2020年7月31日金曜日

的中地本問屋 その48




P.17



P.17 上段後半

(読み)
可いてもセ起
かいてもせき

こんできて
こんできて

さつき可らまつて
さっきからまって

いる尓者やく
いるにはやく

く多゛セへいヤ
くだせえいや

ま多゛とぢま
まだ とじま

せ奴といふ尓
せぬというに

とぢるハこつ
とじるはこっ

ちでとぢよふ
ちでとじよう

可らそのまゝで
からそのままで


五十三次 馬士の哥袋 十返舎作 全五冊出来
     まごのうたぶくろ

夷曲春ゞれ艸 同集 全二冊
いきょくすずれくさ

同東日記 千秋菴撰 十偏舎集
どうあずまにっき 



(大意)
買い手もあせってきて
さっきから待ってるんだ、はやくくだせえ
いえ、綴じてませんのでと言っても
綴るのこっちで綴るからそのままで


(補足)
「セ起こんで」、咳き込むの方ではなく急き込むで、あせって、気持ちがせいて。
ここでは変体仮名「起」(き)を使っていて、このすぐ左の行では平仮名「き」を使ってます。いつもながらなんか納得しません。行き当たりばったり気分次第で使い分けていそう。

「者やくく多゛セへ」、同じ「く」でもずいぶん形が異なります。後のは「乙」そのもの。
「や」もいろいろでカタカナ「ヤ」もまじります。


 店先の宣伝垂れ幕(紙)もにぎやかで売り込んでいます。
それぞれの書籍の内容はネットで検索すると出てきますのでお調べください。

 「曲」のくずし字が、一筆書きのように左の縦線からはじまり、「リ」の2画目から左回りにくるっとまわって下部で「一」。彫師もたいしたもんです。


店頭の日除けには「栄邑堂」(えいきゅうどう)「◯◯町」(日本橋中橋松川町か?)

箱看板には「さうしとんや」「◯村 本問屋」


 店先の殺気立った賑わいをみると、文章にあるように摺ったままの紙と表紙、綴じ糸をそのままひと組にして販売していても不思議ではありません。




2020年7月30日木曜日

的中地本問屋 その47




P.17



P.17 上段前半


(読み)
むら多のさうし
むらたのそうし

大 ひやう者゛ん
だいひょうば ん

尓てミセさ起
にてみせさき

尓ハ人 の山 を
にはひとのやまを

奈しさ春可゛
なしさすが

多くさん尓
たくさんに

志こん多゛る
しこんだ る

さうしミ奈
そうしみな

うりきれて
うりきれて

しまい
しまい

可いてをも
かいてをも

ま多して
またして

おいてとぢる
おいてとじる

やら志多てるやら
やらしたてるやら

大 さ王起゛
おおさわぎ



(大意)
村田屋の草紙は大評判で
店先は人の山となった。
あれほどたくさん仕込んであった草紙はみな
売り切れてしまった。
買い手をまたしておいて綴るやら
仕立てるやら
大騒ぎ。


(補足)
「ら」「う」「可」の区別はなかなか難しいです。
「むら多のさうし」、の「ら」「う」はほとんど同じです。文脈の前後の流れや意味から読み取るしかありません。

いつもながら「ミ」は、2,3画目がつながってます。

「さ春可゛」、現在では期待にたがわずや予想通りという意味で使われています。ここではあれほどの、の意味。

「志こん多゛る」、「こ」の形が上からのつながりがはっきりしているのでわかりにくい。

「とぢるやら志多てるやら」、最初の「や」と後の「や」(は「ゆ」にみえる)の形がことなっていて何度か前後を読んでわかりました。





2020年7月29日水曜日

的中地本問屋 その46




P.16



P.16 中段

(読み)
「いゝ多本゛可゛
 いいたぼ が

こうひつ
こうひっ

者゜つ多ら
ぱ ったら

まんざら
まんざら

でもある
でもある

めへ可゛
めえが

おヤぢ
おやじ

多゛と
だ と

おもつ
おもっ

てそふ
てそう

つれ奈くハセ奴もの多゛
つれなくはせぬものだ


(大意)
「いいタボがこんなふうに引っ張ったら
まんざらでもあるめいが、
おやじだとおもって
そうつれなくはしないものだ


(補足)
 出だしから?です。
「いゝ多本゛可゛」、「多本」(たほ)なのか「多本゛」(たぼ)なのか、少しかすれているのでわかりません。「たほ」で調べてもなし。「たぼ」だとありました。日本髪の後ろに張り出した部分をそういえば「たぼ」というのでした。それから派生して「若い婦人」や「酌婦」とあります。

