2022年10月31日月曜日

かち\/山(堤吉兵衛) その1

 


表紙 国立国会図書館蔵

(読み)

かち\/山

かちかちやま


(大意)

かちかち山

(補足)

 前回の「猫の芝居」は明治廿年の出版でした。これは「御届明治十八年四月廿日」わずか2年の差ですが、画工たちの腕の差は明らかです。そして定價壹銭。「猫の芝居」は二銭でした。

 うさぎがたぬきを沖に誘い出し泥舟ごとたぬきを沈めようとしているところの図。うさぎは右手に櫂をもちエイエイとたぬきを打擲します。うさぎの櫂を握る手やたぬきの助けてくれと左手をひろげている手だけをみても絵師の描写力の確かさが伝わります。

 たぬきの後ろにみえるのはうさぎがのっている木舟の舳先です。そして舳先とたぬきのわずかなすきまに海面をのぞかせているところがこころにくい仕上げです。

 うさぎの赤い目をアクセントにした顔づくりがうまい。


2022年10月30日日曜日

猫の芝居(堤吉兵衛) その11

P10 国立国会図書館蔵

(読み)

このところ

このところ


尓やんとも

にゃんとも


せりふ

せりふ


い王す

いわす


まきものを

まきものを


く王へ

くわえ


者志ミちより

はしみちより


せしたす

せしたす


御届明治廿年二月廿一日

日本橋区吉川丁5番地

編輯兼出版人 堤吉兵衛

價二銭


(大意)

このところ

ニャンともいわず

巻物を

くわえ

はしみち?

より

せしたす


(補足)

「者志ミちよりせしたす」、さっぱりわかりません。

明治20年をすぎると活版印刷が普及してきたために、急速に絵師・彫師・摺師の腕が落ちていきます。絵師はまだしも彫師・摺師は次の仕事がなく弟子もいませんし、まだ独り立ちできないままの彫師・摺師が中途半端な仕事をすることになって、木版画などの質は目に見えて悪くなっていきました。この豆本もその悪くなってゆくちょうどその時分のもののように感じられます。

 価格が二銭とあるように、いったいその仕事に関わったひとの手間賃はどのくらいだったのか恐ろしくなります。

 

2022年10月29日土曜日

猫の芝居(堤吉兵衛) その10

P8P9 国立国会図書館蔵

P9拡大

(読み)

ふ可と

ふかと


「コレおれハふ可といふ

 これおれはふかという


里やうしてこん春可

りようしてこんすか


かまさん尓たのまれて

かまとんにたのまれて


奈可奈をり尓き多のサ

なかなおりにきたのさ


このさけもかまとん可

このさけもかまとんが


こ奈さん尓やろふとて

こなさんにやろうとて


よ古し多志んせつサア

よこしたしんせつさぁ


うけとらつせへ

うけとらっせへ


(大意)

ふかと

「これ、おれはフカという、

使い走りで、コンスカ

鎌とんに頼まれて

仲直りに来たのさ。

この酒も鎌とんが

あなたにやろうと

よこした親切さぁ

うけとってくだせぇ


(補足)

ふかとは藤原不比等のことでしょうか。鎌とん(藤原鎌足)は父親です。コンスカって読み間違いか?う〜ん・・・大化の改新を調べて登場人物など調べましたがわかりません。

「よ(与)古し多志んせつサア」、急に変体仮名が復活です。

 前頁では歌舞伎や浄瑠璃の有名な「○△の場」の芝居の場面だなとわかりますが、これは何の場面かいまひとつわかりません。

20221030記

「コンスカ」は「〜でごんすが」というような言い回しかもしれないとおもいました。

 

2022年10月28日金曜日

猫の芝居(堤吉兵衛) その9

P8P9 国立国会図書館蔵

P8拡大

(読み)

入 鹿

いるか


「ヤアけろふのふんさいて

 やぁげろうのぶんざいで


いる可尓む可つてふれい

いるかにむかってぶれい


せん者ん者やくこの

せんばんはやくこの


者 をたち

ものをたち


可へれ

かえれ


ヤイ

やい


(大意)

入鹿

「下郎の分際で

入鹿にむかって無礼千万

はやくこの者を

連れて帰れやい


(補足)

 入鹿は蘇我入鹿でしょうか?

