さな白丸がブツブツとついた模様は、この小森宗次郎の豆本の表紙では共通の柄になっています。なにか名前のある柄なのでしょうか?

 若者の顔がこの表紙の命です。拡大してみると髪は黒く塗りつぶされているように見えますが、ちゃんと一本一本流れるように描かれているのがわかりますし、生え際部分も彫師・摺師はきちんと仕事をしていて、細い線で描ききっています。眉毛・目・鼻・口と必要最小限の線だけで顔を描いているのは絵師の力量でしょうけど、こんなのは朝飯前だったのだとおもいます。それにしても見事ですね。

 この若者もたぬきも指先の爪が描かれています。こんなことはごくごく当たり前のことなのでしょう。若者の着物の紫がきれいです。たすき掛けをして舞台で芸をみせる技に使う竹棒を持ち、緊張の一瞬の表情、胸まわりの着物柄が細かくもきれいです。

 たぬきは地味な紺絣のような縦横縞ですが、ちらりとやや明るい裏地の柄を見せているところがなかなか小粋であります。

 

2023年1月8日日曜日

舌切春ゞ免(小森宗次郎) その12

P10 国立国会図書館蔵

(読み)

[次 ゟ]

 つぎより


いんきやう

いんきょ


さんも

さんも


めを

めを


可けて◆

かけて


◆やりし

 やりし


といふ

という


めで

めで


たし

たし


\/  \/

めでたしめでたし


明治廿一年七月十日印刷同年廿二(日)出版

日本橋區馬喰町三丁目十番地

印刷兼発行者 小森宗次郎


(大意)

隠居さんもめをかけて

やったということでした

めでたし

めでたしめでたし


(補足)

 こんなに小さな頁の隅々まで丁寧に描いているのに感心させられます。ふすまは枠も引き手もそして花びら模様の柄もどれも手抜きなし。床の間の前の千両箱?や火鉢も欅模様を入れています。隠居さんは立派な座布団、婆さんは座布団なしですけど白足袋をはいています。

まことにめでたい最後の頁でした。

 

2023年1月7日土曜日

舌切春ゞ免(小森宗次郎) その11

P8P9 国立国会図書館蔵

(読み)P9

より

より


古ゝ

ここ


ろを

ろを


い連

いれ




ぜん

ぜん


しん尓

しんに


なりけ連バ

なりければ


ふくゑもん

ふくえもん



おゝき尓よろこび

おおきによろこび


[次へ]


(大意)

(これ)からは心を入れかえ

善良になりますとのことで

福右衛門も大いに喜び


(補足)

 豆本は手のひらにのるほど小さな冊子で、子ども向けの廉価なものですから、それを制作する絵師や彫師・摺師はやはり手を抜いてしまうところもあります。しかしながらこの頁の、飛行機の翼のように両手を広げて逃げる様、縦縞の着物の輪郭線の確実さ、婆さんの表情と特に髪型など、ついつい真面目に仕事をしてしまったようです。また同様に首長入道の頭部分とそのぐぅわぉ〜と婆さんに襲いかかる目つきで絵師の力量が相当なものとわかります。

「い連可へ」、「い」と「連」がくっついているので読みにくいが文脈から読むことができます。

 

2023年1月6日金曜日

舌切春ゞ免(小森宗次郎) その10

P8P9 国立国会図書館蔵

(読み)P8

[次 ゟ]

 つぎより


ひき可へふく

ひきかえふく


ゑもんはいろ\/

えもんはいろいろ


のた可らものを

のたからものを


みてみ奈らべよろ

みてみならべよろ


こびいると古ろへ

こびいるところへ


よく者゛ゞむざん尓

よくば ばむざんに


尓げき多りこれ

にげきたりこれ


(大意)

(それに)ひきかえ、

福右衛門はいろいろな宝物を

並べてはながめ、喜んでいましたが

そこへ欲張り婆さんはいたましく

逃げ切って来ました。

これ(より)


(補足)

 骸骨の右手が婆さんの左足をギュッとつかんでいます。妖怪化け物にはそれぞれ名前がついているのですけど、ここの化け物はなんでしょうか?

気のせいではなく変体仮名「古」(こ)が多用されています。文字は鮮明で読みやすい。

 

2023年1月5日木曜日

舌切春ゞ免(小森宗次郎) その9

P6P7 国立国会図書館蔵

(読み)P7

あけてみ連ハ

あけてみれば


いろ\/な者゛け

いろいろなば け


もの可゛あら王れよく

ものが あらわれよく


者゛りばアさんあをく

ば りばあさんあおく


奈りあちら

なりあちら


こちらへ

こちらへ


尓げ

にげ


ま王り

まわり


ける

ける


それを

それを


[次へ]


(大意)

開けてみると

いろいろな化け物が

あらわれ、欲張り婆さんは青くなって

あちらこちらへ逃げまわりました。

それに


(補足)

 この豆本の爺さん婆さんの顔は、他の豆本の爺さん婆さんにくらべるといわゆるしわくちゃ顔ではなく、どこか西洋人っぽくつるんとしています。

「み連ハ」、平仮名「み」をみることはあまりないのですけど、この豆本では意識的に変体仮名と平仮名を同じくらいに使うようにしているように感じます。

 葛籠(ツヅラ)の中身は金銀珊瑚綾錦(きんぎんさんごあやにしき)、珊瑚はわかりますけど他の細々したものは何がなんだかわかりません。

 

