P4 国立国会図書館蔵
(読み)
[次 ゟ]
つぎより
古ゝハ
ここは
かち\/
かちかち
や満
やま
奈りと
なりと
いゝ◯
いい
(大意)
ここは
かちかち山であると言う
(補足)
「古ゝハ」、変体仮名「古」(こ)は何度も出てきています。小さい「十」+「い」のようなかたち。
「や満」、この二文字でひとつの文字のようにみえます。
うさぎの着物の柄がくねくねと大変に細かい。この柄に合わせて色を置くのが億劫になったのか、青紺を適当に配色した感じです。
P4 国立国会図書館蔵
(読み)
[次 ゟ]
つぎより
古ゝハ
ここは
かち\/
かちかち
や満
やま
奈りと
なりと
いゝ◯
いい
(大意)
ここは
かちかち山であると言う
(補足)
「古ゝハ」、変体仮名「古」(こ)は何度も出てきています。小さい「十」+「い」のようなかたち。
「や満」、この二文字でひとつの文字のようにみえます。
うさぎの着物の柄がくねくねと大変に細かい。この柄に合わせて色を置くのが億劫になったのか、青紺を適当に配色した感じです。
P3後半 国立国会図書館蔵
P2P3
(読み)
□か多きをとつて志ん
かたきをとってしん
ぜませ うとうさぎたぬ
ぜましょうとうさぎたぬ
きのや満へ由きたぬき尓
きのやまへゆきたぬきに
志者゛をせをハせうしろ
しば をせおわせうしろ
よりかち\/ひをうち可
よりかちかちひをうちか
け連ハたぬきいまの△
ければたぬきいまの
△おとハ
おとは
なんのおと
なんおおと
奈りときけバ[次 へ]
なりときけば つぎへ
(大意)
かたきをとってしんぜましょうと
うさぎはたぬきのいる山へ行き
たぬきに柴(しば)を背負わせ
うしろから火を打ち掛けると
たぬきが「いまの音は何の音か」と
きくと
(補足)
「ひをうち可け」、変体仮名「可」(か)は平仮名「う」とかたちがそっくりなのがわかります。
P2P3見開きにすると床の色が異なってしまっています。こんなに大きいところの色おきなのにとあきれてしまいますが、豆本を見ているとこれもまたよくあることです。摺師との連絡が不十分だったのかしてなかったのか・・・おもいっきり色違いになってしまいましたが、摺りそのものはまぁまぁです。
P3前半 国立国会図書館蔵
(読み)
[一 ゟ]
いちより
尓げさりけりぢゞ王
にげさりけりじじは
おとろき可なしみいたる
おどろきかなしみいたる
ところへうさぎ起たり
ところへうさぎきたり
志じ うをきゝ
しじゅうをきき
王たくし可゛□
わたくしが
(大意)
逃げ去りました。ジジは
驚き悲しんでいる
ところへうさぎが来て
事の経緯をきき
わたくしが
(補足)
「可なしみ」、変体仮名「可」がかすれていて「つ」にみえてしまいます。
「志じう」、最初「事情」かとおもったのですが(それでも意味は通じるので)、「じじょう」を「志じう」と表すのもおかしいので、あっそうかと「始終」と気づきました。お恥ずかしい。
爺の赤の縞柄はどうみてもやっつけ仕事。淡黄色の着物はしっかり描いているのに・・・
P2 国立国会図書館蔵
(読み)
[次 ゟ]
つぎより
といてやれバ由だ
といてやればゆだ
んをみ春まし者゛ゞを
んをみすましば ばを
しめころし者゛ゞ尓春
しめころしば ばにす
可゛たをへんじて志る
が たをへんじてしる
をこしらへいるところ
をこしらえいるところ
へぢゞ王かへりかの志る
へじじはかえりかのしる
をく王せ者゛ゞあくつた
をくわせば ばあくった
ぢゞいだ奈可゛しの本
じじいだなが しのほ
ねをみろといゝ
ねをみろといい
つゝたぬきと
つつたぬきと
奈つて[二へ]
なって にへ
(大意)
(縄を)といてやると油断を
見きわめて、ババを絞め殺し
ババに姿を変えてしまいました。
汁をこしらえているところへ