「せん者ん者やく」、変体仮名「者」(は)につづいて「この者たち」の「者」は変体仮名ではないのに同じ形をしています。「者」のくずし字は変体仮名とは形が違うのですけど、なぜか同じ。

 

2022年10月27日木曜日

猫の芝居(堤吉兵衛) その8

P6P7 国立国会図書館蔵

P7拡大

(読み)

くま可へ

くまがえ


「ヤア志つけんの

 やぁじっけんの


春まぬうちハ

すまぬうちは


奈いけんナま可り

ないけんぁまかり


奈らぬ

ならぬ


さ可ミ

さがみ


「奈さけ尓

 なさけに


ひとめ阿

ひとめぁ


くひを

くびを


見せて

みせて


下 さんせ

くださんせ


(大意)

熊谷

「やぁ、実検の

すまぬうちは

内見はぁまかり

ならぬ

相模

「情けに

ひとめぁ

首を

見せて

くださんせ


(補足)

「ヤア」「奈いけんナ」「ひとめ阿」、歌舞伎の言い回しをしているような感じをだしているのでしょう。

「ひとめ阿」、変体仮名「阿」は知らないと読むのが困難です。

 (人物?の)絵に硬さがあるものの、色づかいがにぎやかで見ていてもあきません。

 

2022年10月26日水曜日

猫の芝居(堤吉兵衛) その7

P6P7 国立国会図書館蔵

P6拡大

(読み)

よしつね

よしつね


「あつもり可

 あつもりが


くひ尓由可りも

くびにゆかりも


阿りつらん

ありつらん


見せて奈こりを

みせてなごりを


おしませよ

おしませよ


(大意)

義経

「敦盛の首の縁者かもしれぬ。

見せて名残を惜しませよ。


(補足)

 平家物語「一谷嫩軍記~熊谷陣屋(イチノタニフタバグンキ〜クマガイジンヤ)」の場面です。本でも読みましたし、歌舞伎でも見ました。

 桜の木の前の「一枝を伐らば一指を切るべし」の制札を持つのが熊谷直実。その右が義経。その右上に幕の絵にあるのは二羽の鳩でしょうか。

 舞台の色合いがきれいで、丁寧に描かれています。

 

2022年10月25日火曜日

猫の芝居(堤吉兵衛) その6

P4P5 国立国会図書館蔵

P5拡大

(読み)

「もふし??さん


よしミねさ満を

よしみねさまを


たいしのとのさん

たいしのとのさん


むすめか王いと

むすめかわいと


お本しめし

おぼしめし


とふそ

どうぞ


たすけて

たすけて


下 さんせ

くださんせ


(大意)

「???

よしみね様を

隊士の殿様

娘のわたしがかわいそうとおもって

どうぞ助けてやってくださいませ


(補足)

「もふし??さん」、もうしわたさんと最初は読んでいたのですが、意味がどうもつながりません。

「たいしのとのさん」、これもよくわからず、適当です。

 はなしの筋は、頓兵衛の娘お舟はまちがって頓兵衛に刺されて負傷してしまいます。なんとかよしみねを逃したいお舟は櫓にある太鼓をならして、よしみねを捕らえたときの合図をして包囲網をとかせようとします。なので左上にみえているのはそのときの太鼓になります。

「むすめか王いと」「たすけて」、変体仮名は「王」(わ)だけで、あとは「す」「か」「た」は平仮名。

 

2022年10月24日月曜日

猫の芝居(堤吉兵衛) その5

P4P5 国立国会図書館蔵

P4拡大

(読み)

頓 べゑ

とんべえ


「さてハおのれハ

 さてはおのれは


よしミねを

よしみねを


尓可゛せしよナ

にが せしよな


おや可゛志由つ

おやが しゅっ


せの志゛やま

せのじ ゃま


ひろぐめろ

ひろぐめろ


ふめ尓くさ

ふめにくさ


も尓くし

もにくし


うぬどうして

うぬどうして


くりやう

くりょう


(大意)

頓兵衛

「さてはおまえは

良峰を逃したな。

親の出世の邪魔を

しやがる女め、

憎さも憎し

おまえをどうしてくれようか


(補足)