 上段でも「者゜」(ぱ)の◯がくっきりでした。先端が丸い彫刻刀を使って彫ったようにまん丸になってます。

「おもつて」、この「も」はとても「も」とは読めません。最後の右に持ち上がる部分がすべて左に流れてしまっています。


P15P16見開き



 村田屋売り子、左足先は反り返り、右の手のひらはやめてくれーと言わんばかりにすっかり広がってしまってます。歌舞伎の見得を切ったところみたいです。

 新年で皆さんのウキウキ感が伝わってきます。
子どもを左肩にのせています。
残念ながらたぼは見えませんが、若い女性と男の人が右手で指差し何やらうれしそうにおしゃべりしています。

 売り出し日の街なかの様子の一コマでしょうけど、それにしても人物描写が上手だなぁ。



2020年7月28日火曜日

的中地本問屋 その45




P.16



P.16 上段

(読み)
やうゝ ひ起
ようようひき

春゛つてくると
ず ってくると

あと可らいや
あとからいや

まづこつちの
まずこっちの

本うへさ起へ
ほうへさきへ

きてく多゛セへと
きてくだ せえと

志きり尓ひつ
しきりにひっ

者゜るあつち
ぱ るあっち

こつちと一尓ち
こっちといちにち

ひつ者゜り多゛こ尓
ひっぱ りだ こに

こまり者てる
こまりはてる

くらひ尓て
くらいにて

志こミどんと
しこみどんと

志こんである
しこんである

ゆへあし可ぎり
ゆえあしかぎり

こん可ぎり尓
こんかぎりに

ゑどち うへ
えどじゅうへ

おろして
おろして

まハる
まわる


(大意)
なんとか引きずってくると、後ろの方から
いや、まずこっちの方へ先に来てくだせえと
しきりに引っ張られる。
あっちこっちと一日中引っ張りだこで困り果てる
くらいだったが、仕込みはどんと仕込んであるので、
脚のつづく限り、根のつづく限りに
江戸中へ卸してまわった。


(補足)
「ひつ者゜る」「ひつ者゜り」、半濁点「゜」がはっきりついて「ぱ」です。
大きな看板の左側に書いてあるのは、変体仮名を知らないと読むのは無理です。
変体仮名そのままだと「春川本゜ん」となって「すっぽん」です。「゜」がくっきりはっきりの◯。

「あつちこつちと」、今でもそのまま使っている「あっちこっち」。
「一尓ち」、「一」が漢数字の「一」と読めるのにしばらくかかった。
「ひつ者゜り多゛こ」、いつ頃から使われているかはしらないけれど、現在でも日常的に使われてます。

「あし可ぎりこん可ぎり」、「こん」と読むのに悩みました。でも「可ぎり」があるので、「脚の続く限り」ときたら「根」しかありませんので、「こ」とわかった次第。まだまだ初心者です。


大看板の右側は簡単。「江戸前」「大蒲焼」、次はちょっとなやむけど「附めし」。わざわざ看板に書いてことわるのだから、他店では蒲焼を注文するとお皿に蒲焼だけが出されたということでしょう。

大看板の輪郭は、定規を使って正確に丁寧に描いてます。
その左側のすだれは、定規を使ってるようですけど、流して自然な線にしています。
定規を使うにしてもちゃんと線を描き分けています。