ジジが帰り、あの汁を食わせ
「ババアを食ったジジイだ。
流しの下の骨を見てみろ」と
言いつつ、たぬきとなって
(補足)
文章の背景が半分赤く読みづらいこともありますが、文章じたいも数度目を上に下にしないと読めません。
なぜかこれだけの長さの文章なのに、変体仮名「多」(た)は使われてなくすべて平仮名「た」。
「ぢゞ王かへり」、「王」は「ハ」でしょうけど、まぁまぁあることです。
ババは着物の裾を引きずるような着こなしです。当時家の中ではご婦人たちは着物を引きずるように着るのが普通だったようです。また帯の閉め方も前帯が多かったとあります。そして立膝になっています。これも当時の家の中での絵などを見ると男性は胡座でしたがご婦人たちはこのような立膝で座ることもあったようです。
P1後半 国立国会図書館蔵
(読み)
者゛ゞにむ可い
ば ばにむかい
むぎをつくてつ
むぎをつくてつ
だいをいた春可らハ
だいをいたすからは
な王をといてくださいと
なわをといてくださいと
たのみけれバ者゛ゞハ
たのみければば ばは
な王を[次 へ]
なわを つぎへ
(大意)
ババにむかって
麦を搗(つ)く手伝いをしますから
縄をほどいて下さいと
頼むのでババは
縄を
(補足)
土壁の表面のむらが本物のようで上手。文字も見やすい。
「むぎをつくてつだいを」、「く」の下半分の一部が欠けているのでその下の「て」とつながり変体仮名「者」のように見えてしまいます。よくわからないときは前後を繰り返し読むしかありません。
変体仮名「多」は使われずにすべて平仮名「た」です。
たぬきの色がぼんやりして顔の部分を拡大するとババに話しかけているようです。
ババの右手といい、裸足の右脚といい、妙にリアルです。襟や帯は紺色で塗りつぶれてしまいそうですが模様がきちんと描かれています。
P1前半 国立国会図書館蔵
(読み)
「む可し\/ ぢゞと者゛ゞと
むかしむかしじじとば ばと
ありしときたぬ
ありしときたぬ
きを尓王尓志者゛りおき
きをにわにしば りおき
者゛ん尓志るに志ろと
ば んにしるにしろと
いゝつけてやまへ
いいつけてやまへ
由きけるあと
ゆきけるあと
尓てたぬきハ
にてたぬきは
(大意)
昔むかしジジとババが
暮らしていたときのことです。
たぬきを庭に縛りおいて
晩に汁にしてくれと
言いつけ山へ行ってしまいました。
その後、たぬきは
(補足)
いつもながら、背景が赤だと文字が読みにくい。
「尓王尓志者゛り」、変体仮名だらけです。「者゛ん尓志るに志ろ」もですが、平仮名「に」もあります。
絵はよく描けているとおもうのですが、摺師のうっかりが目立ちます。杵の上半分が背景の赤になっていたり、家の土壁の上の柵の青がいまひとつです。
表紙 国立国会図書館蔵
見返し
(読み)
かち\/山
かちかちやま
東京圖書館印 TOKIO LIBRARY
明治二一・七・三0・内交・
(大意)
略
(補足)
「か」は平仮名だとおもっていたのですが、よく見ると変体仮名「加」のようです。
この表紙も実に手がこんでいます。衣装は縞柄などの単純なものではなく、いろいろな文様が細かく描かれています。うさぎのはちまきにも背景の白の点々がついでとばかりにおかれています。
豆本をアップしだした数年前は右側の色見本と定規もこのようにいっしょに画像にしていたのですが、久しぶりに横に添えてみました。縦横120mm×80mmとこんなに小さいのです。
手にしてその大きさを実際に感じたく、和紙に印字して豆本の複製を制作しました。綴じも和綴じです。手のひらにスッポリ収まってしまうくらいに小さく、お話の文章の文字もこんなに小さいのかと驚く一方、それを彫った彫師にもうなりました。
見返しファンですので、赤い丸印二つは悲しい限り・・・