 芝居の一場面なので、まずはそれが何の芝居なのかがわからないとちんぷんかんぷんです。

「よしみね」で調べると、どうやら浄瑠璃・歌舞伎の「神霊矢口渡」(しんれいやぐちのわたし)のようです。

「ひろぐめろうめ」、意味がわからないので、この読みであっているのかどうかもわかりません。辞書で丁寧にひろってゆきました。「ひろぐ」は「広ぐ」で『②(動詞の連用形に付いて)他人の動作をののしっていう。…しやがる。「横着―・ぐ故にこそ人々にも怪しまれ」〈浄瑠璃・出世景清〉』。「めろう」は「女郎」で『① 女を卑しめていう語。「おれを馬鹿にするな,此(この)―」〈当世書生気質•逍遥〉

② 少女。女の子。「上京に姉をもつてござ有が,是に―がひとり御ざあり」〈狂言・粟田口〉

③ 人に使われる身分の低い女。日葡』でした。

これで意味が通じました。

 

2022年10月23日日曜日

猫の芝居(堤吉兵衛) その4

P2P3 国立国会図書館蔵

P3拡大

(読み)

大 阿多り

おおあたり


み奈\/

みなみな


こふ者゛こを

こうばこを


つくりておれど

つくりておれど


おし阿ふ天

おしあうて


まい尓ち\/

まいにちまいにち


きやくどめ

きゃくどめ


たちミれんハ

たちみれんは


尓やん尓も見へ

にゃんにもみえ


ぬといふこと奈り

ぬということなり


(大意)

大当たり。

(観客は)皆々

香箱座り(猫が背を丸くして座る)しているけれど

押し合って

毎日毎日

客止め、

立ち見の客は

ニャンにも見えない

ありさまでありました。


(補足)

「大阿多り」、 何度も何度も変体仮名「阿」(あ)がでてきます。

「み奈」、平仮名「み」はあまりみかけません。ほとんどはカタカナ「ミ」。

「こふ者゛こをつくりて」、猫などが前足を折りたたんで丸くちんまりと座っている様の表現。

「おし阿ふ天」、変体仮名「天」は「二」+「人」の「二」の部分が「く」の上に小さく残ります。変体仮名「久」(く)とそっくりなのでまぎらわしい。

「たちミれんハ」、ここの「た」は平仮名。立ち見連(中)。

「見へぬ」、「見」のくずし字です。

 左の人形の化粧廻しの文字も読めそうで読めない。

 

2022年10月22日土曜日

猫の芝居(堤吉兵衛) その3

P2P3 国立国会図書館蔵

P2拡大

(読み)

ねこども阿つまり

ねこどもあつまり


志者゛ゐを奈せし可゛

しば いをなせしが


いつも大 入りお本

いつもおおいりおお


者んじやう尓て

はんじょうにて


とぎたての

とぎたての


つめもたて

つめもたて


られぬ

られぬ


本どの

ほどの


(大意)

猫ども集まり

芝居を興行したところ

いつも大入り大繁盛で

とぎたての爪も

たてられぬほどの


(補足)

「とぎたてのつめもたてられぬ」、平仮名「た」が変体仮名でなく、ふたつ使われています。「ぬ」は変体仮名「奴」にもみえます。

相撲人形芝居のようです。この当時はやっていたのかもしれません。右側の人形の化粧まわしに、「荷津」のような漢字がありますが、なんでしょうか。

 

2022年10月21日金曜日

猫の芝居(堤吉兵衛) その2

P1 国立国会図書館蔵

(読み)

木の音

きのおと


「カチ\/

 かちかち


カゝゝゝゝゝゝ

かかかかかかか


カチ

かち


「阿いつとめまする

 あいつとめまする


やく尓やんぶち(役にゃん(者)ぶち川ニャン十郎市川團十郎)

やくにゃんぶち


か王尓やん十  郎

かわにゃんじゅうろう


尓やんどうみけ(にゃん藤みけ五郎尾上菊五郎)

にゃんどうみけ


五郎 尓や可むら(ニャカ村(中村)みけ助中村宗十郎)

ごろうにゃかむら


みけすけまづハ

みけすけまずは


者じまりさやう

はじまりさよう


(大意)

木の音「カチカチ カカカカカカカ カチ」

「あいつとめまする

役者。ぶち川にゃん十郎(市川団十郎?)

にゃん藤みけ五郎(尾上菊五郎?)

にゃか村みけ助(中村宗十郎?)

まずははじまり。

さよう


(補足)

出だしの変体仮名「阿」(あ)がわかりにく。猫語「尓やん」がついてまわるのでこれまたやっかい。大意でも明治20年前後に活躍した役者名を猫語からあてはめましたがさて?