2020年7月27日月曜日

的中地本問屋 その44




P.15



P.15 下段

(読み)
「多つ多今 おいてい可しつ多
 たったいまおいていかしった

そ者゛可らもふ志゛起尓うれて
そば からもうじ きにうれて

志まつ多可ら奈んでも
しまったからなんでも

あり多け可いましやう
ありたけかいましょう

こつちへきて
こっちへきて

く多゛され
くだ され


これハむ多い
これはむたい

奈まづこゝ
なまずここ

を者奈し
をはなし

てくん奈
てくんな

セへ
せえ

いま尓
いまに

まいり
まいり

ま春
ます


(大意)
「たった今、置いて行った
そばから、もうすぐに売れてしまったから
なんでもありったけ買いましょう。
こっちへ来てくだされ。

 これは無体な。
まずここを離してくんなせえ。
いまに、参りますって。


(補足)
「おいてい可しつ多」、置いて行った、でしょうけど、当時の言い回しかそれとも今でも使われているかもしれません。

 時代劇のテレビの一場面のようです。
くだけた口語体の会話ですが、現在とさほど変わりません。

 本屋さんの左腕をとって引っ張っているおじさんの動きの描写の見事なこと。
左足先がそりかえり、力がこもっている様まで描いています。
何度も引っ張ったのでしょう、着物の前がはだけてます。左袖口を二重線で描き、厚みを出しています。

 引っ張られている村田屋売り子はうれしそう。
やはり左足先がそりかえり、草鞋の裏を見せて、これまた力がこもっています。




2020年7月26日日曜日

的中地本問屋 その43




P.15



P.15 上段後半

(読み)
い多゛てんのまもり
いだ てんのまもり

のお可げ尓てゑど
のおかげにてえど

ぢ うを可けあるき
じゅうをかけあるき

个る尓さ起ゞ の
けるにさきざきの

本んヤ尓ても
ほんやにても

可うと
かうと

じ起尓
じきに

うれて
うれて

志もふゆへ
しもうゆえ

セりの
せりの

てやいの
てあいの

あとを
あとを

おつて
おって

あるきこつ
あるきこっ

ちへきてく多゛セへと
ちへきてくだ せいと


(大意)
韋駄天のお守りのおかげで
江戸中をかけ歩いた。
立ち寄った先々の本屋でも
仕入れるとすぐに売り切れてしまうので
売り子たちの
あとを追って歩き、
こっちへ来てくれと


(補足)
「まもり」、「ま」が変体仮名「満」ではありません。
「ゑど」、字面から「江戸」がうかびません。

終わりから2行目3行目に
「おつて」
「あるき」が並んでいます。
「お」と「あ」が「丶」があるかないかの違いであるのがよくわかります。


 競りの格好が正月だからでしょうか、股引をはいています。
でも足は素足みたいでこれじゃ冷えてしまいます。



2020年7月25日土曜日

的中地本問屋 その42




P.15



P.15 上段前半

(読み)
さうしうり多゛しの日ハ
そうしうりだ しのひは

セりのてやい尓
せりのてあいに

い多゛てんさ満のまもり
いだ てんさまのまもり

をも多セてい多゛し个る尓
をもたせていだ しけるに

さく可゛ことの外 よく
さくが ことのほかよく

で起个るゆへうれる
できけるゆえうれる

本ど尓 ゝ      志よつて
ほどに(うれるほどに)しょって

でるとうつてゝ
でるとうってうって

まい日 尓ハいく
まいにちにはいく

どゝ奈く可へつてハ
どとなくかえっては

志よい多゛しゝ
しょいだ ししょいだし


(大意)
草紙売出しの日は
(草紙をしょってる)売り子たちに
韋駄天様のお守りをもたせて
送り出した。
草紙の作がことの外良い出来であったので
売れれば売れるほど(戻って)背負って出た。
売って売って、毎日幾度となく帰っては背負いだし


(補足)
 草紙が出来上がり部数もそろえて、いよいよ発売日です。
◯に村の字の屋号が入った、背負子には山のように草紙が積まれています。
実際、本屋さんはこのような箱に本を入れてそれぞれの卸やお店、個人宅へ販売していたようです。

文章は連綿と区切りなく、「〜し个る尓」や「〜尓」でひたすら息切れせずつないでいきます。


「セりのてやい」、「競り」(せり)。「競りにかける」「競りに出す」。売ること。「てやい」は連中、仲間。

「韋駄天」、御存知走りの神様、とてつもなく速い。天ぷら屋で注文したお馬鹿さんがいたそうな。

 草紙の売出しは新年正月と決まっていました。
正月の楽しみの一つであったことは確かです。