P10 国立国会図書館蔵
(読み)
よ飛゛だし
よび だし
ゑひたい
えいたい
とのさ満より
よのさまより
ふちをいたゞきたり
ふつをいただきたり
めで多し
めでたし
\/ \/
めでたしめでたし
明治廿一年七月十日印刷同年七月廿二出版
日本橋區馬喰町三丁目十番地
印刷兼発行者 小森宗次郎
(大意)
呼び出し
その後ずっと
殿様より
俸禄をいただきました。
めでたしめでたしめでたし
(補足)
赤が文章の背景だと読みづらい。
「よ飛゛だし」、変体仮名「飛」(ひ)は、かたちが派手なので覚えやすい。かたちに特徴のある変体仮名のほうが読み外すことは少ないようです。
「ゑひたい」、えいたいと読めてもなんだろうと不安です。辞書で「永代」とあり、なるほどと。変体仮名の超初心者から初心者ぐらいにはなったという自覚はあるのですが、読めても意味がわからないと不安になるのです。
平仮名「た」と変体仮名「多」(た)が混在しています。
ふすまと座布団の花がらはおそろいでしょうか。
奥付が本文の隅にあります。節約したのでしょう。「七月廿二出版」と「日」も節約してしまいました。
P9下段 国立国会図書館蔵
(読み)
△
とのさまの
とのさまの
め尓も者い
めにもはい
りし可バ
りしかば
古王ろうぜ
こわろうぜ
きとひどく
きとひどく
おやぢをと
おやじをと
りまきし
りまきし
尓おや
におや
ぢハい
じはい
つくへ尓にげうせ
つくへににげうせ
たり古れ尓よつて
たりこれによって
志よ ぢきぢゞ以を
しょうじきじじいを
[次へ]
(大意)
殿様の目にも入ってしまって
これは狼藉(ろうぜき)と
おやじのまわりをしっかりと、とり囲み
おやじはどこかへと逃げ失せてしまいました。
このことにより
正直爺を
(補足)
「とのさまの」、「と」が「Z」に「ヽ」のようで、悩みます。「の」の上部が薄く欠けているように見えてすぐ左の行の「い」と間違えそう。
「古王」、ともに変体仮名。学んでないとまず読めません。
「いつくへ尓」、「く」は「し」にも見えます。「へ」の最後が跳ね上がってますが、違う仮名でしょうか。
小森宗次郎の人物の顔は歌舞伎の浮世絵の影響がこいのか、どの顔をみなしまってみえます。
P9上段 国立国会図書館蔵
(読み)
[四ゟ]
しより
のきよい尓
のぎょいに
おやぢハその
おやじはその
者ゐをまく尓
はいをまくに
いづれもともび
いずれもともび
とのめくち尓
とのめくちに
者いり者なを
はいりはなを
さくところ
さくところ
で
で
なくは
なくは
てハ△
ては
(大意)
仰せに
おやじはその灰をまいたところ
いずれもお供の目や口に入り
花を咲かせるどころ
ではなくなり
ついには
(補足)
文章の背景が赤だと読みづらくなります。
「のきよい尓」、読みにくい上、読めても「きよい」?と悩みます。
「いづれもともびと」、ふたつめの「も」がわかりずらい。
「はては」、平仮名「は」はあまり目にしません。
殿様の袴に白で柄をいれているところが、なかなかであります。
P8下段 国立国会図書館蔵
(読み)
△をさ可せるおやぢ
をさかせるおやじ
なりといへバ
なりといえば
志可れハ者奈を
しかればはなを
さ可せみよと[五へ]
さかせみよと ごへ
(大意)
(花)を咲かせるおやじででございます
と言うと
それならば、花を咲かせてみよと
(補足)
着物の縦縞でからだの動きを描いているのがうまいものです。籠(かご)からこぼれた灰を描くのはなかなか悩むところだとおもうのですけど、いとも簡単にサラッとすましているところがなんとも・・・、白い部分は紙のもともと色で黒い三角の点を散らし、薄茶色を加えているだけ。
「志可れハ」、変体仮名「可」(か)はたくさん使われています。かたちは「う」とそっくりか同じかたちです。