「十郎」「五郎」と「郎」のくずし字が出てきてますが、かたちがどうも違っているようで自身がありません。

最後の「者じまり」のあと「さやう」があります。次頁に続く言葉なのか、「者じまりさやう」でまとまっているのか、わかりません。

背景は大漁旗でしょう。赤の丸印は「東京圖書館印」「TOKIO LIBRARY」。

 

2022年10月20日木曜日

猫の芝居(堤吉兵衛) その1

表紙 国立国会図書館蔵

(読み)

猫 の芝 居

ねこのしばい


(大意)

(補足)

 御届明治廿年一or二月廿一日です。價二戋。表紙にしては雑に感じます、いや雑です。背景は乱暴。猫の表情がにこやかなのが救われます。

 

2022年10月19日水曜日

鼡のか留わざ(堤吉兵衛) その9

 豆本を複製してみました。

このBlogでアップした「鼠のか留わざ」を正確に原寸大で印刷製本したものです。

 豆本は夜店や本屋で子どものお小遣い、一銭〜三銭程度で買える絵本です。手のひらにのるくらいの大きさ(約12cm〜8cm)なのでそのような名前がついています。江戸後期〜明治に全盛でした。もちろんその流れは大正時代のポンチ絵や漫画へとつながり現在のアニメへとなっていきます。

 Excelでファイルを貼り付けて印刷しました。原寸大をミリ単位で調節できるアプリならなんでもOKです。

手順です。

1.Excelで最初にページレイアウトモードにしておきます。メニューからでもよいし右下のページレイアウトアイコンからでもかまいません。A4縦に設定します。

2.セルの幅高さをそれぞれ10mmにします。画像を貼り付けたときの目安になります。

3.環境設定でルーラー目盛りをミリメートルに設定します。

4.プリントした用紙は半分で折込みますので左右を間違えないように画像を貼り付けます。

5.画像の対角線方向の端をつまんで大きさを調整しますがそのときにマウスカーソルの部分に縦横のサイズがでますので約120mm×80mm程度になるようにして配置します。

6.適当な一枚を選んで試し印刷で原寸大の大きさに調節します。決まったらそのままプリントアウト。

7.あとは切り取って二つ折りにして、四つ穴で和とじします。

完成です。


 実際に原寸大の豆本を手にしてみるとこんなに小さかったのかと驚きました。文字も小さくなってしまうので読むのが大変です。

 たいした儲けもでなかったこんな小さなものに子どもたちのために情熱をかたむけた出板人や絵師・彫師・摺師に頭が下がったのでありました。

 

2022年10月18日火曜日

鼡のか留わざ(堤吉兵衛) その8

奥付 国立国会図書館蔵

(読み)

定 價壹 銭

ていかいっせん


御届  明 治十  八 年 四月 廿 日 吉 川 町  五バンチ

おとどけめいじじゅうはちねんしがつはつか よしかわちょうごばんち


編 輯  出  板 人  堤  吉 兵衛

へんしゅうしゅっぱんにん つつみきちべえ


(大意)

(補足)

 特段の工夫もなく広告もなし。裏表紙もこの奥付の折返しで同じく無地なので略。

「P1

きよくまり\/

こんどハ

?つ?

ちや

\/\/」がわかりませんでした。最後までアップしながら何度も見て考えていました。そして正誤はともかく、はたと思い当たりました。

「?つ?

ちや

\/\/」、は「いつ川じゃ」と読めそうです。変体仮名「川」(つ)。絵の鞠もいつつ投げているではないですか!どうかなぁ〜。

 さて、このあとも堤吉兵衛ものを10冊ほどアップしてゆきます。

 

2022年10月17日月曜日

鼡のか留わざ(堤吉兵衛) その7

P10 国立国会図書館蔵

(読み)

「志

 しゃ


やつきやう

  きょう


の个゛以多ふ

のげ いとう


おハれバ▲

おわれば


▲せんさまは

 せんさまは


ひときりのいれ

ひときりのいれ


可わり

かわり


\/   \/

いれかわりいれかわり


(大意)

「しゃっきょう(石橋)の

芸当おわれば

せんさまは

ひときりの

いれかわり

いれかわり〜


(補足)

