2020年5月31日日曜日

豆本 化物嫁入咄 その1




表紙



表紙カラー


(読み)
化 物 嫁 入 咄
ばけものよめいりばなし

(大意)



(補足)
 「きつねの嫁入」「狐の嫁入り」「鼡の嫁入」と嫁入りシリーズが続きます。
今回は「猫」の予定でしたが、「化物」に変更しました。

 江戸時代はいろいろな動物・獣を擬人化したり、今回のように化物までひっぱりだしての「嫁入り」噺がたくさん出版されました。
女子や子どもたちに婚礼の流れを学ばせるよい教材でもありました。

 今回の豆本は「幕末明治豆本集成」にものっていてそれは色刷りです。
しかし、国立国会図書館デジタルコレクションにはその色刷り版がなく白黒なのです。
分類番号は同一です。
著者が個人で豆本を撮影したもかもしれません。

 作画者は通常奥付に記されてますが、「幕末明治豆本集成」に(表紙・六丁裏に「国麿」と記載)とあります。国麿とは歌川国麿です。



2020年5月30日土曜日

豆本 鼡の嫁入 その14




奥付

(読み)
明 治十  四年
めいじじゅうよねん

十  月 十  八 日 御届
じゅうがつじゅうはちにちおとどけ

定 價壹 錢 5 厘
ていかいっせんごりん

東 京  府平 民
とうきょうふへいみん

編 輯  兼
へんしゅうけん

出  版 人  服部  為 三 郎
しゅっぱんにん はっとりためさぶろう

下 谷區
したやく

上 野西 黒 門 町  五番 地
うえのにしくろもんちょうごばんち



(大意)



(補足)
 直線を主体とした字体を意識したのでしょうか、雰囲気がピシッとします。
この豆本は保存状態がとてもよく色も鮮やかです。
人から人へ読まれたものではなく、発売後返本されるかなにかしてそのままになっていたものかもしれません。


裏表紙。



 扇柄模様です。





2020年5月29日金曜日

豆本 鼡の嫁入 その13




P.12

(読み)

「アア くたびれ多ゝ
 ああ くたびれたくたびれた

もしゝ ?うこゝ
もしもしもうここ

ハ大 こくさ満で
はだいこくさまで

ごさいま春可
ございますか


「もしきやうハ
 もしきょうは

よいおてんき
よいおてんき

でおめで多う
でおめでとう

ございま春
ございます


めで
めで

多し
たし

ゝ   ゝ
めでたしめでたし


(大意)
「あぁ くたびれたくたびれた。
もしもし、もうここは
大黒様でございましょうか。

「えぇ、今日は
良いお天気で
おめでとうございます。

めでたし
めでたしめでたし



(補足)
 赤ちゃんも白い顔に目と耳が見え鼠の形。

 出だしの「コ」+「く」の字は合字のようにも、カタカナの「ヲ」にも見えます。
読めませんが、文章の流れで「あぁ」としましたが、「おぉ」でもよさそう。

「くたびれ多」、平仮名「た」はあまり出てきません。ほとんどはその次にある変体仮名「多」。

「?うこゝハ」、「も」としましたが、「も」の変体仮名は「毛」「茂」「裳」「母」などですがどれでもなさそう。これも適当に当てはまる言葉を入れてみただけです。


 お供の小僧の背中に白い鼠顔のように見えるものがありますがなんでしょうか。
手に下げている白い物、読めません。

 前頁の土壁に点々を付けてそれらしく描いていました。
ここの石の鳥居と石畳の表面にも同じ手法で描いています。
初歩的な技術でとりたてて注目するようなことではないようですが、これがないとベッタリとしてしまって質感がありません。



2020年5月28日木曜日

豆本 鼡の嫁入 その12




P.11

(読み)
可゛へち うち゛
が へちゅうじ

ろうと奈づ
ろうとなづ

ける奈り
けるなり


も者や
もはや

ミや満いり尓
みやまいりに

奈り个る尓ぞでいりの
なりけるにぞでいりの

ものミ奈ゝ つれたち○
ものみなみなつれたち


○き多りて
  きたりて

よろこひを
よろこびを

のべ个り
のべけり



(大意)
考え忠次郎と名付けました。
はやくも宮参りとなり
親しい付き合いの者たちが次々に
やってきてお祝いの喜びを
伝えました。



(補足)
「可゛へちうち」の出だしには言葉の続きを示す記号(8の字を潰したような形)があります。
「ちうち」だけではなんのことかわかりませんが、つぎに「ろう」と続き、さらに「奈づける」とあるので、名前「忠次郎」とわかります。

「ミや満いり」、「ミ」は「三」に、「や」は「ゆ」に、「い」は「つ」に見えてしまう。

母親は赤い赤ちゃん用の着物(初着)をもってます。


P10P11見開き。



 全体に暗い色調の中に四匹の鼠の顔の白さが目立ちます。
奥の渋黄色の壁に黒い点々を描いて、土壁の感触を出しています。





2020年5月27日水曜日

豆本 鼡の嫁入 その11




P.10

(読み)
奈をつ个んと
なをつけんと

ようゝ と可んX
ようようとかん


「よい
 よい

おこで
おこで

ごさい
ござい

ま春
ます

ち うゝ
ちゅうちゅう


(大意)
名前を付けようかと
よく考え


「よいお子で
ございます。
チュウチュウ」


(補足)
 たらいにたっぷりのお湯、赤い襷(たすき)のお産婆さんが赤ちゃんを取り上げているの図。
屏風の裏地は全ページのものと同じですが、表の絵は異なってます。
屏風道楽のようです。