P8上段 国立国会図書館蔵
(読み)
[次ゟ]
とふざの
とうざの
本うび尓い多
ほうびにいた
だきける
だきける
それをよく者゛り
それをよくば り
ぢゞ以ミてその者い
じじいみてそのはい
を春古しもらいかれきへ
をすこしもらいかれきへ
の本りまつうち尓との
のぼりまつうちにとの
さまおとうり尓奈りし
さまおとおりになりし
をさい王い王れハ
をさいわいわれは
かれき尓者奈△
かれきにはな
(大意)
その場で褒美にいただいたのでした。
それをよくばりじじいが見ていて
その灰を少しもらい枯れ木へ
のぼり待っていると
殿様がお通りになるのを
これ幸いと
わたしは枯れ木に花(を咲かせる)
(補足)
「とふざの」、当座ですが、普段使っているのは② しばらくの間。当面。や、③ (あることから)しばらくの間。一時(いつとき)。や、⑤ 「当座預金」の略。です。しかし一番最初に① その場。即座。即刻。とありまして、これを採用しました。
「と」のかたちが意外と変化にとんでいて、読むのに悩まされます。
「ぢゞ以ミて」、カタカナ「ミ」の3画目が流れて「え」にみえてしまいます。
「春古しもらい」、簡単そうに見えてちょっと悩む箇所。
「おとうり尓」が「おとふり尓」ではなく、「とふざの」が「とうざの」でないのでややこしい。
正直爺さんが登った木はさくらのようでしたが、よくばりじじいのは背後の赤い幹を見ると松のようで、これに花は咲きませぬ。
P7 国立国会図書館蔵
P6P7見開き
(読み)
[三ゟ]
ぎよい尓その
ぎょいにその
者ゐをまくと
はいをまくと
たちまちいち
たちまちいち
めん尓者なの
めんにはなの
ひらき
ひらき
け
け
連バ
れば
との
との
さま
さま
おやし
おやし
き尓●
きに
●
よんで
よんで
そ古バく
そこばく
可袮[次 へ]
かね つぎへ
(大意)
おおせどおりに
灰をまくと
たちまち一面に花が咲きました。
殿様はお屋敷に爺を呼び
たくさんのお金を
(補足)
「ひらきけ連バ」、変体仮名「連」が変体仮名「春」(す)にみえます。
「そ古バく」、辞書に① いくつか。いくらか。② 多数。多く。たいそう。はなはだ。そくばく。とあり、ここは②を採用。
P6の下部に紫(殿様の羽織と同色)の柵のような図柄やP7の背景にも同じようなものがあります。絵の隙間を雲のようなもので埋めるのは日本の伝統的な手法です。赤がたっぷりと使われていますが、これは明治赤といわれるもの。江戸後期より明治になって高価な赤の原料が外国から輸入されるようになって爆破的に広まりました。
P6 国立国会図書館蔵
P6P7見開き
(読み)
[次ゟ]
ぢゞ以尓て
じじいにて
候 といゝけ連ハ
そうろうといいければ
志 うらハ
しゅうらは
者なを◯
はなを
◯さ可してミよ
さかしてみよ
との[四へ]
との しへ
(大意)
じじいでございますと答えると
殿様たちは花を咲かせてみよ
との
(補足)
「候」のくずし字は、ここでは逆さ「N」のようなかたちですが、古文書などでは頻繁に使われるのでたくさんのかたちがあり、もっとも簡単なのが「ゝ」のような点で表されることもあります。
「志うらハ」、三河衆や若い衆のしゅう。
「さ可して」、変体仮名「可」(か)は平仮名「う」とほとんど同じかたちです。
文中「かれき」とありますが、その幹をとても丁寧に描いていて、どうやら桜の幹のようです。木の幹をここまで丁寧に写実的に描いているのはめったにありません。
P6P7見開きは爺さんの視点にから俯瞰している絵となっていて、遠近や奥行き感が出ています。
左下の殿様たちの後ろにあるのは殿様の籠(かご)。
P5 国立国会図書館蔵
(読み)
[二ゟ]
により
とのさ満おとふり