 何度も読んでようやくなにを言っているのかが、わかったような気になってきました。「しゃっきょう」がなかなかわかりませんでしたが、試しに辞書をひくと「能の一。五番目物。作者未詳。出家した大江定基が入唐して清涼山の石橋で童子に会う。童子は橋のいわれと文殊の浄土の奇特を教えて去る。やがて,獅子が現れ,牡丹の花に戯れながら壮絶華麗な舞をみせる。」とあって、絵にも石橋にみえるものや牡丹の赤い花がありますので、きっとこのことに違いありません。

「せんさま」もはて?、辞書にたよります。これは先に芝居小屋に入っていた人たちのことでしょう、きっと。それにつづく「ひときりは」、「ここでもって」が今風の言い方になりましょうか。

 最初、よく理解できないので想像力をフルにはたらかせ、赤い箱に入っている人が何かと入れ替わる芸当をするのかとおもいました。

 

2022年10月16日日曜日

鼡のか留わざ(堤吉兵衛) その6

P8P9 国立国会図書館蔵

(読み)

志ゆ

しゅ


もく

もく


づり\/

づりしゅもくづり


志ゆ

しゅ


もく

もく


こもつ

ごもっ


とも多゛

ともだ


\/\/



P9

「サテ\/

 さてさて


さてま多

さてまた


つぎの

つぎの


可る

かる


わざハ

わざは


(大意)

撞木(しゅもく)づり

しゅもくずり〜

しゅもく(すごく)

ごもっともだぁ


「さてさて

さてまたつぎの

かるわざは


(補足)

 鐘をつく棒を撞木(しゅもく)といいますが、辞書でひくなり説明されないとわかりません。

首周りにフリルのようなものをつけていて、どことなく衣装も唐風です。

「撞木」を「しゅごく→すごく」にひっかけていると解釈しましたが、まちがっているかもしれません。

 左のねずみが右手で扇を指し棒のように使っています。いつもおもうのですが、そのようなときはたいてい扇の要と反対側を持っています。このような持ち方だったのでしょうか。

 昨日のブログで、軽業師早竹虎吉のことを少しふれました。一座がどのような軽業の興行をしたかの錦絵や本が残っていて、現在のサーカスやシルクドソレイユも顔負けの出し物をしています。

明治に活躍した早竹虎吉は一座を率いて米国に興行にでかけ、自身は米国でなくなってしまいました。

 

2022年10月15日土曜日

鼡のか留わざ(堤吉兵衛) その5

P6P7 国立国会図書館蔵

(読み)

P6

ち与いとさ ミでも

ちょいとしゃみでも


可じつて

かじって


見やせ う

みやしょう


P7

者多

はた


さ本の

ざおの


ふき

ふき


な可゛し

なが し


こひの

こひの


おもにを

おもにを


可多尓の

かたにの


せヘコ

せぺこ


チヤン

ちゃん


(大意)

ちょいと三味(線)でも

弾いてみせましょう。

旗竿の吹き流し〜

鯉の重い(恋の思い)を

肩にのせ

ぺこちゃん


(補足)

 江戸時代後期から明治に活躍した軽業師早竹虎吉とその一座の錦絵がたくさん残っています。ネットで探すと詳しいHPがありこの絵と一致するものがありましたので、ちょっと拝借しました(無断ですゴメンナサイ)。

 旗竿は背景かとおもってましたが、上の画像の説明にある通り、肩にのせて三味線を弾くという芸でした。

また細い棒が何本も立ち並んでいるのは、棹渡りなどの芸のようです。先端に乗って渡ってゆくのですね。P2P3にはカキツバタの渡りがありました。

赤い雷様はどうやら菅原道真公の飛梅を題材にした芸のようです。

 左下の謡が悩みました。よくわからないのであちこちググって早竹虎吉をみつけました。そしてやっと納得です。「こひ」は「こい(恋)」で旗竿の「鯉」のぼりに引っ掛け、「恋の思い」を「鯉の重い」にして肩にのしかかると洒落たのでしょうか。

 

2022年10月14日金曜日

鼡のか留わざ(堤吉兵衛) その4

P4P5 国立国会図書館蔵

(読み)

「ヤッ

 やっ


本め

ほめ


太り

たり


ー\/  \/

ーほめたりほめたり


これから

これから


さ可太゛ち

さかだ ち


\/  \/

さかだちさかだち


P5

こりや\/

こりゃこりゃ


いつ本ん

いっぽん


太゛め

だ め


\/    \/

いっぽんだめいっぽんだめ


可めうへ

かめうえ


尓て

にて


太いの

だいの



\/  \/

だいのじだいのじ


(大意)