「ようようと」が「ふかふかと」とも見えましたが、「可」の字が大きいので「う」のほうをとりました。


2020年5月26日火曜日

豆本 鼡の嫁入 その10




P.9

(読み)
なし


(大意)
なし


(補足)
 文章はありません。

P8P9見開き。



 寝間での夫婦の様子。
枕は一つと思いきや、小さな枕に頭ふたつのせるのは無理っていうもんです。
そんなことあるはずありません。
絵の下部に半分隠れて描かれているのが、きっともう一つです。

 枕と敷布団はともかく、奥の山のようになった掛け布団、こんなにかけたら重くて翌朝は平たくなちゃいます。

 ふたりともいかにも寝巻きという姿。



2020年5月25日月曜日

豆本 鼡の嫁入 その9




P.8

(読み)
うミづき
うみづき

き多る尓
きたるに

奈んしう満
なんしうま

れける可゛奈んと
れけるが なんと



(大意)
産み月となり
男子が生まれました。
さて、なんと(名前を)


(補足)
「奈んし」、男子(だんし)。

 この頁だけではどういった場面なのか、わかりません。
夫婦の寝間の一部です。
燭台・行灯、奥に結婚式のときにあったのかもしれない小机があります。
それらの描き方は雑ですね。


2020年5月24日日曜日

豆本 鼡の嫁入 その8




P.7

(読み)
□けれバ
 ければ

おふ
おう

可多
かた

奈ら春゛
ならず

よろ
よろ

こひ尓
こびに

者や
はや


「者づ可しい
 はずかしい

ちうゝゝ
ちゅうちゅう



(大意)
ました。
その喜びようは
大変なものでありました。
はやくも、


「恥ずかしいわ、
チュウチュウ


(補足)
 文字が小さくフニャフニャして読みづらい。
「おふ可多奈ら春゛」、この部分悩みました。「大方ならず」という言い回しはこの当時普通に使われていたようで、何度か同じ表現を読んでいたのでわかりました。
「奈」は崩れているし、「春」は「す」+「て」のような形ですがこれも崩れています。

「よろこひ尓」、「尓」の上部が「ひ」に隠れてしまってます。


P6P7見開き。



 頁にまたがってしまった飾り机の左右が一致していません。豆本によくみられる定番のミス。
上部4人の人物(鼠)の位置関係はどうなっているのでしょうか。
盃を持っているのは新婦。
その奥は仲人の奥様?それとも嫁ぎ先のお母様?
新郎は赤い扇を持っている人でしょうか?それとも仲人さん?
その手前が新郎?

 三三九度の場面では通常は上座に新郎新婦、その両脇に仲人でしょうが、この場面はいまひとつよくわかりません。

屏風も絵もなんとなく殴り書き風。
屏風をおくことで、絵に奥行きがでました。




2020年5月23日土曜日

豆本 鼡の嫁入 その7




P.6

(読み)
それより
それより

ふう婦奈り
ふうふなり

よくくらし
よくくらし

ける可゛まも
けるが まも

奈く可い
なくかい

尓ん
にん

し□




「奈ん多゛可
 なんだ か

き満?
きま?

ハ?い
???

ちうゝ
ちゅうちゅう



(大意)
それからは
夫婦として仲良く暮らしました。
まもなく、懐妊し

「なんだか、
???
ちゅうちゅう



(補足)
 結納の儀式が済み、三三九度の場面のようです。
新婦は左頁です。

「ふう婦」の「婦」だけが漢字だとおもうのですが、上の「ふ」が重なるのを避けたのでしょうか。

「可い尓ん」の「い」は「ひ」にも見えますが。

会話文の二行目、三行目が不明です。
二行目は「きまりが」、三行目が「ハかひ(orい)」のように読めますが意味がサッパリです。
宿題が増えてしまいました。




2020年5月22日金曜日

豆本 鼡の嫁入 その6




P.5

(読み)
○よめ
 よめ

いりと
いりと

奈り个れバ
なりければ

ふ多り
ふたり

とも
とも

おふき尓
おうきに

よろこび
よろこび

めで多く
めでたく

ちきりを
ちぎりを

む春び
むすび

けり
けり


「これハ
 これは


これは

あり可゛
ありが

とう
とう

ヘイ
へい


へい


へい


へい



(大意)
嫁入りとなり
ふたりとも
大いに喜び
めでたく
夫婦となったのでありました。

「これはこれは
ありがとう。
(礼を繰り返す音)」


(補足)
「おふき尓」の「お」は変体仮名「於」でしょうけど、変体仮名「本」(ほ)にも似ています。

「めで多く」、「め」の左側のクルッとまわっているところがありませんので読みにくいですが、
言葉のつながりから「め」とわかります。

 会話文の最後の「へい」の繰り返しは、よく挨拶などの語尾がモジョモジョして不明瞭だったり、
息を吐く音だったりしますが、そのような擬音でしょうか。


 障子の外には縁側と庭園があります。
障子をよく見ると、障子紙を貼る部分の縦の木の部分と横の木の部分をきちんと描き分けているのがわかります。


P4P5見開き。



 立派な結納の品揃えです。
上座で挨拶している方の右側に刀?が見えます。
障子もでしたが、結納の品々をのせているお盆類も丁寧に描いています。
赤い酒樽の上にのっている青いものやはり気になります。
何でしょうねぇ。


