2024年1月21日日曜日

人間一生胸算用 その62

P27P28 国立国会図書館蔵

P27

(読み)

京  伝 ハむ次郎 可゛から多゛の中 三 百  六 十  の本袮\/を多つ袮しと

きょうでんはむじろうが からだ のなかさんびゃくろくじゅうのほねぼねをたずねしと


ころ尓あ多満の

ころにあたまの


すて川へんひよめきのあ多り尓心  可゛まこ\/してゐ多るをミつけもとの

すてっぺんひよめきのあたりにこころが まごまごしていたるをみつけもとの


む年の所  へつれ可へらんとせしに又 候 さ起多゛つてのぜん多満しゐあらハれいて

むねのところへつれかえらんとせしにまたぞろさきだ ってのぜんたましいあらわれいで


つけ个るやうハ可ういふ事 尓奈らんと思 ひし由へ京  伝 をから多゛の中 へ

つげけるようはかういうことにならんとおもいしゆえきょうでんをからだ のなかへ


入 於き多りそれ孟子(もうし)もせいハ善(ぜん)奈りといひて天 可らうミ付 多る

いれおきたりそれ   もうし もせいは  ぜん なりといいててんからうみつけたる


心  ハミ奈よき心  奈りされとも於のれ\/ 可心  の由るミより

こころはみなよきこころなりされどもおのれおのれがこころのゆるみより


きといふものうこき出し目くちミゝ者奈手あし尓い多るまで

きというものうごきだしめくちみみはなてあしにいたるまで


こころのげちをうけ須゛このやうにく尓可゛ミ多゛るゝ奈り

こころのげちをうけず このようにくにが みだ るるなり

(大意)

 京伝は、無次郎の体の中、三百六十の骨々を探し訪ねたが、頭のてっぺんもてっぺん、ひよめきのあたりに、心がうろうろしているのを見つけた。もとの胸のあたりに連れ帰ろうとしたが、またまた、先だっての善魂があらわれ出て、告ごとを述べた。

「こんなことになるのではおもったから、京伝を体の中へ入れ置いたのだ。孟子が言う。性は善なり。天から生み出された心は、もともとみな善き心である。しかしながら、一人ひとりの心のゆるみより、気というものが動き出し、目口耳鼻手足にいたるまで、心の指図を受けず、このように国(体)が乱れるのだ。

(補足)

「ひよめき」、『ひよめき【〈顋門〉・〈顖門〉】〔ひよひよと動く意から〕乳児の泉門(せんもん)』

 縦長の字数が多い文章は読みにくとおもいきや、行替えで文章の区切りが少ない分、かえって読みやすくもなります。

 京伝かしこまっている左側に、鉦太鼓とバチがあるのが笑えます。

 

2024年1月20日土曜日

人間一生胸算用 その61

P25P26 国立国会図書館蔵

P26

(読み)

「まへこの\/  無次郎 可゛

 まいごのまいごのむじろうが


心  やアイ〽チキチャンチキ

こころやあい ちきちゃんちき


チャンドコドン

ちゃんどこどん


これハし多り

これはしたり


これてハミぶきやう个゛んの

これではみぶきょうげ んの


ひやうし尓奈累

ひょうしになる


「あしのつ満

 あしのつま


さき可ら

さきから


せ奈可あ多り

せなかあたり


まて二三 へん

までにさんべん


多つ年多可゛

たずねたが


ミへ袮へ

みえねえ


「無二郎 可゛

 むじろうが


可けて尓けるさふで

かけてにげるそうで


此 く尓可゛がうぎ奈

このくにが ごうぎな


ちしん多

じしんだ


「こゝらハ

 ここらは


すし可゛

しじが


於ゝくて

おおくて


あるき尓くひ

あるきにくい


さつまいも尓

さつまいもに


すると

すると


いつ可う多゛

いっこうだ

(大意)

「迷子のまいごの無二郎の心やぁ〜い。チキチャン、チキチャン、ドコドン。これはしくじった、これでは壬生狂言の拍子だ。

「足の爪先から背中あたりまで、二三べんさがしたが、みつからねぇ。

「無二郎が駆けて逃げてるようで、この国(中)がひどい地震だ。

「ここらは筋が多くて歩きにくい。さつまいもだとしたら、ひどいできだ。

(補足)