「やっ、拍手ご喝采を〜

これから、逆立ち〜

こりゃこりゃ

いっぽんだめ〜

瓶(かめ)のうえで

大の字〜


(補足)

 いくつかでてくる「た」は平仮名にしては形が悪いので変体仮名「太」(た)としました。

 折り込んでいた頁を横開きで大きな画面にする豆本に綱島亀吉のシリーズがあります。また多くの豆本が見開きでひとつの画面にするというのは定番です。

 しかしこれは見開きは見開きでも豆本を縦にしてひとつの画面にしています。珍しいです。なるほど上下方向の広がりがほしかったのでこうするしかなかったのでしょう。絵の構成もねずみたちの芸も大成功!

「いつ本ん太゛め〜」、「片足一本で支えておりまする〜」のような感じでしょうか。

 この絵も飾りたくなります。満開の桜の下、幕をはって野外演芸、チラチラ落ちてくる桜をしたから扇であおいで華をそえます。下で支えているねずみの衣装も桜の花柄。

かめの大きいこと、かめのはだのザラザラ感をだすのがむずかしそう。それにしても桶3つの上に重くて大きい瓶をのせ、さらにその上に人、すごいね。

 

2022年10月13日木曜日

鼡のか留わざ(堤吉兵衛) その3

P2P3 国立国会図書館蔵

(読み)

P2

なりひら

なりひら


かきつ

かきつ


者゛多の

ば たの


きよく

きょく


わ多

わた



P3

「七 ふ

 しちぶ


三 ふの

さんぶの


かね

かね


あ以しや

あいじゃ


(大意)

なりひら(業平)

かきつばたの

曲渡り

「七分三分の兼ね合いじゃ

(補足)

 前頁もこの頁も額装にして飾りたくなるような絵です。前頁はお正月に、この頁は梅雨明けの初夏に飾りたい。

 業平はもちろん在原業平で、かきつばたの歌が有名だそうです。「からころも きつつなれにし つましあらば はるばるきぬる たびをしぞおもふ」、それぞれの句の頭をつなげるとかきつばた。

ぶんぶく茶釜でもここでも「曲渡り」には傘と扇がかかせません。カキツバタの上を渡るとはなんともオシャレではありませんか。

 楽しい絵であります。

 

2022年10月12日水曜日

鼡のか留わざ(堤吉兵衛) その2

P1 国立国会図書館蔵

(読み)

きよくまり\/

きょくまりきょくまり


こんどハ

こんどは


?つ?


ちや


\/\/


(大意)

(補足)

「きょくまり」は曲鞠でしょうか。絵では5つの鞠をクルクルまわして放り上げています。はしご乗りのように竹にからだをからませて空中で行うのは難度が高い。

竹竿の左側がわかりません。う〜ん・・・

竹竿の色が本物のようです。

=== 2022年10月19日記 ===

?マークのところ、最後の頁をアップする頃に、はたと思い当たりました。

「いつ川」、五つだとおもいます。絵の曲鞠も五個投げてますし。「川」は変体仮名「川」(つ)。

 

2022年10月11日火曜日

鼡のか留わざ(堤吉兵衛) その1

表紙 国立国会図書館蔵

(読み)

鼠  のか留わざ

ねずみのかるわざ

(大意)

(補足)

御届明治十八年四月廿日。なんと定價壹銭!!!縁日など夜店での販売を考えた価格のような気がします。それにしても表紙は豪華です。色づかいも鮮やかできれいです。お姉さんの真っ白な顔にほんのり薄紅をひいて、きれいです。淡黄色の地にうぐいす色の細縦縞、紫の帯、いいですねぇ。

 真っ白なねずみのあたまのリボンがかわいらしい。一本刃の高下駄で櫂の柄にのってヤンヤの喝采でしょうか。見てみたいですねぇ。白い帯が両側に流れていますが、これは軽業をしながらクルクル回したのかもしれません。

 「る」はかき出しの横棒がツになっていて変体仮名「留」(る)。その上は変体仮名「可」(か)ではなく平仮名「か」。

 

2022年10月10日月曜日

かち\/山咄し(木村文三郎) その20

裏表紙 国立国会図書館蔵

(読み)

なし

(大意)

なし

(補足)

