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(読み)
む可し\/ ぢゝと
むかしむかしじじと
者゛ゞありしと起
ば ばありしとき
多ぬきを尓わ尓志者゛り
たぬきをにわにしば り
おき者゛ん尓志る尓しやうと
おきば んにしるにしようと
いゝつけ
いいつけ
や満へ
やまへ
ゆきける
ゆきける
(大意)
むかしむかしじじとばばがおりましたときのことです。
たぬきを庭にしばっておきました。
晩の汁にしておいてくれといって
(じじは)山へ行きました。
(補足)
絵のタッチが小林英一郎のものとはまったく異なっているのが一見してわかります。
小林英一郎画は太い黒線で輪郭をはっきりさせ、色は均一に鮮やかであります。
佐藤新太郎画は輪郭線はササッとなでるように細く、色は薄めのものをそっとおいている感じ。
前者がこってりなら、後者はさっぱり。両者ともに味があります。
「と起」がすぐにはわかりませんでした。「起」はすぐにわかったのですが「と」がわかりません。
「多ぬきを」、「ぬ」が「ね」にみえます。
ここからはかすれているせいもあると言い訳がましく「尓わ尓志者゛り」、最初の「尓」が「あ」と読み違えると迷路に入ります。「志」は大丈夫。前後と意味がつながるように何度も音読してようやく納得。なかなか初心者から抜け出ることができませぬ。
「者゛ん尓」、ここの「尓」のように、ほとんど筆記体英字の「y」のかたちも多い。
「しやうと」、「や」が小さく、この「や」と次の「う」が一文字のように見えてしまってあれこれ悩む。「う」が「ろ」にも「る」にも見えます。「と」がかすれてこれまた悩みます。
「や満へ」、変体仮名「満」(ま)です。
絵の構図が小林英一郎のものと背景をのぞいてほとんど同じです。たぬきの縛られ吊り下げられている様など重ねられるくらい。
小林画では麦を臼と杵でついてましたが、佐藤画では石臼で挽いています。
また小林画のほうは柱や桟など真っ直ぐなところは定規で描いたかのように一直線、佐藤画は手書き感ただよいたよりありませんが全体としてボロ屋の雰囲気が増しています。
これからたぬき汁にするババの表情がうれしそうで優しい、「これから汁にするからいい子にしていてね。美味しく食べますから・・・」