とのさまおとうり
王れハ奈尓もの
われはなにもの
なるとたづ袮△
なるとたずね
△しに王たくしバ
しにわたくしは
かれき尓者な
かれきにはな
をさ可せる
をさかせる
[次 へ]
つぎへ
(大意)
殿様がお通りになり
あなたは何者であるのか
と尋ねるので
わたくしは
枯れ木に花を
咲かせる
(補足)
P4P5は見開きになっています。頁の左枠外中央下に丁合の「三」があるとおり、P5とP6が三丁で一枚の紙に摺られているはずです。P4P3は二丁ですのでことなる紙に摺られていますが、P5とP4は同じような色合いで丁寧に摺られていて同じ摺師の仕事のように見受けられます。
残念ながら、生け垣の隙間をすけて見える部分の婆さんを描くまでのことはしていません。しようとおもえば、いとも簡単にやってのけるぐらいの技量はあるにきまってますが、そこは1冊1銭5厘の豆本、それほど手をかけられません。
「奈尓ものなると」、同じ「な」でも変体仮名と平仮名、おなじ音(おん)を表す方法が何通りかあるのならば表現の幅を広げようとしているかのよう。次の行の平仮名「に」と変体仮名「尓」も同様。
P4 国立国会図書館蔵
(読み)
[次 ゟ]
つぎより
奈きふんのいでし可者゛おこりてう春をもしてしまい
なきふんのいでしかば おこりてうすをもしてしまい
たるをしよ ぢきぢゞいきゝてお本い尓
たるをしょうじきじじいききておおいに
なげきその者
なげきそのは
いを
いを
もら
もら
い天
いて
ざる尓
ざるに
入
いれ
かれき尓
かれきに
の本゛り
のぼ り
いるところへ
いるところへ
そのところの
そのところの
[三 へ]
さんへ
(大意)
(きた)ない糞が出てきたので怒って
臼を燃してしまいました。
そのことを正直爺(じじい)は耳にして
大変に嘆いたのでした。
その灰をもらいうけ、笊(ざる)に入れて
枯れ木にのぼっているところへ
その国の
(補足)
「その者いをもらい天」、「もらい」とよみましたが、間違っているかもしれません。
この頁は仕上がりも上々です。臼にむしろを敷いているのがなかなか細かい。爺さんはたすき掛けならもっとそれらしくなったかもしれません。左利きの構えで杵(きね)を握っているのは絵師の約束事のようで、この構えで右利きにすると左手が前にきてしまって、顔や体全面が隠れてしまうからでしょう。
P3後半 国立国会図書館蔵
(読み)
◯け連ハあま
ければあま
たの可袮の
たのかねの
いでしを可
いでしをか
のよく者゛り
のよくば り
者゛ゞア
ば ばあ
み天▲
みて
▲ま多その
またその
う春みてかり由き
うすみてかりゆき
もちをつきける尓きた[次 へ]
もちをつきめるにきた つぎへ
(大意)
(餅をつく)と、たくさんの
お金が出てきたのを
あの欲張りババアが見ていて、
また、その臼を借りて行き
餅をついたところ
きた(ない)
(補足)
「け連ハ」、変体仮名「連」(れ)がちょっとわかりにくい。
「可のよく者゛り者゛ゞアみ天」、変体仮名「可」がずいぶんとくだけています。変体仮名「天」(て)がお手本のよう。次の「みて」は平仮名になってます。
小森宗次郎の豆本の人物の顔かたちは面長です。なのでちょっと現在の漫画や劇画の人物のよう。
P3前半 国立国会図書館蔵
(読み)
[一 ゟ]
いちより
し可バ者ら
しかばはら
たち
たち
いぬ
いぬ
をころし
をころし
ける志よ じき
けるしょうじき
ぢゞ以これをきゝて
じじいこれをききて
お本い尓なげきその
おおいになげきその
いぬを本うむりし尓
いぬをほうむりしに
そのよ可のいぬ由めま
そのよかのいぬゆめま
くら尓たち本ふむり阿る
くらにたちほおむりある
可たハらのまつのきをう春尓
かたわらのまつのきをうすに
こしらへもちをつけとみし