 この裏表紙の意匠もこの豆本だけのためのようです。版元によりますが、裏表紙の意匠がすべて同じというところもあるなかで、定価三銭というしばりのなか一冊一冊かえるのはなかなかできないことではないかとおもいます。おなじパタンが繰り返されていますが全部手書きでひたすら同じ柄を削る作業を延々とおこなったのでしょう。にているようでどこかがことなっています。

 この絵師が誰なのか、知りたい。どなたか存じませんか。

 

2022年10月9日日曜日

かち\/山咄し(木村文三郎) その19

奥付 国立国会図書館蔵

(読み)

明治十五年七月十一日御届

東京日本橋区馬喰町二丁目一番地

編輯兼出版人 木村文三郎

(大意)

(補足)

 奥付はこの銅版画シリーズ共通のもののようです。詳しくはこの版と浄瑠璃本の宣伝のもののふたつあります。他の豆本のほうがずっと鮮明です。豆本がこの色になったのはどうしてなのかとても気になります。どなたか教えて下さい。

 

2022年10月8日土曜日

かち\/山咄し(木村文三郎) その18

P12 国立国会図書館蔵

P12拡大

(読み)

ぢいさん尓志可\゛/

じいさんにしかじ か


奈りともの可゛多

なりとものが た


連バ

れば


よろ

よろ


こび

こび


うさ起゛を

うさぎ を


やうしと奈し

ようしとなし


てめで多起

てめでたき


者るをむ可へ

はるをむかえ


个りめで

けりめで


多し\/\/\/\/

たしめでたしめでたしめでたしめでたし


定 價三 銭

ていかさんせん


(大意)

じいさんにことのあらましを

物語ると喜び、

うさぎを養子にし、

めでたい春を迎えたのでした。

めでたしめでたし・・・


(補足)

 この絵師のかく人物の表情はやはり独特で、ほかにこのようにかく絵師はしりません。誰だか知りたい。火鉢は欅か何かの大木をくり抜いた上等そうなものでうさぎの意匠が彫り込んであります。

うさぎが持っているのは打ち出の小槌でしょうけど、カチカチ山との関わりはなんでしょう?

「志可\゛/奈り」、初見のときには読めませんでしたが、読めてしまうとなんでこんなのがわからなかったのかとめいります。

 

2022年10月7日金曜日

かち\/山咄し(木村文三郎) その17

P10後半 国立国会図書館蔵

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P11

(読み)

きおもひ志連とさん\/尓う

きおもいしれとさんざんにう


ち个連バふ年ハくづ連多ぬ起も

ちければふねはくずれたぬきも


とも尓うミへしづミて志ゝ多り

ともにうみへしずみてししたり


うさ起゛ハし由びよくあ多゛をうち

うさぎ はしゅびよくあだ をうち


(大意)

(悪)事、婆さんを殺したかたき

おもいしれ」と、散々に打ちたたくと

船は崩れ、たぬきは船と共に海へ沈んで死にました。

うさぎは首尾よく仇(あだ)を討ち


(補足)

一行目行末「うさぎ」、文末の行「うさ起゛」、平仮名と変体仮名の使い分けは前後の文の流れや使われる文字の組み合わせなどがありますが、どうやら気分次第が適当なようです。

 うさぎの戦う姿、このようなものを描かせるとうまいですねぇ。沖に出るには腰蓑は必需品。うさぎの右側の海の描き方は前頁と同じです。前頁で小さかった沖の帆掛け船は今度はやや大きめに描かれています。

 P11ではうさぎの櫂攻撃で手も脚も出ぬたぬき。よく見るとたぬきも腰蓑をつけていました。たぬきのひっくり返った姿より、手前の海の荒れる様子のほうが見応えがあります。沖には沈みゆく夕日なのか、はたまた良き日をめでる朝日なのか。

 

2022年10月6日木曜日

かち\/山咄し(木村文三郎) その16

P10前半 国立国会図書館蔵

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(読み)

□多゛ん\/くづ連可ゝるをうさ

  だ んだんくずれかかるをうさ


ぎハ見多りと可ひおつとり多

ぎはみたりとかいおっとりた


ぬき尓む可ひとしごろのあく

ぬきにむかいとしごろのあく


じ者゛アさんをころし多る可多

じば あさんをころしたるかた


(大意)

どんどんくずれてゆくのをうさぎは

みてとり、櫂(かい)を勢いよくつかみ取り

たぬきに向かって「この数年の(悪)事


(補足)