2020年5月21日木曜日

豆本 鼡の嫁入 その5




P.4

(読み)
いれ志尓
いれしに

さつそく
さっそく

そうだん
そうだん

き満り
きまり

ゆいのう
ゆいのう

もとゝのひ
もととのい

きち尓ち
きちにち

をゑら
をえら

ミいよ
みいよ

ゝ○
いよ

「こん尓ちハ
 こんにちは

おめでとう
おめでとう

ごさい
ごさい

ま春
ます


(大意)
入れ、早速相談して決まりました。
結納も整い吉日を選んで
いよいよ


(補足)
 結納の品々、注連縄のような輪っかに挟んであるものは鰹節でしょうか。
赤いのはきっと漆塗りの酒樽。上の青いのはなんだろう。
目録の下部が見えています。

 文章に読みにくいところはありません。
変体仮名も「志」(し)、「尓」(に)、「満」(ま)、だけでいずれもお手本のような形です。
それと旧仮名「ゑ」があるくらい。


2020年5月20日水曜日

豆本 鼡の嫁入 その4




P.3

(読み)
ちう の
ちゅうの

春けをミ
すけをみ

そめけるそれ
そめけるそれ

より奈こうどを
よりなこうどを


(大意)
忠之助を見初めました。
その後、仲人を


(補足)
 三人女子衆の美しい立ち姿。
顔のかたちを変えてます。
赤の着物がお静で、お供が傘をさし、さらにもうひとり女中さん。
裾を引きずって、汚れちゃいますね。
傘と扇は定番の持ち物・添え物。

 和傘の小骨の本数が多そうなので、調べてみました。
実際の和傘はなんと48本もありました。
洋傘の小骨の本数に目がなれてしまっているようです。
なので、このオシャレな紫の和傘の小骨は少なすぎとなります。


P2P3見開き。



 女3人男2人の視線がバチバチと熱つそう。





2020年5月19日火曜日

豆本 鼡の嫁入 その3




P.2

(読み)
いふてき
いうてき

り也うもよし
りょうもよし

こゝろ也さしく
こころやさしく


きん志゛よ
きんじ ょ

尓てもひやう
にてもひょう

者ん世多るものも
ばんせたるものも

奈り个し可゛この
なりけしが この

お志づいつ志可
おしずいつしか


(大意)
(お静と)言う器量もよく
心優しい近所でも評判になるほどの
娘になっておりました。
しかし、いつしかお静は


(補足)
「いふてき り也うもよし こゝろ也さしく」、一度読めてしまうとなんともないのですが、初見ではとまどいました。「きりょう」の「り」は「ら」に見えるし、「こゝろ」の「ろ」は「ら」には見えないけど「り」にも見えるし、あれこれ音読してみました。

「ひやう 者んせ多るものも」、「せたる」が悩みました。


 赤は鼠の耳と扇だけで、全体を渋い色調に仕上げています。
暖簾がかかり床几の上には煙草盆と茶碗、茶屋のような店先でしょうか。






2020年5月18日月曜日

豆本 鼡の嫁入 その2




P.1

(読み)
「こゝ尓ねづ
 ここにねず

ミやちう の  
みやちゅうの

春けとて
すけとて

び奈んの
ぶなんの

きこへあり○
きこえあり

○ま多お奈じ
  またおなじ

奈可満の
なかまの

もちやの
もちやの

む春め尓
むすめに

お志つと
おしずと


「本ん尓
 ほんに

サウテ
そうで

こさい
ござい

ます
ます





「こゝ者さ
 ここはさ

むこうさへ
むこうさへ

志やう
しょう

ち奈
ちな

らこ
らこ

ちらハ
ちらは

いゝ
いい








「春こしも
 すこしも

可やぶん奈しさ
??ぶんなしさ



(大意)
ここに鼠屋忠之助という
美男の聞こえ高い男がおりました。
また同じ仲間の餅屋の娘に
お静と(いう)


「本当におめでとうございます」

「ここはさ、向こうさへ承知なら
こちらはいいのさ」

「少しも(かまや)しないさ」


(補足)
 「ねづミやちうの春け」を「鼠屋忠之助」としましたが、もっとよい名前がありそうです。
本文の出だしに「 がついてますが、会話ではないのに変です、間違えたのかも。

 会話体の「 がついたものが3箇所あります。
右下の部分の一行目、「こゝ者さ」としましたが、よくわかりません。
「者」がにじんでいてそれらしくはみえますが、このあとの「向こうさえ承知なら」につながる言葉としてはどんなものがあるでしょうか。