「いつ可う多゛」、「一向、『全くひどいさま。「こつちらは―なものだ,とんだねき物(=売レ残リ)だ」〈洒落本・通言総籬〉』」。

 山東京伝の頃には、人体解剖図や漢方の経絡などの人体図はありましたが、この絵のような神経(索)や筋肉の腱のような紐状の絵はどうだったのでしょう。なかなか医学の先取りをした絵なのかもしれません。

 

2024年1月19日金曜日

人間一生胸算用 その60

P25P26 国立国会図書館蔵

P26

(読み)

かの京  伝 ハ右 の

かのきょうでんはみぎの


志ゞ うをとくとミて

しじゅうをとくとみて


ゐ多りし可゛思 ふやうハ王れ思 ハ須゛も

いたりしが おもうようはわれおもわず も


志者゛らくこの可ら多゛をすミ可と奈し

しば らくこのからだ をすみかとなし


こと尓とも多゛ちの無二郎 可゛可ら多゛の

ことにともだ ちのむじろうが からだ の


事 奈れバい可尓もきのとく奈事 也

ことなればいかにもきのどくなことなり


志可しい个んをし多い尓ハ

しかしいけんをしたいには


とう人 の可ら多゛の中 尓ゐる

とうにんのからだ のなかにいる


於れ奈れハそれも

おれなればそれも


でき

でき


須゛これハまつ多く

ず これはまったく


心  可゛心  のゐ所  尓いぬ

こころが こころのいどころにいぬ


由への事 奈りと

ゆへのことなりと


可年多いこ尓て

かねたいこにて


心  の由くへを多つ年る

こころのゆくへをたずねる

(大意)

 かの京伝は、右の始終をすべて見ていたのだが、思うには「われおもわずも、しばらくこの体をすみかとし、ことに友達の無二郎のからだのことなれば、いかにも気の毒なことである。しかし、意見をしたくとも、当人の体の中にいるのがおれであっては、それもできず、これはまったく心が心の場所にいないからなのだ」と、鉦太鼓をならして、心の行方を尋ねる。

(補足)

「きのとく奈事也」、ここの「也」のくずし字は三画目の半円部分だけが残った感じ。

京伝、無二郎が体の中をさまよう絵はまさに、ミクロの決死圏。

 

2024年1月18日木曜日

人間一生胸算用 その59

P25P26 国立国会図書館蔵

P25

P26

(読み)

P25

「つまらぬもの多゛ミん奈のざ満をミ多可゛

 つまらぬものあ みんなのざまをみたが


いゝ目のよるところへざ満可゛与るとハ

いいめのよるところへざまが よるとは


この事 可

このことか


「ミゝ可゛いふこれ志川可尓

 みみが いうこれしずかに


者奈しやれ可べ尓も

はなしやれかべにも


於れといふ事 可ある

おれということがある


手「於らァい川そ

て おらぁいっそ


てん本゛うまさむ年可゛所  へてま尓

てんぼう まさむねが ところへてまに


P26

でも者いらふ

でもはいろう

(大意)

「なんてこった。みんなのざまを見るがいい。目のよるところへざまがよるとはこの事か。

「耳が言う、これ、静かに話せ。壁におれということがある。

手「おらぁいっそ、てんぽう正宗のところへ弟子にでもなるか。

(補足)

「目のよるところへざ満可゛与る」、「目のよるところへ玉がよる」のもじり。類は友を呼ぶ。

「てん本゛うまさむ年」、「てんぼう」は『てんぼう【手ん棒】〔「てぼう」の転。棒のような手の意〕指や手首から先のないこと。』。師匠の技を盗もうとして片手を切り落とされた刀工の失った片手に手がなろうとしたのか。

 

2024年1月17日水曜日

人間一生胸算用 その58

P25P26 国立国会図書館蔵

P25

P26

(読み)

P25

口 可゛いふ

くちが いう


「於らァいつそもとでを

 おらぁいっそもとでを


くめんしてち川と

くめんしてちっと


き多ねへ可゛こま

きたねえが こま


ものミせでも

ものみせでも


多゛すべい

だ すべぇ


「ナニサ飛゛く\/

 なにさび くびく


さ川しやん奈

さっしゃんな


うしろ尓やア

うしろにゃあ


此 者奈可

このはなが


飛可へて

ひかえて


いる

いる


「あし可いふ

 あしがいう


こんやハとん多゛

こんやはとんだ


さふひ者ん多゛

さぶいばんだ

P26

多ひを可ふつて

たびをかぶって


くれハよ可つ多

くればよかった


於れもこれ可ら

おれもこれから


かゝとで

かかとで


きんちゃくでも

きんちゃくでも


きらねハ

きらねば


ならぬ

ならぬ

(大意)

