2021年2月16日火曜日

豆本 金太郎一代記 その3

P1

(読み)

こゝ尓

ここに


王ら

わら


ゑり

えり


阿し

あし


から

がら


や満の

やまの


をく尓

おくに


ひとり

ひとり


のや満うバ

のやまうば


あり

あり


(大意)

ここに微笑んでいる

足柄山の奥に

ひとりの

山姥がおりました。


(補足)

 彫りも摺りもだいぶくたびれていて鮮明さにかけます。この豆本は明治十八年六月一日が御届になっています。豆本は同じ題名で異なる画工が出版していますから、国立国会図書館デジタルアーカイブで「金太郎一代記」を検索してみました。いくつかありましたが、驚くことにほぼ同じものを見つけました。これです。

 こちらは「御届明治十三年十二月十日 画工竹内栄久 出版人宮田幸助」ですので、佐藤新太郎のものより約5年はやく出版されています。比較すると、色や絵柄は変えていますが、構図はほぼ重なるくらいに同一で文章はまったくおなじです。竹内版をもとに薄い和紙を重ねて写しとったものでしょう。江戸時代の出版業界では編集人が版権を売って草双紙などを引き続き発行し続けることはよく行われていたようですから、この豆本も佐藤新太郎が出版人宮田幸助から版権を購入して出版したとしか考えられません。また佐藤新太郎はこの豆本を出版したとき(明治十八年六月一日)に同時に約10冊も出版しているのです。すでに出版されている豆本の版権を購入して出版するのならば同時に10冊近くもの出版をすることも可能だったかもしれません。佐藤新太郎としては復刻の気持ちが強かったのでしょうか、たった約5年後とはいえ、このときにはもう腕の良い画工・彫師・摺師がみつけられなかったのか、ふたつの豆本の質の差は歴然です。


変体仮名「王」(わ)は「已」のような形。

「ゑ」は変体仮名「志」(し)にそっくりです。

「阿しからや満」、「か」と「や」がにています。

竹内版の山姥の横座りの佇まいの品の良いこと、そして妖しさがなんとも・・・

後ろの黒雲にのる赤き龍は・・・

 

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