左下「春こしも」のあとが、「可やぶん」と読めるのですが、意味が通じません。
それとも「春こし/もう/やぶん/奈しさ」と区切る?
会話自体は「少しもかまわないさ」といった感じだとおもいます。
うーん、宿題にします。


 めでたい話をしているはずですが、背景の暗い淡薄緑色のためか、ちっとも明るくなく何か悪巧みをしている趣です。

 大黒様に使える者(神使)はねずみ、それも白いねずみがよくでてきます。
中勘助の「銀の匙」に、勘助が幼少の頃、散歩するときでさえおんぶして歩いてくれた叔母がいました。この叔母、家の米びつをねずみに空っぽにされ続け、家が破産してしまったというほどの信心深いひとでした。この鼠が白かったのでなおさら大切にし、神様の使いだからと追い立てなかったのでした。

 三人?とも着込んでいます。奥さんの首周りは襟巻きでしょうか。



2020年5月17日日曜日

豆本 鼡の嫁入 その1




表紙

(読み)
鼡  の嫁 入
ねずみのよめいり

(大意)



(補足)
 前々回は「きつねの嫁入」(堤吉兵衛)、前回は「狐の嫁入」(村井静馬)、
そして今回は「鼡の嫁入」と嫁入シリーズになってしまいました。
次回は「猫の嫁入」を計画しています。

「鼡」(ねずみ)は「鼠」の俗字ということですが、「嫁」が「女」+「取」となっていてこのフォントはありませんでした。この部品の組み合わせでは「嫁娶」(かしゅ)のように「娶」となってしまいます。

 狐ばかり見てきましたが、表紙のねずみを見てもどうも区別かつかなくなってしまってます。
新婦の紅白の着物が雑のような気もします。
新郎はとにかく羽織袴か裃姿なら形になるし、刀をさしていればもう申し分ありあません。
漆塗りの赤い盃で杯を重ねたのか、顔から耳まで赤くなってます。

御届は明治14年10月18日、編輯兼出版人は服部為三郎です。


2020年5月16日土曜日

豆本 狐の嫁入 その15




 奥付

(読み)
明治九年十月五日出版御届定價壱銭五厘
南本所外手町十八番地
長崎縣士族
著者 村井静馬
馬喰町四丁目十八番地
東京府平民
出版人 小森宗次郎


(大意)



(補足)
 この豆本は同時期に出版されたものと比べると保存状態がよかったようで、奥付の文字がくっきり角もかすれることなくしっかりしています。豆本の内容のほうも色あせはなくとてもきれいです。

 この時代、このような豆本は廉価で女、子どもが手にすることが多かったようですが、最初は年上の兄弟や親に教わりながら見て読んで声に出してまた読んでと、繰り返しながら文字や言葉をおぼえていったのでしょう。

 十返舎一九が「的中地本問屋」で本を仕上げる様子を面白おかしく綴っています。
これはまた別の機会に同じ形式で取り上げたい。
豆本もこの本の中のたくさんの(絵付きの)工程を経て出版されているわけですが、
それにしても壱銭五厘という破格の価格、これらの工房の方々の生活は大丈夫だったのかと心配してもしょうがないことをフトおもってしまいます。

 この豆本シリーズを取り上げだしてから、豆本の版木がネットで紹介されてないかしつこく探していたのですが、なかなかヒットしませんでした。
しかし念ずれば通ず。
兵庫県立歴史博物館に見つけました。
草双紙「鼡の嫁入」とその版木全丁分があるのです。
残念なことにここのHPのものでは解像度が十分ではなく、是非とも国立国会図書館デジタルアーカイブ並みのものがほしい。
連絡交渉して見るつもりです。


裏表紙



おしまい。



2020年5月15日金曜日

豆本 狐の嫁入 その14




 P.12

(読み)
[つゝ起]

いへハ
いえは

ま春ゝ
ますます

者んじやう
はんじょう

奈しめで
なしめで

多く者るを
たくはるを

む可ひ个る
むかいける

めて多しゝ
めでたしめでたし

ゝゝ

ゝゝ


(大意)
家はますます栄え、
めでたく春を迎えたのでありました。
めでたしめでたし
ゝゝ


(補足)
 最後はスラスラ読めて一安心。

変体仮名「春」(す)は平仮名「す」+「て」のような形。
変体仮名「者」(は)は平仮名「む」の最後を上げないでダラダラっと下げる感じ。
変体仮名「多」(た)は平仮名「さ」の一画目の横棒がない形。
変体仮名「可」(か)は平仮名「う」と区別がつかないことが多いので、前後の流れから判断したほうが間違いがない。

「个る」(ける)、二文字セットとみなしたほうが簡単です。「る」は変体仮名「留」ですが、平仮名「る」の一画目の横棒がありません。


 お供の小僧が手にしているのは、神社でもらったお札でしょうか、水引きのような丸い輪っかも付いてます。

 女性たちの着物の裾に流れる緩やかな線が何気ないけど上手、静馬さんにとってはササッとわけなく描いちゃうんでしょうね。

 鳥居の石の質感もこんな風に表現するんだとあらためて感服です、点点点とうってるだけなんだけど。

 神社の鳥居の額が出だしの「正」は読めたのですが、その次からがあれれ、なんかわかりません。
ここに記されているのは決まり文句の「正一位稲荷」や「正一位稲荷大明神」です。
しかし・・・