2023年1月4日水曜日

舌切春ゞ免(小森宗次郎) その8

P6P7 国立国会図書館蔵

(読み)P6

[次 ゟ]

 つぎより


よう

よう


古゛ざり

ご ざり


ま春と

ますと


きく尓

きくに


者゛アさん

ば あさん


おもゐ

おもい


本うを

ほうを


いたゞきませ うと◯

いただきましょうと


おもき

おもき


本うを

ほうを


もつ天

もって


かへる

かえる


うちへ

うちへ


いりて□

いりて


(大意)

(どちらが)よう

ございましょうかときけば

婆さんは

重いほうをいただきましょう

と、重いほうを持ち帰りました。

家について


(補足)

 ここはおじいさんの家ですが、なんとも簡素で家具ひとつおいてなく現在の家屋でもそのまま使えそうな部屋になっています。

籠の部分の彫りは、まわりの彫りとは異なっていて、版画のように刻んでいます。文字は大変に鮮明で読みやすい。

 

2023年1月3日火曜日

舌切春ゞ免(小森宗次郎) その7

 


P4P5 国立国会図書館蔵

(読み)P5

なし

なし


奈尓可

なにか


おみ

おみ


やけを

たげを


あけま春可゛

あげますが


かるい△△

かるい


△△つゞら可

  つづらか


おもいつゞら可

おもいつづらか


どちら可゛[次 へ]

どちらが  つぎへ


(大意)

(はなしを)して、

なにかおみやげをあげましょうと

軽いツヅラか重いツヅラか

どちらが


(補足)

変体仮名「可」(か)がたくさん出てきてますが、「かるい」では平仮名です。

三人の着物柄がそれぞれ際立っています。すずめひとりは羽織袴で、袴は縦縞模様。奥様らしきすずめは着物上掛けが地味ながらもなんとも手のこんだ柄です。おじいさんは前掛けのような三色の部分がおしゃれ、杖は竹の節があります。

 建物全体の造作は床下の竹の柵や、部屋の壁の鈍い輝きなど、どの部分を見ても丁寧に描かれています。


2023年1月2日月曜日

舌切春ゞ免(小森宗次郎) その6

P4P5 国立国会図書館蔵

(読み)P4

[次 ゟ]

 つぎより


みてじぶんもその

みてじぶんもその


まねをなし

まねをなし


春ゞめ越

すずめを


さ可゛し尓

さが しに


いでる

いでる


む可ふ

むかう


より

より


春ゞめいで

すずめいで


きたりおや\/

きたりおやおや


お者゛アさん◯

おば あさん


◯よく

 よく


おいでした

おいでした


さ阿こちらへと

さあこちらへと


うちへ入

うちへはいり


いろ\/は

いろいろは


奈しを△

なしを


(大意)

(婆さんは)見て、自分もまねをして

すずめを探しに出かけました。

むかってゆくと、すずめが出迎えてきて

「おやおやお婆さん

よくおいでくださいました。

さあ、こちらへ」と

家に入り、いろいろはなしを


(補足)

 文章前半がふすまの赤色が背景で、とても読みづらい。読み間違いがあるかもしれません。後半の下半分はとても鮮明。すずめ2羽とおじいさんの着物の彩りがとてもきれいです。

「は奈しを」、平仮名「は」が使われるています。

 

2023年1月1日日曜日

舌切春ゞ免(小森宗次郎) その5

 


P2P3 国立国会図書館蔵

(読み)P3

◎だしおみやげ尓

 だしおみやげに


つゞらを

つづらを


あげま春可ら

あげますから


可るゐの可゛よふ

かるいのが よう


古゛ざいま

ご ざいま


しやうと

しょうと


いんきやう

いんきょ


さん●

さん


そのつゞ

そのつづ


らを

らを


せおつて⦿

せおって


⦿可へり

 かへり


ふ多をあけ天

ふたをあけて


みると▲

みると


▲いろ\/な

 いろいろな


た可ら可゛いでたる

たからが いでたる


を者゛アさん[次 へ]

をば あさん つぎへ


(大意)

(ごちそうを)だし、おみやげに

ツヅラをあげますから、軽いのが

ようございましょうと

隠居さんはそのツヅラを背負って

帰りました。蓋を開けてみると

いろいろな宝物が出たのを

婆さん


(補足)

 引き続き、鮮明な文字で読みやすい。平仮名「み」がこれほどたくさん使われているのは、めずらしいかもしれません。ほとんどはカタカナ「ミ」ですが、なんか意識して使ってないような気がしてきました。

「おみやげ」、ここの「や」が現在のかたちと同じですが、このあとのものは「ゆ」ににたようなかたちです。

「ふ多をあけ天」、変体仮名「多」も多用されるのが普通ですが、ここ以外は平仮名「た」です。変体仮名「天」(て)も出てきてます。

この頁では、平仮名「か」は使わないときめたようで、全部変体仮名「可」(か)です。

 絵全体も無難に仕上がっています。