こしらへもちをつけとみし
由へさつそくう春
ゆえさっそくうす
をこしらへもち
をこしらえもち
をつき◯
をつき
(大意)
(犬の糞が出てきた)ので、腹が立ち
犬を殺してしまいました。
正直じじいはこれをきいて
大変に悲しみ、その犬を葬ってあげました。
その夜、あの犬が夢枕に立ち
葬ったそばの松の木で臼を
つくり餅をつけという夢をみて
さっそく、臼をこしらえて
餅をつく
(補足)
「そのよ可のいぬ由めまくら」、変体仮名「可」が「る」に見えないこともありませんが、「そのよ/可のいぬ/由めまくら」と区切ります。
犬に殴りかかる岡っ引きのような格好で紺の縦縞、裏生地の赤が引き立ちます。婆さんの驚いた様子や、勢いよく犬に向かう態勢が上手。
P2 国立国会図書館蔵
(読み)
[次 ゟ ]
つぎより
本りし尓あま
ほりしにあま
たのた可らのいでしを
たのたからのいでしを
となりのよく者゛り
となりのよくば り
者゛ゞアみ天その
ば ばあみてその
いぬを
いぬを
可り
かり
由きいぬのたちどまり
ゆきいぬのたちどまり
たるミてそのとこ◯
たるみてそのとこ
◯ろを本り
ろをほり
ける尓いぬ
けるにいぬ
のくそ
のくそ
の
の
いで[二へ]
いで にへ
(大意)
掘ったところ
たくさんの宝物が出てきたのを
隣の欲張りババアが見ていました。
その犬を借りて行き、犬の立ち止まった
ところを掘っていみると
犬の糞が
(補足)
この小森宗次郎の豆本シリーズは書肆屋さんに並ぶことなく、おそらく初稿を図書館に納品したようにおもわれます。文字の角がたっていて画面全体の色も鮮やかですし、なにより摺り上がったばかりの勢いが感じられます。
「次ゟ」、「ゟ」(より)は合字。「よ」と「り」をつなげてかいて一文字にしたもの。
「者゛ゞアみ天」、変体仮名「天」(て)は変体仮名「久」(く)とかたちがほとんど同じです。
犬の後足まわりに、赤をおいたときに飛び散ってしまったような跡があります。摺師が分業して赤担当の摺師の腕がいまひとつだったのか?
P1 国立国会図書館蔵
(読み)
本つたん
ほったん
む可し\/
むかしむかし
あるい奈可尓
あるいなかに
志よふ
しょう
じき
じき
なる
なる
ぢゞあり
じじあり
ひ古゛ろいぬを王可゛
ひご ろいぬをわが
古のごと久可王い可゛り
このごとくかわいが り
けるあるひそのいぬ
けるあるひそのいぬ
志きり者ぢを本る尓ぞぢゞいも●
しきりはじをほるにぞじじいも
●とも尓そのとこ
ともにそのとこ
ろを[次へ]
ろを つぎへ
(大意)
はじまりはじまり〜
むかし昔、ある田舎に正直な爺(じじい)がいました。
日頃、犬を我が子のようにかわいがっていました。
ある日、その犬が何度も端を掘るので
爺もいっしょにそのところを
(補足)
「本つたん」、発端とわかるのにしばらくかかりました。講談師がパシッと卓をたたいてはじめるかのよう。
「志よふじき」、「じ」がよく読めなくて、ここも正直とはすぐにわかりませんでした。
「可王い可゛り」、同じ変体仮名「可」なのにかたちがまったくことなります。
鋤の刃の部分と犬の柄の3色とが同じ色合いで丁寧ですし、爺のみなりの仕上がりもとてもきれいにできています。他の部分もほぼ完璧といってよいのに、赤だけが乱れているのはどうしてなのでしょうか。珊瑚の赤ははみだし、色こぼれして枠線をはみだし、爺の袖口や帯の部分も荒い。
表紙 国立国会図書館蔵
見返し
(読み)
花 咲 ぢゝ以
者奈さき
はなさきじじい
東京圖書館印 TOKIO LIBRARY
明治二一・七・三0・内交・
(大意)
略
(補足)