 村井静馬さんは凝ってますねぇ。
気づいちゃいましたよ。
「正一」まではそのまま、「位」の「亻」と「稲」の「禾」と「荷」の「亻」と「社」の「礻」が画面から隠されていたのでした。
隠されている文字をカタカナで無理やり続けて読むと「イイネ」となり、今風になりますけどまさかね。




2020年5月14日木曜日

豆本 狐の嫁入 その13




 P.11

(読み)
本と奈くく王ん尓んして
ほどなくかい にんして

つ起みち多満のやう奈る
つきみちたまのようなる

おとこの子をうミ多る
おとこのこをうみたる

くら(太郎)のよろこび大 可多
くら    のよろこびおおかた

奈ら須゛奈を可須゛太郎
ならず なをかず たろう

と奈づけ
となずけ

ての
ての

うち
うち

の多満
のたま

ちやう阿い
ちょうあい

奈し日可つ
なしひかず

も多ち个連ハ
もたちければ

ミやまゐりとて8
みやまいりとて


王子 い奈りより
おうじいなりより

つ満こひへさん
つまごいへさん

个い奈し
けいなし

むし
むし

ふう
ふう




奈ど
など

して
して

[次へ]



(大意)
ほどなく懐妊して、
月も満ち珠(たま)のような男のが生まれました。
くらの喜びようは大変なものでした。
名を一太郎(かずたろう)と名付け、
手のうちの珠を寵愛しました。
日が経ち宮参りのために、
王子稲荷より妻恋神社に参詣し、
虫封じ(むしふうじ)などをしました。



(補足)
 わからないところが多く、そのようなときは音読を繰り返します。
おけげでなんとか大意の文章で意味も通じているはずですが、フィクションの可能性も否定できません。心配・・・

「く王ん尓ん」(かいにん)、ここだけ抜き出して何と読むかとなったら、堪忍(かんにん)などとも読めてしまうので、悩んだかも。話の内容と絵からして懐妊しかありません。

「大可多奈なし」(大方無し)、はなはだしい。並大抵ではない。

「可須゛太郎」(かずたろう)、初めての珠のような男の子なので「一太郎」としたのでしょう。

「てのうちの多満」、「手のうちの珠」としましたが、違うかも・・・

「ちやう阿い」、結構悩みました、夜もうなされるくらい・・・。前後を含めて音読を繰り返し、はたとひらめきました。そういえば「寵愛」という言葉があった。

「日可つ」、この部分が「日うら」と見えてしまって、そうなると意味がサッパリです。
赤ちゃんが誕生して宮参りに行けるようになったのだから、日にちが経っているということなので、
これまた、あっそうかと「ひかず」と理解した次第。

「王子稲荷神社」も「妻恋神社」も江戸時代から有名でした。広重が王子稲荷神社の浮世絵をたくさん描いています。

 最後にわからなかったのがここです。
ベッドに入ってからも何と読むのかと悩みつつ寝入り、朝目覚めてからは最初にここの文字が浮かぶ始末。「む」の次がかすれていてわからないのですが、何遍も前後で似たようなところがないものかと探したら、すぐ右上隣に「奈し」とあるではないですか、この「し」もかすれている。しかし文章の最後なので勢いで「参詣なし」と読めてしまいます。なのでこの箇所は「なし」としました。

 その次の「事」にみえるところ、これも困った。上級者は当たり前のようにスラスラ読んでしまうでしょう。わたしのような初心者はいちいちつかえてしまうのです。「ふう」か「ふか」とも読めるなと気づいて、わからないところをつないでみると「むしふうし」となります。
何度かその音を繰り返し、宮参りで神社に参詣したら何かしらのお願いことを祈るものです、「むしふうじ」とひらめきました。うん、ちゃんと意味が通じる。めでたしめでたし。


P10P11見開き。



 頁をまたいで、旦那さんのお尻部分の着物の色を忘れてしまいました。頁をまたぐと別刷りの木版になるのでミスが目立つ箇所です。背景の薄藍色も異なってます。

 左端の女将さんはお店にも出ていたのでしょうか。前掛けをしてます。着物はやはり引きずってます。

 わからないところだらけでしたが、なんとか全部意味の通った大意ができてひと仕事した気分。
よかったよかった。


2020年5月13日水曜日

豆本 狐の嫁入 その12




 P.10

(読み)
[つゝき]

本どよくひら起と
ほどよくひらきと

奈りに个りさてふうふ
なりにけりさてふうふ

の奈可もむつましく
のなかもむつましく


(大意)
 ほどよくお開きとなりました。
さて、夫婦の仲は睦まじく、


(補足)
 文章は前頁からの流れで、この頁の絵の内容は次頁になります。
夫は懐妊した妻の腹をなで喜びいっぱいです
赤いお盆にのった大きい懐妊祝いに紅白の水引きが目立ちます。

