2018年11月5日月曜日

紙漉重宝記 その87




P.34 半紙裁切図 5行目〜8行目


(読み)
右 の足 尓て踏 付 左   の手に
みぎのあしにてふミつけひ多゛りのてに

鎌 を持 て、これを多ち切る也
可まをもちて、これをたちきるなり

是 を十 可さ年一 〆 とし天
これをじっかさねひとしめとして

六 〆 合 せ一 丸 と成し
ろくしめあハせひとまると奈し


(大意)
右足で踏みつけ、左手に鎌を持ち、これを裁ち切る。
この一束を十束重ねたものを一締めとして、
それを六締めあわせたものを一丸として


(補足)
「足」、わかりずらいです。
「踏」、「足」「水」「口」から成り立ってますが、うーん・・・。
「鎌」、「金」偏はよいとして、「兼」がわかりずらい。
「年」、くずし字は「○」のようになります。とても特徴的なくずし字です。

 文中では「左の手に鎌を」とありますが、絵図では右の手に持っています。
木工などでこういった加工の経験がある方ならすぐにわかるとおもいますが、
こういった作業は台木の右辺を使って行います。

 つまり、左足で踏みつけ右手に鎌を持ち(左手で裁ち切られる端部分を持ち)、裁ち切る。
しかし、右手と左手が交差して作業しづらいのです。
そこで左手に鎌を持ち、右手で落とす部分を持ち、断ち切れば問題はありません。
なのですが、昔から刃物はほとんどすべてが右利き用に作られており、この作業は大変に難しかったはずです。鎌でなく包丁なら片刃が両刃を選べばもう少し現実的になります。

 台木の右辺にこだわらず、正確な作業をするには台木の左辺を使うとよさそうです。
絵図のままです。右足で踏みつけ右手で鎌を持ち左手で落とされる部分を持つ。
作業の流れもよく合理的で安全な流れとなります。

 重宝記説明文のとおりですと、右手があいてしまうことになります。しかし端を落とす紙を持たねばならないので、この右手は必ずその部分を持っていなければなりません。こうすると左右の手が交差することになり、作業はしにくくなります。

「日本農書全集53」の注には「本文のように左手で鎌を持って切るには、きわめて巧みな者しかできなかったであろう」としてますが、わたし自身は単に重宝記筆者の勘違いだろうと考えてます。
左手で切ることも可能だったでしょうが、左右の手が交差すること、当時も今も刃物は右利き用に作られていることなどから、どこの紙漉き農家でも行われるには左手に鎌を持っての作業はありえません。

 半紙を裁ち切るには、結論はこの絵図の通りということになります。

0 件のコメント:

コメントを投稿