小森宗次郎の表紙の背景はこのシリーズではみな同じと以前の豆本のときもかきました。ここでも麻の葉模様のようなひとでのような文様は同様です。背景の木版は同じ型を使っているのかどうかがふと気になりました。前にアップした豆本2冊とこの豆本の3冊を見比べてみました。吸盤のような白い丸を目安に調べると、3冊ともことなっていてどうやら同じ背景の模様でも彫っていたようにもみえますが、摺ったあとに筆で描き加えていたのかもしれません。
木に登って灰をまく爺さんの顔ところちょうどにラベルを貼られてしまって、いやはやなんとも・・・
役者絵は見事、手を抜いている箇所などひとつもありません。
裏表紙 国立国会図書館蔵
(読み)
なし
(大意)
なし
(補足)
長谷川武次郎のちりめん本ではよく裏表紙にこのような影絵のような、または高座で芸人がみせる切り紙のようなものをのせています。木版の絵の細かさもさることながら、このような切絵じたででもひとつひとつの微細なこだわりは徹底していて、そのこだわりゆえ、見る者に見えない部分の想像をたくましくさせます。足元のかすかなうすい緑色は芝地でしょうか。
1900年のCalendarの裏表紙です。
こちらは摺師がぼかしの技をくしして、遠近をだし、なおかつ足元や躍る人々から立ち上る熱気をかもしだしています。
どちらもすばらしい。
P9後半 国立国会図書館蔵
(読み)
能丸 石 可゛ごろ\/と、ころ
のまるいしが ごろごろと、ころ
げて前へ傾(可多む)く其(その)拍子(ひようし)尓、狼 盤
げてまえへ かたむ く その ひょうし に、おおかみは
池 へのめ里こみて、ブクブクと沈(しづ)ミ个れ盤゛、
いけへのめりこみて、ぶくぶくと しず みければ 、
親子(おやこ)の山羊ハ走(者し)里い天゛、池 のほと里尓うち集(つど)ひ、
おやこ のやぎは はし りいで 、いけのほとりにうち つど い、
掌(て)をうち躍(をどり)里て喜(よろこ)びしと楚゛、めで多し\/ \/
て をうち おどり りて よろこ びしとぞ 、めでたしめでたしめでたし
(大意)
(腹の中)の丸石がゴロゴロと
ころがって前へ傾き、その拍子に狼は
池へのめり込んでブクブクと沈んでしまいました。
親子の山羊は走り出して、池のふちに集まり
手をたたいて踊り喜こんだとのことでした。
めでたしめでたしめでたし
(補足)
池に落ちた狼の水の描き方は、左側は跳ね上がる水しぶきと腰回りの水のうねりは浮世絵のお家芸といってもよいでしょう。
何度か出てきている変体仮名「能」(の)はかたちが特徴的なので一度おぼえたら忘れません。
「走(者し)里い天゛」、変体仮名「天」(て)は変体仮名「久」(く)とほとんどかたちが同じです。
「躍(をどり)里て」、振り仮名「り」と「里」がダブってしまいました。
P9前半 国立国会図書館蔵
(読み)羊五終
奈尓やら石(いし)でも
なにやら いし でも
者い川ている
はいっている
ような、こゝろ
ような、こころ
もちが春ると、
もちがすると、
ひとりごと越いひ
ひとりごとをいい
な可゛ら、喉(のど)可゛か者く
なが ら、 のど が かわく
とみえて池(いけ)尓い多利、水
とみえて いけ にいたり、みず
をのまんとして、前(まへ)
をのまんとして、 まえ
へかゞみし尓、腹(者ら)の中
へかがみしに、 はら のなか
(大意)
なにやら石でも
入っているような気分がすると
ひとりごとをいい
ながら、のどが渇いたと
みえて池へゆき、水を
飲もうとして前へ
かがむいたところ、腹の中の
(補足)
「な」の変体仮名が使われることはあまりなかったようにおもわれます。
「者い川ている」、変体仮名「川」(つ)は促音の「っ」なのですが、大きい「つ」のまま。
「こころもちが」、お手本のような「が」の次の次の行には「な可゛ら、喉(のど)可゛」と、変体仮名「可゛」(が)で、両者共存です。