変体仮名「奈」(な)が2箇所あります。くずれた筆記体の「y」のようにも見えます。


2020年5月12日火曜日

豆本 狐の嫁入 その11




 P.9

(読み)

尓てさ奈ゝ の∴
にてさなさなの

∴ちそふ
   ちそう

奈り[次へ]
なり


(大意)
のなかなかの
ご馳走でありました。


(補足)
「さ奈さ奈」が調べても不明でありました。前後の文章から意味はわかりますが、
「なかなか」が語感的にも近そうな気がします。

 左端娘さんが手にしているのは何でしょうか?
拡大してみてもよくわかりません。


P8P9見開き。



 頁をまたいでしまっている縁起物の松の盆栽、左右で色合いが見事に異なってしまいました。畳の色も別物。床の間の床板も、しかしなぜか床の間の壁や掛け軸、それと襖の色は一致しています。







2020年5月11日月曜日

豆本 狐の嫁入 その10




 P.8

(読み)
[つゝき]

又 ハ多け
またはたけ

もんのめい
もんのめい

ぶつのあ
ぶつのあ

けもの※
げもの

※い奈り春し
   いなりずし

奈とあぶら
などあぶら

ものつくし
ものづくし


(大意)
また、たけもんの名物の揚げ物や
いなり寿司など油もの尽くし


(補足)
出だしは「又ハ」でよいのでしょうか?不安です。
それに続く、「多けもんの」も?なのですが、「たけもん」は揚げ物屋さんの屋号としました。

「めいぶつの」が最初「めつぶつの」と読めてしまって困りました。「い」と「つ」がほとんど同じなのです。目をつぶるくらいおいしい揚げ物なのかとおもったりしてしまいました。

 嫁入りしたばかりでまだ白無垢綿帽子姿です。
襖の柄にある丸い紋は何度か着物の紋としても出てきているものに似ています。(稲紋?)

 黄色い鉄瓶と赤い布のようなものがおかれています。何でしょうか?






2020年5月10日日曜日

豆本 狐の嫁入 その9




 P.7

(読み)


そ連
それ

よりよめも
よりよめも

き多りさんゝ
きたりさんさん

くどのさ可づ起
くどのさかずき

も春ミ里やうり
もすみりょうり

尓ハねつミのや起多のを
にはねずみのやきたのを

多゛いと奈しよして[次へ]
だ いとなしよして



(大意)
そのあとから
嫁も来て三三九度の盃もすみました。
料理には鼠(ねずみ)の焼き物が
振る舞われました。


(補足)
「里やうり」(りょうり)がややわかりにくい。ここの「や」とその右となりの「や」もですが現在の「ゆ」に見えてしまいます。「や」は変体仮名「也」、「ゆ」は「由」。

「多゛いと奈しよして」、この部分がよくわかりません。大意はごまかしました。
「多゛い」は「台」(だい)、「台の者」(だいのもの)でしょうから、目出度い席上で大きな台の上に、尾頭付きの立派な鯛の焼き物のように鼠の焼き物が振る舞われたということでしょうか。
野ネズミの天敵は狐ですけど、きっとごちそうなんだな。


P6P7見開き。



 赤い提灯の取っ手が、よく時代劇に出てくる柄がついたものではなく、急須などの取っ手が上向きになっているようなものに見えます。

 先頭の紋付袴の方も小刀帯刀しています。
こちらの頁は背景が薄灰色で前頁の淡青色に比べると暗く、ちょっと婚礼輿入れとしては疑問です。



2020年5月9日土曜日

豆本 狐の嫁入 その8




 P.6

(読み)
[つゝき]

まつ
まず

尓もつを
にもつを

さ起へ者こバ
さきへはこば

せ个る◎
せける



(大意)
(まず)
荷物を先に
運ばせました。


(補足)
 前回の「きつねの嫁入」(堤吉兵衛)の同じ場面では雨がザンザン降りでした。
またお供のものの人数ももっと多く賑やかでしたが、こちらは簡素。
この画面のような雨を「きつねのよめいり」というのでしょうか。
雨粒を数えることができます。ちょうど10粒。

 籠の左前の方は見事な小刀をさしています。


「さ起へ者こバ」、「さ起へ」は「先へ」でしょうが意味は2通りで、先方の嫁入りする家に荷物を運ぶと嫁より先に荷物だけ運ばせるでしょうか。
しかし、結果はどちらも同じですけど。

「者こバ」、変体仮名「者」の最後の流れがかすれずに濃くなっているので「こ」がややわかりにくい。



2020年5月8日金曜日

豆本 狐の嫁入 その7




 P.5

(読み)
※个連ハ奈本
  ければなお

ま?日を
(もきちじつ)を

ゑらび个る
えらびける

や可てこん連
やがてこんれ

いのとう日 と
いのとうじつと

奈り个連バ吉
なりければきち

連いのと本り
れいのとおり

てん起よくあ
てんきよくあ

めもちらゝ と
めもちらちらと

ふりい多し
ふりいたし

さ連バ[次へ]
されば




(大意)
そしてなおも(念入りに)
吉日を選びました。
やがて婚礼の当日となり、
吉例のとおり
天気良く雨もチラチラと降りはじめましたので
まずは


(補足)
2行目「ま吝日を」がわかりません。
想像で「ま」は「も」(「も」はおわりから3行目にあるのですが)、「吝」は「吉」にしました。これで意味が通じないことはないとおもうのですが、とんでもなく間違っているかもしれません。
「間日」(まび)ならば「暇な日」なのですが・・・