口が言う、「おらぁ、いっそ、もとでを工面して、ちっときたねぇが、小間物店でもだすべぇ。

「なにさ、ビクビクしなさんな。うしろにゃ、この鼻がひかえている。

「足が言う、今夜はとんだ寒い晩だ。足袋をかぶってくればよかった。おれもこれから、かかとで巾着を切らねばならぬ。

(補足)

「こまものミせ」、汚物を吐く、ゲロをする。

「ナニサ」、十二月もみえる。

「さふひ者ん多゛多ひを可ふつてくれハよ可つ多」、濁点がないので何度か読まないと理解できません。

「きんちゃくでもきらねハ」、スリのこと。

 パッとしない言い回しが続きます。

 

2024年1月16日火曜日

人間一生胸算用 その57

P25P26 国立国会図書館蔵

P25

(読み)

きハぐ川と王るき尓

きはぐっとわるきに


奈り手尓いひ付 て

なりてにいいつけて


あるよひそ可尓

あるよひそかに


その可年を

そのかねを


ぬすミ尓やりし可゛

ぬすみにやりしが


志そく奈川て

しそこなって


ミつけられ个れハ

みつけられければ


ぐ王いふん王るく

が いぶんわるく


無次郎 可から多゛

むじろうがからだ


いまハ町  内 尓

いまはちょうないに


ゐら連須゛

いられず


てん\/尓志よ

てんでんにしょ


どうぐを

どうぐを


もちあしめ尓

もちあしめに


ま可せ天

まかせて


よ尓け尓

よにげに


し多るぞ

したるぞ


う多て个れ

うたてけれ

(大意)

 すると、氣は悪心(あくしん)がぐぐっともたげ、手に言いつけて、ある夜、ひそかにその金を盗みにやったが、しそこなって見つけられてしまったため、外聞悪く、無次郎の体は今は町内にいることができなくなってしまた。皆てんでに身の回りの荷物を持ち、足にまかせて、夜逃げしてしまってなんとも情けないことである。

(補足)

「志そく奈川て」、仕損って(しそこなって)ですけど、こんな言い回しもしたのかも。

「う多て个れ」、「う多て」は『転〔「うたた」の転〕(形動ナリ)情けない。いとわしい。「―なりける心なしのしれ者かな」〈宇治拾遺物語•2〉』などとありました。

「てん\/尓志よどうぐをもち」、鼻は傘、目は箒に籠、手は下駄、氣は菅笠、足は行灯、耳と口は風呂敷を背負っています。いろいろ思案するも当人たちと持ち物に洒落はなさそう、まったくの手当たり次第。

 

2024年1月15日月曜日

人間一生胸算用 その56

P25P26 国立国会図書館蔵

P25

(読み)

かくてお者゛の所  で可りし可年も

かくておば のところでかりしかねも


あしと手可゛らり尓して

あしとてが らりにして


志まひ个れど尓くひとて

しまいけれどにくいとて


あし手をき川ても

あしてをきっても


すてら連須今 ハ

すてられずいまは


せん可多奈くいろ\/

せんかたなくいろいろ


志あんしてゐる所  尓

しあんしているところに


此 ころきん所 てとミを

このごろきんじょでとみを


と川多る事 をミゝ可゛きゝ出し

とったることをみみが ききだし


その可年をうけとる所  を

そのかねをうけとるところを


目可見て可へり个れハ

めがみてかえりければ

(大意)

 かくて、叔母のところで借りた金も、足と手が無駄使いしてしまったが、憎くもありながらも、足と手を切ろうにも捨てられず、今は致し方なく、いろいろ思案していた。ちょうどそこへ、最近、近所で富くじを当てた人がいると耳が聞きつけ、その金を受け取った家を目が確かめ帰宅した。

(補足)

「らり」、「らり 【乱離】(名•形動)「乱離骨灰(らりこつぱい)」の略。「鐘供養踊り子が来て―にする」〈誹風柳多留•9〉」とあり、「らりこっぱい ―こつぱひ 31【乱離骨灰・羅利粉灰】(名•形動)めちゃめちゃになる・こと(さま)。さんざん。乱離。「こいつめが亭主を―にしやあがる」〈滑稽本・東海道中膝栗毛•発端〉」とありました。

「此ころ」、ここの「こ」は変体仮名「己」(こ)でしょうか。