左の子山羊の顔がどこか人間っぽい。
P8 国立国会図書館蔵
(読み)
ハテ吾(おれ)盤
はて おれ は
たしか尓山羊(やぎ)
たしかに やぎ
の子を久ひ多流尓
のこをくいたるに
(大意)
はて、おれは
たしかに山羊の
子を食ったはずだが
(補足)
ここの「に」は変体仮名「尓」で、英字筆記体小文字の「y」のかたち。
平仮名「た」と変体仮名「多」の両方が使われています。
山羊の母の手は偶蹄目なのでそのままのかたちがです。子山羊たちの顔をよく見ると一疋いっぴき表情をかえています。かわゆい。でも6疋しかいません。残る2疋は次の頁です。
一番右の子羊のしっぽと左端の草むらが枠からはみ出しています。漫画雑誌で枠からはみ出して描かれることがあります。とびだす感じや迫力感などの表現のためでしょうけど、明治中期はやくもそれらのさきがけでありましょうか。
羊の白の色は塗ってある色ではなく紙の色そのものです。つまり線描画なのですが、羊のからだのいろやフサフサ感を感じるのは絵師や摺師・彫師の腕なのでしょう。水彩画のような摺りでさっぱり感がよいです。
P7下段仕掛けを開いたところ 国立国会図書館蔵
(読み)
めのさ免
めのさめ
ぬうち
ぬうち
もとの
もとの
通(とほ)り
とお り
ぬひ
ぬい
合(あ者)せ、
あわ せ、
こ可
こか
げ尓
げに
かくれ
かくれ
みてあ
みてあ
連バ、や
れば、や
可゛て狼
が ておおかみ
ハ目を
はめを
さ満し、
さまし、
(大意)
目のさめぬうちに
もとの通り縫い合わせ
木陰の隠れて見ていると
やがて狼は目をさまし
(補足)
狼の腹の中から出てきた子ヤギたち、数えてみるとちゃんと7疋でした。逃げた子山羊はニコニコうれしそうですけど、母親は怒っているのもあってチト怖い顔。
仕掛けの紙の裏側に腹の中の子ヤギたちがいろうつりしてしまっているようにみえます。よく乾かないうちに貼ってしまったためでしょうか。
この頁では「ミ」はすべて「み」でした。
P7上段後半 国立国会図書館蔵
(読み)
し、アゝ奈ん多゛か
し、ああなんだ か
真暗(まつくら)なところで
まっくら なところで
あ徒多、といひ奈がら
あった、といいながら
母 の旁(そば)へよらん春る越、
ははの そば へよらんするを
母 盤こどもら尓いひつ
はははこどもらにいいつ
けて、丸石(まるいし)を多 くあつめ
けて、 まるいし をおおくあつめ
させて、狼 の者ら尓徒めこみ、
させて、おおかみのはらにつめこみ
(大意)
(とび出)し、あぁなんだか
真っ暗なところで
あった、と言いながら
母のそばへよってくるのを
母は子どもたちに言いつ
けて、丸い石をたくさん集め
させ、狼の腹に詰め込み
(補足)
「よらん春る越」、今ではこのような言い回しは使われてないとおもいます。
「奈ん多゛か」「いひ奈可゛ら」、変体仮名「奈」(な)があまり出てこないなとおもっていたらつづけて出てきました。
P7上段前半 国立国会図書館蔵
(読み)羊ノ四
山羊(やぎ)の母 き多り目能
やぎ のははきたりめの
さ免ぬよう、志づ可尓
さめぬよう、しずかに
鋏(者さミ)尓て其(その)腹(者ら)をきり
はさみ にて その はら をきり
ひら个ば、七 疋 の
ひらけば、しちひきの
子山羊ヒヨイ
こやぎひょい
\/ ととび出(い多゛)
ひょいととび いだ
(大意)
母はやって来ました。目の
さめぬよう、静かに
鋏でその腹を切り
開けば、7匹の
子山羊はひょい
ひょいととび出し
(補足)
腹一杯で眠りこけている狼がかわいらしい。
「目能」、へんたいがな「能」(の)は特徴的なかたちなので、一度覚えてしまえば次からが必ず読むことができます。
母親の衣服がどことなくしまりがありませんが、絵師がなれてないからかもしれません。