「や可て」が「ゆって」にみえますがこれでは意味が通じません。

「連」(れ)が5箇所もあります。


 結納の品々をもってお祝いの口上を述べている風景でしょうか。
羽織袴の正装に、お金持ちの商人だからでしょうか小さい刀を指しているように見えます。
手前のお供のものの盆の上は大きな水引きの松飾りにみえますが、はてさて・・・


P4P5見開き。



左の頁に玄関の左側の柱があり、下部には玉石の部分もありますが、色付けがうっかりミスのよう。

地面の色が左右で異なっているので、同じ場面におもえません。




2020年5月7日木曜日

豆本 狐の嫁入 その6




 P.4

(読み)
[つゝき]

さう本う
そうほう

のおや多ちハ○
のおやたちは

○こん春け
  こんすけ

さう多ん◎
そうだん

◎奈し个
 なしけ

連バ志
ればしゅ

びよく
びよく

とゝのひ
ととのい

きち日 を
きちじつを

えらび
えらび

由ひのう
ゆいのう

をとり
をとり

可ハし
かわし

はんし
ばんじ

とゝのひ※
ととのい


(大意)
双方の親たちは(野田屋)狐助さんに相談をしましたところ
首尾よくまとまり、吉日を選んで結納を取り交わし万事
相整いました。



(補足)
「个連バ」(ければ)、どの頁にもよく出てきます。話の前後をつないでいく接続詞のように使われます。

旧仮名使いが数箇所あります。
「さう本う」(そうほう)、「さう多ん」(そうだん)、「志びよく」(しゅびよく)、
「とゝのひ」(ととのい)、「由ひのう」(ゆいのう)。

 お金持ちの玄関、造りが質素で飾り物が一切ありませんが、床は檜でピカピカに磨き上げられ、後ろの板戸の黒い部分は漆塗り、上り口の壁の部分は玉石貼りです。




2020年5月6日水曜日

豆本 狐の嫁入 その5




 P.3

(読み)
可起や
かきや

とくへもん
とくえもん

可゛む春
が むす

め尓て
めにて

べつ
べっ

ひん
ぴん

由へ
ゆえ

さう
そう

本う
ほう

とも
とも

尓き
にき

尓いり
にいり

[次へ]


(大意)
柿屋徳右衛門の娘で
別嬪(べっぴん)でありましたので
双方ともに気に入り


(補足)
「尓」(に)が3箇所あります。ほとんど筆記体の「y」のもあります。

P2P3見開き。



 角火鉢の右隅が色のせ忘れ、他の細かいところにこのようなミスはないのにです。
やかんは鉄でしょうから普通は南部鉄瓶みたいな黒にするところを渋黄色にしています。赤の使用を意識的に少なくしているようにも感じます。
洒落てます。

火鉢の木の柄が黒柿の模様に似てます。そうだったとしたらとても上等な代物です。

燗付けのお銚子を運ぶ御婦人の姿勢、定石通り膝を少し曲げてくの字にしてます。

 忍藩下級武士であった尾崎石城が文久元年から178日間にわたり日常生活をありのままに絵日記風に記した「石城日記」というものがあります。国会図書館デジタルアーカイブで全文読めます。

 この日記に出てくるご婦人たちの家での様子や振る舞いが細かに描かれているのですが、そのご婦人たちは着物の裾を皆さん引きずっているのです。

 ちょうどお銚子を持ってくる狐の御婦人みたいなのです。
幕末だけでなく武士階級などの家庭では女性は着物の裾を引きずるくらいにしていたのでしょうか。

 屏風の絵も気になりますねぇ。
小さな山の頂上は緑におおわれていて、特に意味のない風景かな。
よくわかりません。



2020年5月5日火曜日

豆本 狐の嫁入 その4




 P.2

(読み)
[つゝき]

尓あひとこの
にあいとこの

本可奈るび奈ん
ほかなるびなん

尓ぞ奈り个る
にぞなりける

この日の多゛やこん
このひのだ やこん

春けき多り
すけきたり

多満二郎 可゛
たまじろうが

个んふくを志由くし
げんぷくをしゆくし

ついて尓よめこをおせ
ついでによめこをおせ

ハせんと者つむ満
わせんとはつむま

のい奈りまつりを
のいなりまつりを

さい王い尓玉 二郎 を
さいわいにたまじろうを

つ連由起个るむ春めハ
つれゆきけるむすめは


(大意)
(元服した姿は)誰が見てもこれ以上ないくらいに
美男(びなん)となっていました。
この日、野田屋狐助(のだやこんすけ)が来ました。
玉二郎が元服をしたことですし、ついでに嫁さんをお世話しましょうと
初午(はつむま)の稲荷祭(いなりまつり)を幸いに
玉二郎を連れて行きました。