 うまく読めず、実は正しく読んでいたのですが意味が通じず二日間悩みました。

「可ひおつとり多ぬき尓む可ひ」、「おつとり」がわからなかった。辞書を調べると

これかなというのが見つかりました。

『おっと・る 【押っ取る】

(動ラ四)〔「おしとる」の転〕

① 勢いよくつかみ取る。「童にもたせたる太刀―・り,するりと抜きて」〈曽我物語1〉』

ぴったりそうなので、これを採用です。

それに続く「としごろのあくじ」も悩んだ。「としごろ」の意味がわからず、辞書をたよると

『④ 2幾年かの間。ここ数年の間。副詞的にも用いる。「―丹精して」〈当世書生気質•逍遥〉』

がありました。こんなふうにつかうなんて・・・。

ふぅ〜、これで意味がすべて通じました。

 

2022年10月4日火曜日

かち\/山咄し(木村文三郎) その15

P9後半 国立国会図書館蔵

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(読み)

でんと多ぬ起尓すゝめある

でんとたぬきにすすめある


ひうミへのり多゛しあちらこ

ひうみへのりだ しあちらこ


ちらとこぎまハ春うち多

ちらとこぎまはすうちた


ぬきのふ年ハつち奈れバ□

ぬきのふねはつちなれば


(大意)

(漁に)出ようとたぬきにもちかけある

日、海へ乗り出し、あちら

こちらと漕ぎ回すうち、

たぬきの船は土船なので


(補足)

「多ぬ起尓すゝめ」、「すゝ」が平仮名「す」と「ゝ」がくっついているのでなやみました。その2行左側に変体仮名「春」があります。

「こぎ」はジッとみつめるとちゃんと「こ」と「ぎ」になってました。

 浜に打ち寄せる波が小山のようにえます。沖の左方向へ目をやると帆掛け船が一艘うかんでいます。

 

2022年10月3日月曜日

かち\/山咄し(木村文三郎) その14

P9中半 国立国会図書館蔵

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(読み)

つけ連バミそととう可゛らし可゛

つければみそととうが らしが


しミて多つてのくるしミを奈し

しみてたってのくるしみをなし


多りまたうさ起゛ハ多ぬき尓

たりまたうさぎ はたにきに


つちぶ年をこしらへさせじぶん

つちぶねをこしらえさせじぶん


きぶ年をこしらへ連 う尓い

きぶねをこしらえりょうにい


(大意)

(ぬり)つけると味噌と唐辛子が

しみて、大変な苦しみとなりました。

またうさぎはたぬきに

土船をこしらえさせ、自分は

木舟をこしらえて、漁に(出ようと)


(補足)

「つちぶ年をこしらへ」と「きぶ年をこしらへ」がそっくりに並んでいるのも珍しい。ここの「ら」がその右の行の「うさ起゛」の「う」にそっくりです。

「連う尓」、?でしたが読みすすめると「漁」でした。わからないところはいったん保留していおいて読みすすめるのがコツです。

 たぬきは土船をこしらえているので、右手に左官鏝(こて)、左手に鏝板(こていた)といっぱしの職人風。

 

2022年10月1日土曜日

かち\/山咄し(木村文三郎) その13

P9前半 国立国会図書館蔵

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(読み)

うさ起゛ハきのふのミまひ尓ゆ起

うさご はきのうのみまいにゆき


やけど尓ハとう可゛らしミそ可゛めう

やけどにはとうが らしみそが みょう


やく奈りこしらへつけてやらんとて

やくなりこしらへつけてやらんとて


とう可゛らしを多くさんい連こしらへ

とうが らしをたくさんいれこしらえ


て多ぬ起のせ奈可へべつ多りぬり

てたぬきのせなかへべったりぬり


(大意)

うさぎは昨日の見舞いにゆき

やけどには唐辛子味噌がよく効く

からつくってつけてやろうと、

唐辛子をたくさん入れてこしらえて

たぬきの背中にべったりぬり(つけると)


(補足)

「めうやく奈りと」の次がわかりません。いろいろ候補はうかぶのですが、う〜ん・・・

悩んだ末、「こしらへ」としました。次の行に「こしらへ」があります、「らへ」が同じかたちで「し」が大きい。よくわからないほうは、「し」が小さいかたちだろうとしました。

 読みにくいところも何箇所かありますが、繰り返し繰り返し読み、同じようなかたちのところがないかを見つけてゆく作業しかなさそうです。