P74 東京国立博物館蔵
(読み)
能り一 里沖 神﨑(カウサキ)尓蘭 舶 ふなかゝ里して
のりいちりおき こうさき にらんせんふながかりして
其 舩 能そバへ乗り付 其 高 キ事 二丈 程 モ
そのふねのそばへのりつけそのたかきことにじょうほども
あらんと見へ縄 者゛しこを登 ル事 至 て武ツカし
あらんとみえなわば しこをのぼることいたってむつかし
登 り津くして下 を見れハ屋根ニ能ぼりて見
のぼりつくしてしたをみればやねにのぼりてみ
見おろ春如 しさて大 舶 なか\/書 ニも辞(コトハ)
みおろすごとしさておおふねなかなかしょにも ことば
ニも述へか多し舩 チヤンニて黒 ぬ里闌 干(ランカン)能ミ
にものべがたしふねちゃんにてくろぬり らんかん のみ
黄色 なり石 火矢筒 一 方 ニ二十 五頂 いて
きいろなりいしひやつついっぽうににじゅうごいだいて
六 十 程 あり艫(トモ)能方 屋形 ありヒイドロ障子(ショウシ)
ろくじゅうほどあり とも のほうやかたありびいどろ しょうじ
ニして海 を望 武帆柱 ラ三 カ所 尓立ツ帆綱(ツナ)ハ
にしてうみをのぞむほばしらさんかしょにたつほ づな は
誠 尓くも能巣能如 し綱(ツナ)毎(コト)セビとて万 力 車
まことにくものすのごとし つな ごと せびとてまんりきしゃ
(大意)
略
(補足)
「ふなかゝ里して」「武ツカし」「津くして」、「し」が他の文字とかさなっています。
「二丈程」、約6m。
「チヤン」、チャン〔「青」の中国音からか〕→瀝青(れきせい)『れきせい歴青・瀝青】
天然に産する固体,半固体などの炭化水素類の一般的総称。普通,天然アスファルト・コールタール・石油アスファルト・ピッチなどをいう。道路舗装用材料・防水剤・防腐剤などに用いる。ビチューメン。チャン』のことだとおもわれます。『チャンぬり【チャン塗り】
瀝青(れきせい)を塗ること。「―の油かはらけ,しぼかみのたばこ入」〈浮世草子・日本永代蔵6〉』
「望武」、ひさびさの「望」のくずし字、忘れていてすぐには読めませんでした。
「セビ」、西遊旅譚三の図の説明の中に「万力車。長崎にニテハセビト云。ヲランダニテハカツトロルト云」とあります。
西遊旅譚三に蘭舶の詳細な図があります。
船の中央で縄バシコを登っている人が描かれています。
「石火矢筒一方ニ二十五頂いて六十程あり」、画にもあるとおり、荷を運ぶ商船とは名ばかりで、実際は軍船であったのが当時の船でありました(宣教師もほとんどが軍人でした)。自分の船を守るだけではなく、海上で他国の船にであって、自分の船のほうが強そうだとみれば海賊行為に及び、荷を奪っていました。
また本国で英仏蘭のいずれかが戦争状態であると、アジアの航路でそれらの国が出会うと即、大砲の打ち合いとなって戦闘となるのでした。それらに関するたくさんの記録や本も出版されています。
江漢さん「石火矢筒」の数をちゃんとあわせたように描いています。ふだんの風景画とはまったくことなる筆運び、タッチです。