(補足)
前頁の最後の文章には続きを表す記号「X」がありますが、この頁の先頭は「つゝき」となってます。

「この日」の後に続く「の多゛やこん春け」がしばらく理解できませんでした。
読みに間違いがないはずと、前後を読み比べ、「き多り」が「来たり」だろうとわかると、不明の部分は人の名前とやっと納得。初心者は辛い。

次にもっとわからなかったのがここ、「者つむ満のい奈りまつり」。
基礎的な語彙が不足しているのが理由とあとで思い至りました。
「い奈りまつり」はそのままで「稲荷祭」。
「者つむ満」が悩んだ。「者つ」と「む満」に分かれるだろうと気づくのにこれまた時間がかかりました。そういえば「む満」は「馬」や「午」のことだったと思い出せば、あっそうか「初午」だとわかった次第。恥ずかしく情けぬ。

 で、ググってみると、芭蕉の俳句にこんなのがありました。
「はつむまに狐のそりし頭哉」
ついでに蕪村「初午や物種うりに日のあたる」、
子規に「初午や土手は行来の馬の糞」、
龍之介に「初午の祠ともりぬ雨の中」、
「初午」は初春の季語なので、大抵の人は俳句で用いているのですね。

「玉二郎」がこの前段では「多満二郎」となっています。
いつもながら変体仮名の使われ方が不思議。

 赤い角盆にのってるものが気になります。
お吸い物と白っぽいのは香の物で青いお皿はこれは稲荷揚げかな。



2020年5月4日月曜日

豆本 狐の嫁入 その3




 P.1

(読み)
こゝ尓玉 やふく
ここにたまやふく

ゑもんときつ
えもんときつ

ね奈可まの大
ねなかまのだい

ぶ个゛ん尓てせ可゛連を○
ぐげ んにてせが れを


○玉 二郎 とて
 たまじろうとて

十  五さひ
じゅうごさい

尓奈りし可
になりしか

バ个゛んぶく
ばげ んぷく

をさせ个る
をさせける

尓よく☓
によく



(大意)
ここに玉屋福右衛門と狐仲間である大分限の倅で
十五歳になり元服したばかりの玉二郎というものがおりました。


(補足)
「大ぶ个゛ん」、分限(ぶげん)。お金持ち、富者。財産家。
「せ可゛連」(せがれ)、変体仮名「連」はいろいろ形を変えますが、これくらいならすぐわかります。

「奈りし可バ」、「り」が小さくて「し」が二文字分くらいあります。
「个゛んぶく」、「ぷ」ではなく「ぶ」と濁点です。


 玉二郎は煙管を手に、扇子で顔を隠し恥ずかしがっている娘さんに何やら熱い視線を投げかけています。娘さんは一瞬にしてほの字の様子。

 前回の豆本より、こちらの絵のほうが人物の腰から下の線がやわらかで色気があります。
裾を足先だけだしてタップリ引き下ろしているのも美人画錦絵の手法。



2020年5月3日日曜日

豆本 狐の嫁入 その2




 見返し

(読み)
狐  の嫁 入
きつねのよめいり


(大意)



(補足)
 前回の表紙もこの見返しも文字が楷書です。

見返しのこの絵、奥に松、手前は藁のこも巻きのようにも見えますがさて何でしょうか?


2020年5月2日土曜日

豆本 狐の嫁入 その1




 表紙

(読み)
村 井静 馬 著
むらいしずま ちょ

狐  の嫁 入
きつねのよめいり


(大意)



(補足)
 前回の「きつねの嫁入」は堤吉兵衛が編輯出板人の豆本でしたが、
今回のものは明治9年御届で著者は村井静馬、出版は小森宗次郎です。

 表紙はお決まりの構図。
背景は赤一色の中に花は薄桃色の桜でしょうか。
ふたりのスキのないオシャレっぷりいいですねぇ。
男の左手のところに毎度頭にくるラベルが貼ってあります。
桜の枝でももっているのでしょうか。気になります。


表紙と色見本。




2020年5月1日金曜日

豆本 きつねの嫁入 その13




 奥付

(読み)
定價 壹錢
御届明治十八年四月丗日 吉川町
編輯出板人  堤吉兵衛


(大意)



(補足)
 江戸時代からの版画の流れは、(多色摺)木版画・銅版画・石版画など時代が下るにつれその方法は多岐にわたるようになりました。

 この明治18年の豆本は色鮮やかで発色もよく、またどの頁にも色ズレがありません。
豆本の木版の場合はどこかに必ずといってよいほど色ズレがあるものなのですが、この豆本には認められません。木版摺りではないのかもしれません。

 定価は1銭でこれ以前に出版されていた木版摺りだろうとおもわれる豆本は1銭5厘でしたから、値下げになっています。物価は上がっているのに安価で手に入るようになっています。印刷工程の変化によるためではないかとも推察されます。

 お玉の初恋が成就し、玉のような男子を授かり、一家親類栄えるという
誠にめでたいお噺でありました。


裏表紙。